表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/68

23.curse(のろい)


   〇前回のあらすじです。

   『宿屋やどやのまえでざわめく村人むらびとに、魔術師まじゅつしおとこがやきもきする』

   〇サブキャラクターの視点です。




 【カース・ランゲージ】。

 とおとこは言った。

 虫歯(むしば)で挿した銀歯(ぎんば)が、チカリと月光を照りかえす。

 魔術(まじゅつ)が存在し、精神のちからが実体を取る【(うら)】において、言語そのものが効果を持つというのはさほど奇異なことではない。

 【カース・ランゲージ】はそのひとつ。

 魔術師(まじゅつし)同士の力量(りきりょう)がかけはなれている時。高位者(こういしゃ)側の言葉ことば発信者(はっしんしゃ)の意識のつよさに比例して、下位者(かいしゃ)の行動を支配(しはい)する。

 魔術師まじゅつし使(つか)()の関係は、この呪縛(じゅばく)の理論につらなるものだと主張しゅちょうする学者(がくしゃ)もいる。

 が。現時点ではあくまでオカルト止まり。

 カース・ランゲージは、実存が証明(しょうめい)されていない。

 現象げんしょうとしては『それらしいもの』が観測されるものの、原因の追究(ついきゅう)半端はんぱな段階。

 採用さいようするに足る論理がない。というのが正味(しょうみ)のところだ。

 軒下のきしたの魔術師は、しかし領民(りょうみん)たちが御上(おかみ)唯々諾々(いいだくだく)と従うのに、呪縛(カース・ランゲージ)の存在を信じざるを得ない。


 ――先日。

 三十代(さんじゅうだい)ほどのおとこがこのむらで死んだ。

 全身をめった打ちにされたすがたになって、彼は墓地(ぼち)発見(はっけん)されたのだ。

 複数人による凶行きょうこうだが、犯人はんにんは『不明(ふめい)』。

 分かっているのは、被害者(ひがいしゃ)の男は逃げようとしたということだけだ。

 この、せこけた集落(むら)から。

 しゃあっ。

 客室のひとつがかりをつよくした。

 まどのカーテンが退()いて、格子状(こうしじょう)に区切られた硝子がらす(ばん)が開く。

 少女しょうじょだった。

 年は十八(じゅうはち)ほどか。身体つきは淑女(レディ)のようだが、化粧けしょうのない表情ひょうじょうには、じゅう代らしい美貌(びぼう)とあどけなさが共存(きょうぞん)している。

 ほんのりむらさきがかった黒い(ひとみ)には、世界の支配者しはいしゃもかくやといった、野心(やしん)ほのおくらくきらめいていた。

(あいつは……)

 背筋せすじ(とお)った(たたず)まい。

 なが黒髪(くろかみ)をほどき、着くずした服装だが、見苦みぐるしさはない。

 油断ゆだんも。(すき)も。

 男は小麦色(こむぎいろ)眉毛(まゆげ)しかめた。


 少女しょうじょとなえる。

彫像(ちょうぞう)()でる。工匠(たくみ)予言よげん

 宿屋(やどや)のまえ一帯いったい波紋(はもん)が広がる。

夜中よなかにぼそぼそ、迷惑めいわくですわ」

 キゅインッ。

 耳障みみざわりなおとをスイッチに、囁きあっていた村民(そんみん)が停止した。

 おとこおとが出るのもかまわずにうしろに跳ぶ。

 魔法(まほう)の〈なみ〉が、革靴のつま先で止まる。

「あなたたち。さっさと帰ってください」

 発声はっせいをして、少女は二回にかい、ぱんぱんと手を叩いた。

 亡者のように正体(しょうたい)のない足取(あしど)りで、村人むらびとたちはいずこかへとあるいていく。

 精神支配(しはい)魔術(まじゅつ)だ。

 男は身震みぶるいした。

 刹那(せつな)。少女と()()った気がして――。

 彼はとっさに、小路(こみち)へと逃げ込んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ