24.ごはん
〇前回のあらすじです。
『魔術師の男が、宿のまえから立ち去る』
〇主人公に視点がもどります。
〇
和泉は寝返りを打った。
ベッドわきの窓から、白い覆い越しに燦々と朝日がそそぎ込む。
きのう、風呂にはいったあと、すぐに寝た。
それは【裏】に来てから、半強制的についた習慣だった。
この世界には、テレビもパソコンも無い。
必然的に、【表】にいた時に愛好していた動画もゲームもおあずけ。おかげで早寝早起きのクセがつき、やることが無いから仕事や勉強に身が入るものの……。
たまに。ものすごく。
【表】に残してきた娯楽への渇望が沸いてくる。
(誰かが、せめてゲームだけでも開発してくれたら)
【裏】の技術を使えば、デジタル機器も生産できる。が。法律上それが規制されているのが現状だ。
仮に【表】からの【転移】の際に持ち込まれてしまったとしても、すぐに没収されて、処分されてしまう。
サングラスをかけ、和泉は肌着のみの身体を起こした。
うんっ。と伸びをして、洗面所へ移動し、顔を洗う。シャツとスラックスに着替える。
ノックがした。知らない声といっしょに。
「おおい。きょーおじゅー」
客室のドアに出る途中で、和泉はほのかな魔力を感じた。
(ウォーリックの使い魔かな?)
波長がよく似ている。
術者によって認識の仕方はまちまちだが、ちからのパターンは、和泉には匂いとして知覚された。
ドアを開ける。十二才ほどの、ベレー帽をつけた女の子が廊下に立っていた。
主人と同じ黒髪だが、頭髪の長さはみじかく、すっきりと整えられている。
黄色いサロペットを黒いシャツの上に着た服装が、なんとも子供らしい。
彼女はニコッ。とあいさつをした。
「おはよう。和泉教授」
「おはよう。リリンだっけ」
「うん」
少女はうなずいた。階段のほうに親指をやる。
「ごはんだよ。メイが呼んでこいって」
「そっか」
上着とネクタイを後回しにし、和泉は部屋を出て施錠した。
リリンについて行き――。
胸のまえで、腕を組む。
「なんか悩みごと?」
「そんな大層なもんじゃないけど」
ぽつりと和泉はこぼした。
「おまえのご主人さまって。変なとこで面倒見いいよな」
「そう?」
そうだよ。とも言い返せず。
あとは黙って、ふたりは一階におりた。




