12.つぎの便
〇前回のあらすじです。
『和泉がケンカの相手を魔術でねむらせる』
〇
魔法の関所をくぐって出た先は、大陸の中央平野だった。
大きな都同士をつなぐ宿屋町への駅で、馬車は停まる。
和泉たちはそこで降りた。
次の便まで一時間ほど待たねばならないが、昼食をとるにはまだ早い。
街道から門を入ってすぐの広場で、和泉は地図を広げる。噴水前のベンチに座って涼む。
メインストリートの手前――あっちこっちの街区を示す標識のそばに、ワゴンが一台出ていた。
アイスを売っているその店で、ウォーリックが店員になにやら注文している。
「お嬢ちゃん。美人だからおまけしてあげるよ」
チョコのアイス球をバニラの上に追加して、褐色肌にバンダナの偉丈夫が白い歯を見せる。
ふたり分のアイスを持って、ウォーリックは和泉と鞄のあるところにもどってきた。
「あんなくだらない術師のために、予定を変えるなんて」
ブツクサしつつとなりに座って、少女はオレンジのアイスを差し出した。
和泉が地図から顔をあげる。
「くれるの?」
「いらないなら、わたくしが食べますが」
「もらうっ。もらうよ。……ありがとう」
コーン部分を取って、和泉は冷たい菓子にかじりついた。
しゃく。しゃくっ。しゃくっ。
ひと息にぜんぶ食べてしまう。
「わたくしなら、二度と偉そうなくちを利けなくしてやりましたわ」
「参考までに訊くけど。どうやって?」
「さあ。死人にくちなしと言いますが」
ペシッ。
アイスにのびてきたガラガラヘビの頭をひっぱたいて、ウォーリックはチョコの征服にかかった。
「箔先生がなんでおまえをひとりで行かせたくなかったか、わかった気がするよ」
「御前に『おまえ』呼ばわりされるいわれはない。と、言ったはずですが」
「……。……」
アイスをかじる少女の横顔から、カエデの植木からのぞく青空へと和泉は意識を逃がした。
(くじけそうだ)
途方もなく。となりにいる魔女とは哲学が合わない。
(そりゃあ。まあ。あんまり知った仲でもないんだし。『おまえ』は失礼だったかなって思うけどさ)
「わたくしは――」
チョコとバニラのアイスをたいらげて、残すところコーンだけになったウォーリックが言った。
和泉は「食べるのはやッ」とつぶやく。
町の外の地平線に、斜視のはいった黒い双眸を定めて。貴族の少女はつづける。
「わたくしは。あなたなんかを派遣する『意図』は、わからなくもないのですが」
くちのなかにコーンを手早く片付けて、ウォーリックは手をはたいた。
きつね色の粉が広場のタイルに落ちる。
我知らず、彼女にもどしていた瞳を、和泉は再び空にやった。
(『なんか』呼ばわりか)
もう泣きたい気持ちになって、レンズの奥で目をつむる。
馬車はまだ、来ない。




