s1.ばばぬき
〇サイドストーリーです。
〇内容は、貴族の少女とその使い魔のはなしです。
〇1300字ほどです。
〇以上の点に抵抗のあるかたは、【もどる】をおすすめします。
※サイドストーリーは、読まなくても「本編の内容がわからなくなる」ということはありません。
これは、宿屋のまえに集まった村人たちが解散させられる、少しまえの話である。
〇
「あがり」
ぺぺいっ。
最後のペアをそろえて、リリンはテーブルの上に放り出した。
みじかくした黒髪に、黄色いサロペットすがたの少女である。
赤い瞳に〈サキュバスの娘〉を意味する名前は、いかにも悪魔めいているが、【裏】では現在、悪魔を召喚・服従させる術は禁じられている。
手元に残ったカードをウォーリックは見おろした。黒い長髪にブラウスすがたの、十七才の魔女。
リリンの主人である。
彼女はジョーカーを溜め息と共にテーブルに捨てる。
「今日は調子が出ませんわね。なにか細工でもしているのではなくて?」
「言いがかりはよしてよ。私が勝つのはいつもどおりでしょ」
椅子からリリンは飛びおりた。時計を確かめようとして、部屋にはそんなシャレたものはないのに気づく。
袂時計をウォーリックが出して、「もう九時まえですわ」とこぼした。
「そろそろ寝なきゃだね」
「もうちょっと遊んでからね」
「何回やっても、きみは私に勝てないと思うけどな」
言いつつリリンは椅子にもどった。
ウォーリックがカードをまとめて、切り出す。
「なんか……、」
ぱっ。ぱっ。ぱっ。ぱっ。
円卓にトランプの配られるなか。リリンは窓のほうを気にした。
ウォーリックも。聞こえていないわけではなかったのだが。
「村の人たちかな?」
外から人の声がする。息を潜めるように、ぼそぼそとした音。
カンに触る。
元より短気なウォーリックである。眠気もあって、イラついていた。
もちろん。負けが込んでいるという事情もある。
「注意する?」
「ほっときましょう。べつに、彼らに何かされるわけでもなし」
すチャッ。カードを構えて、ウォーリックは揃いの札を捨てていった。
同じように、リリンもほうっていく。
もう何戦目になるかは分からなかったが、宿に来て、乾パンの夕食を終えて、すぐに始めたゲームである。
二ケタは対戦しているはずなのだが。
「ねえ。メイ」
「……」
「あがり」
ぺいっ。とダイヤとスペードの2をリリンは捨てた。
無言でウォーリックが自分の札を落とす。
椅子から立ちあがる。
「ちょっと外の人たちを静かにさせてきますわ」
呪文を唱えて魔法のマスケットを生成し、片手に持って、窓へ向かう。
カーテンをシャあッと開ける寸前で、静止がかかった。
「やめときなって。やつあたりで無辜の民を狙撃したとあっちゃあ、どうひいきめにみても刑務所行きだよ?」
「……。……」
舌打ちして武器を消した。
ベレー帽の使い魔に背中を向けたまま、歯ぎしりする。
「では。この怒りをいったいどこに向ければいいのか」
「我慢すれば?」
大きく息を吸って。ウォーリックは吐き出した。
外の――宿のまえに群がってぼそぼそ話していた村民たちに、精神操作の魔法をかける。
両手を叩いて。適当に帰らせて。テーブルの席に座りなおした。
「ほっとくんじゃなかったのかよおー」
「黙りなさい。気が散るのです」
「そーゆーとこが、修業不足なんだよな」
わはは。
と笑って、へびの少女は主人がまたカードを配るのを待った。
勝負はもちろん。リリンが勝った。
〈おわり〉
読んでいただき、ありがとうございました。




