30.おさけとたばこは・・・。
あけまして、おめでとうございます。
〇前回のあらすじです。
『魔術師の男エルリクが、墓場で見た事件について、女子生徒にはなす』
〇
杉林は閑散としていた。
道が、土からレンガ状のタイルに変わる。浅いでこぼこを避けるようにして、遠くの建物に続いている。
(ん?)
薄暗い木陰から、和泉は朝日の下に出た。
立札のそばに、長い黒髪の女子生徒がたたずんでいる。
「ウォーリック」
やっと見つけた。
とひと息ついて、彼女の背中に声をかけた。
「なんですか」
振りむいて、ウォーリックは怪訝な顔をする。
ぴたっ。
和泉は彼女の近くに揺蕩う煙に歩を止めた。
草っぱらに蛙みたいにへばりつき、落ちているものの正体を確かめる。
「こっ。これは……」
煙草の吸い殻を和泉はつまんだ。
まだ十七才の少女と、くちゃくちゃになったシケモクとを見比べる。
「先に言っておきますが――」
「いや。いいんだ。なにも言うな」
ぱっぱ。と自分の黒い法衣を叩いて汚れをおとし、深呼吸をする。
それから和泉は少女と向き合った。
「まあ……。あれだ。オレ個人の意見は、ともかくとしてだな」
「……あの」
「だいじょうぶだ。みなまで言うな」
「なにかあらぬ疑いをかけられているような気がして、わたくし大変不愉快なのですが」
「いいか。いちおうオレも、今回の付添いとして言っておくぞ」
まだ十代の女の子の肩を、ちょっと勇気を出して和泉はぽんぽん叩いた。
「たばこやお酒は、二〇才からだ」
めしょっ。
ウォーリックのハイキックが、和泉の顔面を穿った。
蹴られたいきおいのまま、グラリと和泉はうしろに倒れる。
「わたくしではありません。さっきまでそこにいたろくでなしが、捨てていったのです」
「ろくでなし?」
和泉は上体を起こした。
靴跡のついた顔をさすりつつ、立ちあがる。
ウォーリックが胸をそらす。
「通報を入れた方ですわ。【同盟】のほうに」
「ああ、なんだ。そういうことか」
ほっ。と和泉は安堵した。
拾ったついでで吸いガラを火の魔術で灰にする。土に還るかどうかは知らない。
「で。どうだった?」
「はあ?」
「こう。その人が『お仕事がんばって下さい』みたいなこと、言ってくれたのか?」
「ふふふ。あなたと話しをしていると、どんどん頭が悪くなっていく気がしますわね」
ブっとい血管をこめかみにぴくぴくさせて。ウォーリック。
数秒のインターバルをおいて、彼女は平静を取りもどした。
「……。和泉教授は、ここの領主が違法な薬物に手を出していると危惧されているのをご存じですか?」
「ああ」
旅立つ前日に、箔先生から見せてもらった書類。
その内容を意識しながら和泉は答えた。
「疑惑がほんとかどうか調べるのが、オレたちの役目だろ」
「そう。で。昨日、わたくしたちを襲った干乾びた鎧武者」
「なにが言いたいんだ?」
「先ほど、通報者がわたくしに、村の墓地で死体が動いているのを見たと告発して来ました。どこまで信じていいかはわかりませんが……。それはわたくしの好みの問題」
「うさん臭そうな相手だったってわけか」
ウォーリックはうなずいて。
「でも。彼の言っていたことが本当だとしたら」
真摯な少女の視線を受けて、和泉は固唾をのんだ。
死者が復活する薬は、魔術師のあいだでは禁じ手だが、名前だけは広範に知れ渡っている。
なかでも、最も有名かつ手軽な薬品が――。
「ゾンビパウダーか」
「おそらくは」
【表】――魔法のない世界では、生けるものを傀儡に変える毒物として。
魔術の実存する【裏】では、死者さえ蘇らせる秘薬として。
十五世紀以降に広まった、それは生ける屍を量産する呪法だった。
(『第3幕:生けるしかばね』おわり)
〇つぎの投稿は、説明用の文章になります。
内容は、『おやすみの予定』や『完結の時期』についてです。
(※説明用の文章は、読まなくても『本編の内容が分からなくなる』ということはありません)
読んでいただき、ありがとうございました。




