18.狩るもの
〇前回のあらすじです。
『和泉たちがリビングデッドから離れる』
急ぎ足で和泉たちは現場を離れた。
さいわいにも、ふたりはすぐ街道にもどってこられた。段差になったところを下りると、キレイにならされた路面に出たのだ。
夜のため、森林は塗ったように暗く先は見えない。
しかしウォーリックの足取りに迷いはなく、また彼女の照明魔法がぼやりと頭上を照らしていて、心細さはない。
首に使い魔のヘビをかけ、自分の鞄を持ち、すたすたまえを行く少女の背中に、和泉は声をかけた。
「あのさ。ウォーリック」
「なんでしょう」
「さっきのコトなんだけど、」
みみずくの鳴く音だけが、夜気に返ってきた。
「あれがリビングデッドだったから――まあ。よくはないんだけど……。不問にするとしてだ」
彼女は無言だった。
それはつづきをうながす――またはこちらの言葉を阻む気はないと判断して、和泉はつづけた。
「あんまり、人殺しになるような真似はしないでくれないか。完全に狩るものの眼だったぞ……」
「甘っちょろい考え。とまでは言いませんけど」
白い輝きのなかで、紫がかった黒いまなざしが、肩越しに和泉を射た。
「わたくしの勝手ですわ。それが気に入らないなら、どうぞ。今からでもお帰りになってくださいませ」
「あんなつっ走りかた見た後で、『はいそーですか』ってさよならできるかよ」
むかっぱらが立った。
戦いの余韻がまだ残っているのか。語気に血の気が多い。
和泉はモンスター相手の戦闘も不慣れで、対人間は殊更苦手だった。
するどく、ウォーリックは身を返す。
「教授。わたくしは、仕事の邪魔をされるのがキライです」
和泉は立ち止まる。
「そりゃあ……。そうだろうさ」
【学院】には、彼女と同じように自分の作業を阻害されるのを厭う学者肌・職人肌がわんさといる。
かく言う和泉自身も、なにかをしている時に人から中断をかけられると頭に来る性分だ。
「でも。度を越して人道に背いたことを目のまえでされて看過してやるほど、オレは温厚じゃないぞ」
「人道にね……」
ほそい片脚にウォーリックは体重をかけた。
きれいな面にうっすらと浮かんでいるのは、嘲笑だった。
「それをわたくしに押しつけられても、困りますが」
「オレだって。おまえの価値観を押しつけられるのは不愉快だぞ。ものすごく」
小鳥のように相手の少女は顔をゆらした。
「……」
長い時間。互いに沈黙したふうに和泉は感じた。が。それはほんの十秒にも満たないできごとでしかなかった。
「善処はします」
ふい。
と踵を返し、ウォーリックは道を行く。
次はどう出るかとかまえていた和泉としては、肩すかしを食らった心地になる。
(素直なやつ……。なのか?)
分からなかったが。溜飲はあっけないほど簡単に下がった。
彼女は自分自身の言葉を裏切る人ではないだろうと、和泉はなんとなく思った。




