28.がけ
〇前回のあらすじです。
『和泉がリリンからマップを借りて、生徒を探しにいく』
〇
雑木林をぬけて、ウォーリックは土地の主のすみかに来た。
空は快晴。壮麗なお宮は、すばらしい景観のひとつに融和している。
タイルを張った通路に立札が立っていた。
『これより先。無断での立入りを禁ずる』
遠目からウォーリックは断崖の景色をながめた。
崖のはるか下方には、延々と広がる樹海がある。
つり橋は来る時に燃えてしまったので、この領地は事実上陸の孤島になっていた。
静かだ。
「おじょうちゃん。【学院】の人?」
ひとりの魔術師が歩いてきた。
小麦色の髪を丁稚の小僧みたいにみじかくした若い男だ。
背が高く、顔つきのたくましい男前だった。
静謐を破られたのと、知人の魔術師を思い出したのとでウォーリックは不快になる。
『彼』は聡明だった。そして畜生でもあった。もっとも、その人物とはもう会うことはない。決して。
近づきながら、男は質問を重ねた。
「それとも。【貴族同盟】の人?」
「【学院】の生徒であり、同盟から派遣されてきた魔術師ですわ」
志願をして。という内情は割愛した。
男――サマージャケットにジーンズすがたの見知らぬ男性は、少女の横に立つ。
そして彼女と同じ方角をみる。
ウォーリックは彼から一歩はなれた。
他人が自分と同じほうを向いているというのが、気持ち悪かった。
「きのう。宿をのぞいていたかたですわね」
「たまたまさ。あんたらが目的だったんじゃない。宿屋のまえに屯していた連中に、むかついてたのさ」
「なぜ。というか……」
そこでようやく、ウォーリックは自分が――。そして相手も、然るべき問いをしていないのに気づいた。
「貴方は?」
「エルリク」
男は答えた。
たばこのケースを上着の胸ポケットから出し、未成年者のそばで飲むかどうかもてあましながら。
「昔はちょっと、名の知れた家だったんだがな」
結局は一服すると決めたようで、ケースから抜いた煙草に、男――エルリクは、呪文を唱えて火をつけた。




