25.きのう
〇前回のあらすじです。
『使い魔のリリンが和泉をよびに来る』
テーブルには朝食が用意されていた。
ふたつにカットしたホットドッグに、夏野菜のサラダ。南瓜のスープ。ナッツ類。
食後にはコーヒーが出るらしい。
すでに食事をはじめていた主に、リリンは「遊びに行ってくる」と言って外にいった。
ピーナッツやクルミをつまみながら、「いってらっしゃい」とウォーリックが使い魔に手を振る。
「なあ」
和泉は席についた。食器を探す。
ひょい。とウォーリックが、籐の箱を差し出した。
そこからスプーンとフォークを取る。
「ありがとう。――あのさ。きのうどうだった?」
「きのう?」
「うん。夜なんだけど。なんもなかったか?」
「特には。――あっ。いえ、」
「なんかあったのか?」
「リリンとトランプしてました」
ずずーっ。と恨みがましい音をたてて、和泉はポタージュをすすった。
「そういうことを訊いてるんじゃないんだ。宿の外、うるさくなかったか。気づかなかったなら、それに越したことないけど」
「ああ……。村の人たちがしゃべっててわずらわしかったので、散開していただきました」
ウォーリックは合点がいったようだった。その手もとにあったナッツの小鉢が、からっぽになってしまう。
すでに出ていたコーヒーカップをとって、彼女はくちをつけた。
「そういえば。建物のあいだから、こちらをのぞいている人がいましたわね」
「なんっ……」
ホットドッグをかじるのを中断して、和泉は身をのり出した。
「のぞきかな。けしからんな……。ウォーリックを?」
「どうでしょう」
「じゃあ……」
和泉はとりあえずパンを咀嚼した。ゴックン。と飲みこむと、血のめぐりはじめた頭が新しい推測を立てる。
「オレを。か?」
「和泉教授? 相手は男の人みたいでしたが」
「だからといって油断できないんだ。最近は」
ウォーリックはとてもなにか言いたそうだったが、茶をすすってのみくだした。
和泉はもぐもぐやりながら、警戒心を強くする。自然。自分の身をかばうように、両腕をからだにまわす。
半袖のブラウスのかくしから、ウォーリックが袂時計を取り出した。竜頭のヘッドを押して蓋をあけ、怜悧な瞳で文字盤を睨む。
時刻は八時三十分を過ぎていた。
「今日の予定は決まっていますか」
「……。ノープラン」
「では。ここから先は別行動ということで。門限までには帰ってきますので、ご心配なく」
かたん。
ウォーリックが立ちあがり、椅子の背もたれにかけていた白マントを取る。
和泉はあわてて食事を胃に詰めこんだ。
「待ってくれよ。おま――。きみのコトは、箔からたのまれてんだからさ」
「あなたはごゆっくりどうぞ。いないほうが便利なので」
ふっ。
とウォーリックは鼻で笑った。
食堂と地続きになっているロビーにカギをあずけ、宿屋の出口をくぐる。
急いで朝食をのみこんで、和泉は女子生徒のあとを追い駆けようとした。
(っと。ネクタイ、法衣っ)
だだだだっ。
客室にそれらの服飾品を取りに、あわてて上階への階段を駆けあがる。




