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鉄と真鍮でできた指環 《2》 ~ネクロマンサーの秘薬~  作者: とり
 第4幕 ネクロマンサーの秘薬(ひやく)
33/68

31.ひとみしり




   〇前回のあらすじです。 

   『和泉いずみたちが、魔術師まじゅつしおとこホゴルが【ゾンビパウダー】を使用しようした疑いをつよめる』






 (よる)になった。

 昨日きのうチェックインした宿屋(やどや)【スターダスト】の食堂しょくどうで、和泉(いずみ)たちは夕食(ゆうしょく)っている。

 先日はおそい時刻に到着とうちゃくしたためか、みせにほかの(きゃく)はなかったが、いまはぽつぽつ、カウンターや窓際まどぎわのテーブル席に、軽食(けいしょく)ものをついばんでいる人たちがいる。

 ちぎった固焼きの麺麭ぱんを、和泉はビーフシチューにひたしてくちにほうりこんだ。

 よくみもせずにみこんでから、対面たいめんのウォーリックにぼやく。

「やっぱ。領主(りょうしゅ)のホゴルとって、(はな)しをしないことには駄目だめかな」

()えればいいですけどね」

「そっか……」

「なにか問題が?」

「オレは人見知(ひとみし)りなんだよ」

「奇遇ですわね。わたくしもです」

「……」

 和泉(いずみ)物申ものもうしたい表情ひょうじょうで、ウォーリックのましたかお凝視(ぎょうし)した。

 が。相手(あいて)はさっさと食事しょくじをすすめるばかり。


 (みず)んで、和泉いずみは気を取りなおす。ほかの客に聞かれるのを気にして、声をひそめる。

「大体、ゾンビパウダーって。……オレはいまだに眉唾まゆつばなんだけどな」

「【(おもて)】のかたは、大概そう言いますわね」

 和泉(いずみ)が元々いた世界――とりわけその出身しゅっしん地たる日本(にほん)では、ゾンビパウダーの記述(きじゅつ)すくない。

 あったとしても、(ぼう)大陸南部(なんぶ)民族宗教(みんぞくしゅうきょう)(はぐく)んだ、生者せいじゃを仮死状態(じょうたい)にしてあやつるくすりというていどだ。

 ウォーリックはスティックサラダをつまんでかじりつつ。

「【(うら)】にだって、もともとは存在していなかったんです。けれど。誰かが製法(せいほう)を持ち込んだ。そして魔法(まほう)技術ぎじゅつによる改良(かいりょう)を経て、死者(ししゃ)の復活という効果を実現した。蘇生後のは……。まあ()きですが」

「でも。その――。死人をどうこうするっていう死霊魔術(しりょうまじゅつ)は、禁呪(きんじゅ)だろ。倫理りんり的にまずいとかで」


 カラになった食器しょっきをわきにのけ、ウォーリックはテーブルにひじをついた。両手(りょうて)ゆびをからめて組む。

 ふっ。とはならして、彼女かのじょ硝子がらす(まど)やった。

 外は暗い。

「いちおうは。そうですね。と答えておきましょうか」

奥歯(おくば)にものの詰まった言いかただなあ」

「では。気のすむまで勝手におうたがいください。わたくしの意見がどうあれ、わたくしたちのやることに変わりはないのですから」

 和泉(いずみ)はむかっとしたが、文句もんくを言うより先にウォーリックが動いた。

 ニンジンの細切(ほそぎ)りをかじりながら、彼女かのじょは席を立つ。行儀ぎょうぎわるい。

 がちゃり。

 エントランスの扉が開くおとと共に、ぬるい外気が吹き込んだ。

 うすいストールを肩にいた(おんな)はいってくる。

 ここにあつまっているほかの村人(むらびと)のように()せてはいない。ほっそりとした身形(みなり)だが、血の色を()かしたはだは瑞々(みずみず)しく健康的。

 洋服ようふくは高価そうで、ドレスのうしろにながした黒髪(くろかみ)は、はしらの吊りランプのかりを受けてとび色につやめいていた。

 きょろ。彼女かのじょ食堂しょくどう見回(みまわ)した。

 テーブル席にふたりの魔術師(まじゅつし)みとめて、そちらに()かう。

 おんな――二十代(にじゅうだい)ほどのその可憐かれんむすめは、素朴そぼく町娘(まちむすめ)めいた笑みで、和泉たちを交互にた。


「貴族同盟(どうめい)のほうからられたかたたちですね?」

「はあ」

 和泉(いずみ)はウォーリックと目配(めくば)せして答えた。

 ウォーリックは、げかけていた腰を椅子いすにもどす。

「あなたは?」

 と。彼女かのじょおんなにたずねた。






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