13.店先(みせさき)
〇前回のあらすじです。
『主人公たちが、次の馬車が来るまで町でやすむ』
※視点が貴族の少女のほうに変わります。
※まちがってべつの連載作品のほうにのせてしまいました。そちらのほうはすでに【削除】ずみです。大変申し訳ありませんでした。
(内容のほうは、削除したエピソードとほぼ同じです)
〇
土産もの屋をウォーリックはながめていた。
和泉がぼけッと座っている噴水広場から、さほど離れていないストリート。
手工業品や実用性のないガラクタが店先に並んでいるが、名産品や特産物と呼べるものは無い。
なんとなし。首にかけたヘビを弄いながら、気分をまぎらわす。
(箔は……。おせっかいが過ぎるのですわ)
ここからまだ、いくらか先にある小さな領地。
【同盟】の仕事など、自分ひとりでも充分なのに。なぜウダツのあがらない名ばかり教授といっしょなのか。
さわやかな空気を求めて、彼女は顔をあげた。
箔の意図はわかる。
彼が学院長をやめ、【表】出身の若い魔女が跡を継いでから、【裏】の貴族――魔術師としてのちからに圧倒的な優位を誇り、下々のものたちの庇護を信条として生きてきた連中――の動きが、目に見えて色めき立ってきた。
連中が、とりわけ擁護の対象としてきた【転移者】が、自分たちと同格になるのがおもしろくないのだ。
【表】の世界が科学へと舵を切り直すため、かつて結ばれた【三者協定】という戒め。
この不朽の調印により、【表】の魔術師たちは、その才覚の芽生えとともに、強制的に【裏】へと弾かれる。
家族になんの説明もなく。本人の意志も関係ない。
ある日突然見知らぬ地に飛ばされ、不慣れな技術を一から学び直さなければならない。
そんな【表】からの追放者たちを、【貴族】は哀れみをもって迎え入れるのだ。
その最たる事業が、【学院】への出資。
貴族を名乗る家は、協定という古い時代の都合により、突然孤児にされた魔術師のたまごたちを、無条件に受け入れる唯一のエリート校――【学院】に、自分のおさめる領地が得る収益のなん割かを譲渡する。
なかには、その出費による減額分を補うために、領民に無理な労働を強いるところもあると聞く。
ともすれば。馬車でからんできたロジャーとかいう男の悪態も、ウォーリックには理解できないものではないのだが。
(だからと言って、歩み寄ってやろうとも思いませんが)
貴族として。(いま)の学長がその席に留まりつづけることに、ウォーリックもまたいい顔はしていない。
器ではないのだ。あの女は。
だが。箔は……。
彼が和泉という、やはり【表】から来た魔術師を同行させたのは、そうした『因習』とも言うべき世襲的な石頭を、【表】出身者の実際のはたらきと実績によって捻じ伏せたいからなのだろう。
(……。ほかにも人材はあったでしょうに)
もっとも。「じゃあ」と言って現学長をあてられるのは、ウォーリックにとって気まずかった。
相手は腐っても【学院】の管理者。
夏休みもへったくれもなく多忙である。
(聞いた話では、お身体のほうもよろしくないようですし)
くるり。
踵を返し、市場を後にしようとする。
ぱたたっ。
近くの民家の屋根から、羽の音が飛んだ。
ウォーリックは見あげた。
上から舞い落ちる黒い柔毛をつまむ。
表面を包む、僅かな魔力の残滓。
(使い魔……)
ふわり。と嗅ぐまでもなく、その『術師の余韻』は香気となって鼻に触れた。
(ホゴルのかしら)
町のかなたをウォーリックは望んだ。
青い空に吸い込まれるように、一羽の椋鳥が羽搏いていく。
噴水の広場で、つきそいの教授がのんきにマップをながめてルートを確認している。
ほどなくして。
魔力は羽根から、消えた。
(『第2幕:旅のとちゅうで』おわり)
読んでいただき、ありがとうございました。




