幼馴染は天使だが流石に魔王退治は許容し難い
なんか楽しくなって描いたものです。特に意味はありません。
俺にはたった一人の天使がいた。
あらゆる動作が常に可愛いとにかく可愛い。
生まれた時からほぼずっと一緒にいる所謂幼馴染というやつだ。
だがこの少女他の子供とは少し違うところがあった。明らかに年相応ではない腕力と万のことにおいて圧倒的なまでの才能を持っていた。それはさながら物語の勇者のようなアンフェアさだった。
俺以外の近隣の子供たちは剣術ごっこでもたやすくあしらわれ、こかされ、泣かされる。大人ですら負かすほどた。
曰く彼女の両親は元々有名な冒険者だったらしくその才能を受け継いでいるらしい。
そして俺はいま木の剣を片手に彼女と対峙していた。
今日は月一で彼女と打ち合う日。
彼女の鋭い剣筋が俺の首を正確に捉えようとする。俺はそれを軽く剣の面の部分でいなし、隙が生まれた彼女の頭をコツンと剣で叩く。
「ふみゃ!?」
「ほら、一本だ」
ほんの数手俺が有利に立ち回りなんとか勝利を掴むことができた。俺は彼女が勝負を挑んできてからおよそ30戦全てに勝ち続けてきた。
「つよいよぉ!」
「俺は天才だからな。お前みたいな凡人には負けん」
俺は彼女の前でかっこよくありたかった。別に大した理由でもない。ただ男だから。かっこつけたかった。
そのための一月。だが彼女は天才。凡人の一月程度の修行など打ち合っている途中にでも優に超えてくる。
だが俺としてはそれを上回らないわけにはいかない。これまでも必死の抵抗でなんとか勝利を上げてきた。
「うぅ!次は!!次は絶対に勝つから!」
「そうか!頑張ってくれ」
悔しそうに拳を握る彼女は何処か嬉しそうでもあった。
そんな幸せな日々を過ごしていた矢先。何やら王都とか呼ばれるところから教会の使者とかいう奴らが来た。この辺境の村に勇者がいるたらなんたらだそうだ。
大予言者の予言で3年後に魔王が復活するらしい。それに対抗するための勇者がこの村に生まれているそうだ。
なぜこんな辺境の村になんて思ったが、猛烈に嫌な予感がした。勇者というのはすべてにおいて優れており魔を滅ぼし人々に安寧をもたらす者。
思い当たる節しかなかった。そんなものはこの村に一人しかいない。
案の定彼女の迎えだったようだ。教会のシスターみたいな奴等がすり寄っている。
勇者に選ばれるのは大変光栄なもの。だけど彼女はかなり渋った。「行きたくない」「この村から離れたくない」
正直その瞬間とても嬉しかった。彼女と離れなくてもいいかもしれないそう思った。
しかし彼女は行かなくてはならない。彼女はこんな辺境の村で収まる人間ではないことは俺が一番わかっていた。彼女はもっと多くのものを見てもっと強くたくましくなるべきだ。そして幸せになるべきなのだ。
そこに俺がいようがいまいがそんなことはどうでもいい。
交渉は数時間にわたり行われ、拒否し続けてきた彼女も最終的に村人たちからの英雄が出たと喜びの声に押され行くことを決心したらしい。
そのことを伝えにか俺のところに走ってくる。
「わたし、強くなるよ」
そういう彼女の目は必死に泣くのを我慢しているようだった。
「わたし!!強くなって!!絶対魔王なんてすぐ倒せるくらい強くなるよ!!」
「そうか、俺はここにいる。ただし約束だ。魔王討伐に行く前に必ずここに戻ってこい。いいな?」
「うん!」
俺は彼女の頭を優しく撫でてやる。間違いなく人生で一番幸せで悲しい瞬間だった。彼女の瞳からボロボロと涙が落ちている。
俺は振り向いて歩いて行く。頬に流れる涙を止められない。こんなかっこ悪いところ彼女に見せるわけにはいかない。
別れとは悲しいものだ。
一人で泣きじゃくっているうちに日が暮れていた。
もうすでに彼女を乗せた馬車は出発したようだ。およそ3年の別れだ。
彼女はただでさえ強い。それにこれまで以上の環境や道具を与えられたならば、彼女なら最強の頂に辿り着けるかもしれない。
だがやはりカッコいい幼馴染みとしてそれを超えなくてもいいのか?答えは否だ。
俺は手のひらで頬を思いっきり叩く。
覚悟は決まった。あとはただ強くなるだけだ。
それからの3年間は地獄というのも生温いものだった。これまでに比べ鍛錬の質のさらなる向上。時間の延長。ありえない激痛をともなう身体の開発。激物の摂取。
何度も死にたいと思ったし、実際死にそうにもなった。そんな俺を支えたのはやはり彼女だった。死にそうになるたび死にたいと思うたびに彼女の笑顔がフラッシュバックする。
それだけでやる気が何倍、何十倍にも膨らみこれまで以上に取り組めた。
自らの修練の他にあらゆる分野にも手を伸ばした。魔法も現存するものをひたすら頭に入れ、対策も考えた。ダンスや、テーブルマナー、お茶の入れ方まで様々なことにもガムシャラに手を出した。
たかがこの程度、彼女が努力を始めれば数週間もあったら抜かされる。少しも休んでいられない。
日々壊れ、育ってゆく体を見て何度も両親には止められたがそんなことはどうでもいい。俺はただ彼女に勝つためだけに体を壊し直し鍛え磨き続けた。
3年後、彼女は魔王討伐に向かう仲間たちと共に各々の故郷を回っていた。場合によってはこれで訪れるのが最後になるかもしれない別れと旅立ちの始まりの旅。一つ一つゆっくり時間をかけて回った。
そして、いよいよ最後の勇者の故郷。
周りの仲間たちはかなりの辺境と聞いて正直めんどくさいと思っていた。
「ねぇ、まだつかないの?」
「もうすぐつくわよ。ほら!見えてきた!」
「やっとか。まじ遠かったぜ」
「言葉遣いが荒いですよ」
「・・・」
「すぴ〜すぴぃ」
メンバーは5人。勇者、賢者、戦士、僧侶、盗賊。かつて一度魔王を退けたとされる伝説の勇者パーティーと同じ編成だった。
「勇者そんなに楽しみなの?」
「うん!やっと彼に会えるからね」
「あー噂の幼馴染くんね?あなたより強いとかなんとか」
「そうだよ。小さいときわたしは一回も彼に勝てなかったよ」
「信じられないけどなぁー」
今の勇者は地を割り天を裂く正真正銘の人類の最終兵器。そんなものに勝てる人間が王都の腕利きならともかくこんな辺境の村にいるなんて到底考えられなかった。
「まぁ、魔法使いも話してみるといいよ!」
勇者は3年前に旅立った地に降り立つ。一番最初に出迎えてくれたのは両親だった。
「おかえりなさい!!」
「ただいまお母さん。お父さん」
「こんなに立派になって。うぅぅ。お父さんは嬉しいぞ!!」
「ありがとう」
周りには村中の人たちがいる。だが肝心の彼だけはそこにいなかった。しかし、彼の両親が偶然にもそこにいた。
「おばさん。おじさん。お久しぶりです。あいつは?」
「久しぶりねーほんとに綺麗になって。もう。一瞬誰かわからなかったわ。あの馬鹿はえーとたしか。あった!これ」
そう言って一枚の紙を渡される。それには[いつもの場所で待つ]とだけ書かれていた。いつもの場所。見当がつく場所はただ一つのみ。いつも二人っきりで剣術の練習をしていた。森の中の広場。そこに彼がいるに違いない。
「私!行ってきます!」
「食事会は?」
「すいません村長さん!また後で」
「ちょ!勇者!ちょっとまってよぉ!!」
私は急いで家の裏の山に入ってゆく。何度も何度も通った道。間違えるはずがない。
見えた!そこにある木を抜ければ。
「・・・」
そこにいたのは、大きな広場の真ん中に一本だけ生えている木の木陰で本を読んでいる彼の姿があった。髪は昔と違い伸びて長髪になっており、黒の髪の毛が風で揺れてとても綺麗。
ここからは顔は見えないけど間違いなく彼だ。
歩いて近づいてゆく。彼も私に気づいたのか本を閉じて話始める。
「久しぶりだな」
以前より低くなっているものの確かに自分が一番聴きたかった声が聞こえた。
今日は情報によると彼女が帰ってくるらしい。俺は高鳴る心臓を抑えられなかった。今日彼女と再会するそう考えただけでバクバクと心臓がなり、手が震える。何しろおよそ3年ぶりの天使との再会だ。人間の俺が耐えられるだろうか。
頭の中で数万と会ってはきたが、本物はまた違うのだろう。
出会いを少しでもカッコよくしようと俺は木の近くに椅子座り、本を読む。かっこいい!
母にも手紙を渡し、順調ならもうすぐ来る頃だろう。来るよね?
すると後ろの方でガサゴソと草が揺れた。俺は本を閉じる。
「久しぶりだな」
後ろを向いた瞬間心臓が止まりそうになった。天使がいた。いや、神か。以前にあった幼さが消えた、まさに大人の女神が立っていた。大人の女神という表現はおかしいがまさにそんな感じの彼女がいた。体を防具で包んでいるがそこには隠しきれない美しさがあった。
「久しぶり」
声もやばい。もう。超ヤバイ。もう本当に結婚してほしい。
少し落ち着こうとすると彼女が近づいてくる。今近づかれるのは少しばかり俺の心の臓が持ちそうもないので手を前に出して静止を促す。
「どうしたの?」
「い、いいや、なんでもない。それと思ったより早かったな」
今回の帰省は俺とて少しばかり予想外。俺も少しばかり訳ありで、急いで戻ってきたのはつい1時間前程。そこから直で会うのは恥ずかしいから手紙書いて半年ぶりに会う母に渡してといろいろ大変だった。
「あ、うん。その件で来たの」
「どうしたんだ?」
「これから魔王討伐に行くの」
そう言って無理に笑う彼女の笑顔は見ていてとても悲しいものだった。まるでこれから死んでしまうことを予期しているような顔だ。勝ちに行く人間の顔ではなかった。
「はは」
なんだその顔は。俺はそんな顔をさせるために送り出したんじゃないぞ。君にもっと笑顔で暮らしてもらうために送り込んだんだ。
俺は腰に下げていた何でもないただの剣を抜いた。
「魔王討伐の前に久しぶりに手合わせでもするか?」
「え?でも」
「心配するな。絶対に怪我はさせない。剣でするのが不安ならあの木の棒でも構わない」
「え、いや、そうじゃなくて。私は勇者であなたは村人よ?」
随分と馬鹿にしてくれるじゃねぇか天然天使さんよ。少しばかりその言い方にはカチンときた。
「その村人相手に昔一本もとれなかったのは何処の人だったかな?」
「!!」
「心配するな俺は天才だ。お前みたいな『凡人』に負けるわけがないだろう?大船に乗ったつもりでかかってきな。なんならハンデをつけてやってもいいぜ?」
「ふ、ふふふ、ふふふふふ。怪我しても知らないよ」
そう言って彼女は腰に刺してある黄金の剣を抜き、俺に斬りかかる。命を狙うつもりなどもうとうない甘えた一閃。
俺はそれを軽く横に躱し剣の面でコツンと彼女の頭を叩く。
「え?」
「流石に手抜きすぎだぞ。これなら本当にハンデが必要かもな」
あまりにも簡単に取られた一本に彼女は呆然と立ち尽くしている。
確かに手は抜いた。だけど、ただの村人に避けられるはずはない一撃だった。
「ほら、昔とは違って何回でも相手してやる。かかって来な」
「い、今のは準備運動。次いくわよ!」
確かに先ほどよりは早い。見たところ狙っているのは腕。彼女は俺の腕を軽く切って降参させようという算段だろう。剣の動きでよくわかる。迷いが入り込みすぎている歪んだ剣だ。
俺は剣を避け、手を掴みその手を軸にして彼女を投げる。投げられた彼女は何が起こっているのかわからないような顔をしている。
「そろそろ本気を出さないか?俺も退屈しそうだ」
「つ、次からよ!!」
それから何度となく彼女は俺に剣を振り俺はそのたびに一本を重ねていった。周りから見れば力量の差は一目瞭然だった。まるで剣を覚えたばかりの子供が熟練した大人に挑んでいるようにさえ思える程だった。
俺は剣を腰の鞘に戻す。
「少しばかり慢心が過ぎるぞ?これなら3年前のお前の方がまだ強かった。お前の3年間は全くの無意味だったのか?」
これは本音だ。今の俺のことばかり気遣い、中途半端に手を抜く彼女なんて全く敵じゃない。彼女がこんなになるなら送り出さない方がいくらかマシになっていただろう。そう思ってしまうほどだった。
すると彼女の剣が突然光りだす。やっと少しは本気を出してくれるようだ。
「もう。本当に知らないわよ」
次の瞬間俺の背後に突如として彼女が現れる。気づいたのは彼女が剣を振りかぶり、一瞬だけ止まったタイミング。
驚いた。少しの油断だ。反省しないとな。
俺は少し頭を下げて避ける。
「早いな」
間髪入れず次の一閃が俺を襲う。その悉くを俺は剣を抜いて打ち払う。3年前に戻ったかのような気持ちだ。負けるかもしれないという緊張感が俺を包み込む。
彼女の移動はとてもではないが、目で追うことはできない。全てを事前の予測と直感と経験に任せ剣を打ち払ってゆく。
しばらくして彼女は立ち止まった。
「はぁ、はぁ」
「今のはいいね。俺じゃなかったら数十回は死んでいた。でもだめだ。この程度では魔王討伐なんて行かせられない。俺が許可しません!!」
「一撃も当たってないのによく言うわ。本当の本当に次が最後よ。私は魔王を倒さなきゃ行けないの!だから邪魔しないで!『権能解放』」
彼女の剣がこれまで以上に強く輝き、異常なほどの力を放出している。さすが俺も少しばかり苦笑いを浮かべる。
勇者は熱くなっていた。王都では自分の剣を避けられる人間なんてほとんどいない。今の乱撃だって魔王にでも通じると思っていた自慢の技だった。それをただの村人にあしらわれた。それも最小限の動きで余裕を持って。いろいろな感情が入り混じり、ブレーキが効かなかった。
後ろの草むらから大きなハットを被った女が現れる。
「ちょっと勇者!なにしてるの!!」
「邪魔しないで!これは私の戦いよ!!」
「ははは。ならば、こちらも本気を出させてもらおう。こい!『邪魂剣グラッド』。『夜月』」
空気に現れた黒色の渦から真っ黒な剣が顕現し、俺の体から黒色のオーラが溢れる。
俺はその手に手に入れた最強の一振りを握り、今から来るであろう最強の一撃に備える。
「はあああ!!!!」
「だあああ!!!!」
直後。黒色と白色の光が交差した。光は闇を照らし、闇は光を飲み込む。
「私は魔王を倒すためにここで負けるわけにはいかないのよ!!!」
「・・・くっ!」
最初こそ拮抗していた二つは徐々に白が黒を飲み込んでゆき。最終的には完全に白に染まり、圧倒的な破壊で黒を塗りつぶした。
「はぁ、はぁ、はぁ」
勇者は地に膝をつく。今のが全身全霊だった。
「勇者あなた」
魔法使いのたったの一言。ふとそこで熱くなっていた頭は急速に冷え、我に帰る。今のは魔王相手の最終奥義。
熱くなっていたとはいえ、それを村人それも幼馴染に向けてしまった。前に広がるのは削り取られた地面のみ。
「い、いやああああああ」
「え?ヒスか?やめとけ」
コツンと頭が叩かれる。
「「え?」」
勇者が後ろを見ると彼が立っていた。勇者と魔法使いは目も飛び出さんばかりに驚いている。
「いやぁ、まさか押し負けるとは思わなかった。ははは、さすが勇者だな。出力では完全敗北ってところだ。やっぱり生まれつきの魔力はどうにもならんか」
「え?なんで生きて?ちがう!そ、その腕!」
彼の右腕は肩からスッパリとなくなっていた。
「あーこれか?心配すんな!元からなかった」
俺はあのとき押し負けていることに気づいた瞬間急いで退避したがどうにも間に合わなく、右腕の義手が蒸発してしまった。でもそんなことは関係のないことだ。
俺はニコリと笑う。
「晴れて俺に一太刀浴びせたわけだが、気分はどうだ?」
彼女がはじめて俺に剣を当てた。俺は成長を感じて感極まっていた。
「はぁ、はぁ。最悪の気分ね」
「そうか、よかった」
俺は先ほどの木の横に置いておいた袋を持ち、勇者の一撃でえぐれた地面のところに行って、そしてそこに落ちている物を拾う。
「それであんたはお仲間かい?」
「え、えぇ、そうよ」
「ついでだ。きいていきな」
「わかった」
「俺はお前らが魔王討伐に行くなんて大の反対だ。お前達じゃ力不足すぎる。だめです!魔王討伐なんて許容できません!」
俺はズバリ言い切った。でもこれは事実今のまま行けばおそらく魔王までたどり着けない。もし魔王にあってもいいとこいって同士討ちだろう。でもその確率もかなり低い。
勇者も魔法使いも反抗的な顔をしている。
「「はぁ?」」
「だめよ!たくさんの人々が私に期待してくれてる!それを裏切るわけには」
「あなたは人がいっぱい死んでもいいと思っているの?」
つまり彼女たちは「人のために自分は頑張らなければいけない」と言っている。勇者は悲しそうに。魔法使いは人間じゃないものを見るように。だが、その考え方が俺は気に食わなかった。
「あのなぁ、人間には背負える物の限界値ってもんがあんだよ。お前ら。まぁ、何人いるか知らんが。お前らに人間の未来を背負いきれるわけないだろ?お前らは神様か何かか?いいや、違う。お前らは凡人なんだよ。それにお前らに全てを押し付けてるやつ全員もだ。世界の未来だとか大それたものをたった数人に背負わせるとか。頭おかしいんじゃないか?」
「でも!」
「あっ、ごめん。ちょっと熱くなってしまったな。そこで俺からのプレゼントだ。ほいっ」
俺が投げたのは一個の麻袋とさっき使った漆黒の剣だった。
「剣?と袋?」
「そうだ。この剣、実は超貴重でな、世界に一本しかないそうだ。だけど生身で触るなよ?人間が触ると呪われるからな。なんか魔神の加護とかいうやつがついてるらしい」
「魔神の加護?」
「そうそう。ちなみにそれ、魔王の剣」
「「は?」」
実は俺は半年前からずっと魔王城に住んでいた。魔王城の中にいた魔物から魔王は時間がくれば突然玉座の間に現れると聞いた俺は「魔王が出てきてもリスキルなら俺でもできるんじゃね?」と思い、ひたすら鍛錬を積みながら待ち続けた。魔王城には強い魔物が五万といる。それはもう鍛錬の相手には困らなかった。
そしてつい1月ほど前に魔王はいきなり玉座の間に現れ、そして俺はそれを打ち倒した。でも、流石に無傷とはいかず右腕と愛剣を失った。ここで終わればそれでよかったのだが。
そこで問題発生。なんと魔王は殺すことができなかった。何度心臓を潰し続けても再生する。俺は魔王を切り刻みながら悩んだ。それはもう悩んだ。
そしてある結論に至った。「もうずっと切り刻んで持ち歩けばいいじゃん」と。
「というわけで。俺にはじめての一撃記念は魔王の剣と魔王のミンチ肉と旅の終わりだ。あっ!ミンチは早く処理してね。2時間もすれば徐々に復活してくるから」
俺は彼女の頭を優しく撫でる。
「これで肩の荷も降りただろ?」
「・・・ん。うん。っ!」
彼女は涙を流した。それはもう苦しかった辛かった。魔王と戦うのは怖くて、でもたくさんの人の期待を裏切れなくて、無理矢理作った上辺だけの顔で必死に強い勇者を演じて。
その期待や恐怖が形を変えた枷が今外れ彼女は号泣した。
「あんた達にはすまないことをした。手柄とかは全部やる。報奨金とかどうせ出るんだろ?」
「いいえ、私は。ううん。私は、また家族に会えるの?」
「会えるとおもうぞ。お前次第だと思うが」
魔法使いの女も勇者と抱き合って涙を流している。
俺は勇者達が落ち着いたのを見計らって袋を遠くに投げる。
「さぁ、勇者。魔王にとどめを」
「っ。わかった。『権能解放』」
勇者の剣から先程までとは違う、優しい光が伸び、ミンチが入った袋を照らす。段々と袋は萎んでゆき、最終的には袋の中身は全てなくなった。
「終わったのね」
「そうね」
勇者達の旅はここで幕を下ろした。
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「ママ!」
「どうしたの?」
少女は母親に抱きつく。もう夜もふけってきている。子供に夜更かしは良くない。
「寝れないの、おばけが来ちゃうの!」
「あぁ!またパパでしょ?」
「うん。いい子にしないとパパの腕みたいにおばけに食べられちゃうの」
「大丈夫よ。ママがいるもの。ママがお化けなんてやっつけちゃう!」
母親は笑顔で子供の頭を撫でる。子供をベッドに寝かせその隣で寝ている仕事帰りで疲れて先に寝てしまった、夫を起こさないように子供を寝かしつける。
「こわいよぉ」
「じゃあお話をしてあげる」
「やった!いつものがいい」
「はいはい。昔々あるところに勇者と勇者が大好きな一人のお馬鹿さんがいました・・・」
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
勇者一行は後日談でも書こうかなと思って登場させましたが正直いらなかったですね。
じゃあ今回はこの辺で。さよなら