22.亡霊(ぼうれい)
〇前回のあらすじです。
『宿の外から声がして、和泉が部屋に結界をはる』
〇サブキャラクターに視点が変わります。
〇
宿屋【スターダスト】のまえには人が集まっていた。
とはいえ。せまい田舎の集落のこと。四、五人ほどの規模の人だかりである。
彼らはいずれも、夜遅くまで農作業や小間使いに従事していた村人たちだった。
「よおジョゼフ。ありゃあなんだ……」
「ランプの灯じゃないよな」
「電気か?」
「でも。この辺に【魔鉱石】のちからなんて引いてたっけ」
「さっき法衣を着た男が歩いてたの、俺みたぞ」
「まじかい京助。法衣ってあの、はなしに聞く【学院】の?」
ぼそぼそ。
村人たちが小声で囁きあう。
彼らは、なにかを――目に見えない、亡霊とでも呼ぶようななにかを――恐れるように、声をひそめていた。
「じゃあ。ありゃあ。魔術か」
二階の二部屋に、カーテンを透かして煌々とする白い光。
魔力を宿した宝石【魔鉱石】のなかでも、雷の系統に属するものを、複雑な機構と組みあわせて地下に【電線】を引くことで点灯を可能にした――【電気】の明かりと、酷似したまばゆさ。
寝不足や過労でこわばった面を、村人たちは見合わせた。
「どうするよ?」
「ホゴルさまにお知らせするか」
「でもよお。おまえ……。魔術だとしたら、どうやってだ。【命令】が出てるんだぞ」
ねずみのように、どよどよ蠢く人の影。
彼らを横目に観察する魔術師が、物陰に一人いた。
(馬鹿か。こいつら)
不愉快そうに、奥歯を嚙む。二十代前半ほどの男である。
暗夜――。それも、軒下の闇にまぎれて、仔細は不明。
長身な。針か剣を彷彿とさせる輪郭だけが、一層深い黒に縁取られている。
じれったそうに彼は舌打ちをした。
領主の言いなりになるだけで、自分たちでは状況を変えようともしない。そもそも、それが発想としてのぼってこない、『農奴』たちに。
(仕方がない。と言えば、そうなんだろうがな)
唾棄するように男はつぶやいた。
この土地の民を支配する、それは虚構の呪の名だった。




