19.チェックイン
〇前回のあらすじです。
『ふたりが道中で口ゲンカをする』
〇
切り立った崖にホゴルの領地は拓かれていた。
小さな農村が点在し、それより少しだけ暮らしむきのいい町が数えるていど。
森の出口を抜けた先にある村【ブドゥ・ヴィレッジ】に、和泉たちはやって来た。
ウォーリックが懐中時計を確かめる。
時刻は夜の八時になろうとしていた。
ぶうっ。ぶうっ。
養豚場から鳴き声がする。
肥料のにおいが、石垣の外にある菜園からただよってくる。
乾いた木と石で造られた肋家がある。
星明かりの下にあって、うっそうと黒くたたずむそれらは、村人たちの住む民家だった。
軒先の木箱やガラクタのそばに、人が座りこんでいる。
割れた茶碗を地面にほうりだして、金を望んでいる。
(小銭……。あったかな)
ポケットを叩いて和泉は財布を探した。
彼の法衣をウォーリックが引っぱって、くたびれている人のそばから離れていく。
ランプの明かりのあるほうにつれていく。宿屋の看板が出ていた。
ドアをくぐり、食堂を兼用するロビーに入る。
「チェックインをしてきます。二人部屋でいいですね」
「うん――」
言いかけて。和泉は長椅子におろそうとしていた腰をはねあげた。
荷物をウォーリックに押しつけ、カウンターに走る。受付の男に、「シングルを。ふたり分!」とさけんだ。
「この時間からですと、今日の夕食は準備できませんが」
「いいですっ。それで」
今日の晩ごはんは携帯食と水道水のコースとあきらめて。和泉は連泊を申し込んだ。
「二部屋にすると、高くつくのでは?」
「あのなあ」
氏名や連絡先を、店員から差し出された用紙に記入しながら、和泉。
「おまえはもっと、オレに対して危機感を持つべきだ」
「なぜ」
かくん。と和泉はうなだれた。
「小学生じゃないんだぜ……」
ブツクサ言ってると、うしろからウォーリックが手元をのぞきこんでくる。
「時に教授。さんざん申していますが――」
「わかってるよ。ごめんね。じゃあこれからは『きみ』って呼ぶから」
「ならいいです」
空腹もあってトゲッぽく言い返したものの、相手の少女の反応はふつうだった。
ルームキーを受付からあずかり、和泉は片方を女子生徒に渡す。
それぞれの鞄を持って、割りふられた部屋に移動する。




