第6話 2度あることは3度ある
僕の言葉を遮って入室してきた少年は、いそいそと本の様な物を準備し始めた。
「えっと...君、病室間違えてないか?」
陽菜が僕の言葉に驚いた表情でこちらを見返す。かわいい。
けど僕なんかまずいこと言った?
「ほーう!!いい度胸じゃないか!!!」
血管が目に見えるほど興奮した顔から、相変わらず少し高音な声色を荒げた。
ん...?僕なんか間違えたこと言ったか???
むしろ迷子の対応としては満点だと思うんだけど...
両手をしどろもどろに動かしながら焦った陽菜が、懸命に言葉を繋げる。
うん。焦る陽菜もかわいい。
「えっと、この方はこの病院の」
「オレはこの言霊研究開発医療機関、略して研究病院の医院長!!出雲 蒼生だっ!!」
陽菜の言葉は部屋中を走った少年の言葉にかき消されていた。
はぁふんふん。この子がこの霊研究開発医療機関とかいう長ったらしいこの病院の医院長。
「はぁああああ!?んな訳あるか!!!!」
見た目はせいぜい小学三年生くらいのこの子供が!?
医院長!?この特別なんとか病院の!?
「君何歳だ!?パパが医院長とかそんなオチだろ!?」
「25歳!!お前よりだいぶ年上だ!これ、医師免許証。」
「はぁああああああ!?!?」
出雲医院長(?)が見せてきた医師免許証とやらには。
しっかりと出雲 蒼生、そして25歳との記述が成されていた。
マジなの....!?マジじゃん!!!!!
「さて、オレは君たちに説明しなきゃいけないことがいっぱいあるが。」
いやいやいやいや待てまだ飲み込めてないとツッコミを入れたい気持ちでいっぱいだったが。
「率直に言う。五泉、まずオレらの仲間になるか死刑になるか選べ。」
ツッコミなんてくだらない思考は出雲医院長のこの一言で消し飛んでしまった。
「し、死刑!?」
「そ。死刑。ここから順を追って話すぞ。言霊ってのは条件を満たした奴が触れると身に刻まれて能力者になる。」
出雲委員長は僕の座るベッドの上に、文の詰められた本を広げた。
言霊は本来、秘密裏に政府の元でだけ管理される。誰かが軍事利用で能力を得たら、銃刀法なんて笑い者になっちまうからな。」
当たり前ではあるけど、それはつまり言霊は銃刀すら生ぬるくしてしまう存在ってことなのか。
「それを阻止、つまり能力者を管理するために政府が秘密裏に作ったのが特務警察言霊管轄隊。」
「つまり、特務警察は言霊と能力者の管理をするために作られたんですか?」
「鋭い陽菜君。その通り。」
正解する陽菜がかわいい。ダメだ僕ホントに陽菜の事に関するとお花畑になるのかも知らん。
「んで、主な特務警察の仕事は基本的に、違法能力者の逮捕と誕生した言霊の管理。あとは警視庁特殊部隊の手に負えない事件の担当だ。」
出雲医院長は分厚い条例の書かれた本を指差しながら説明を続ける。
「特務警察は主に相手する奴らはヤバい奴らばっかりってこと。故に絶対の悪即斬。殺らなきゃ殺られるからな。」
阿賀野の顔が脳内を過る。
確か特務警察って名乗ってた気がする。
「それでも、特務警察に所属しながらも『合理的に出会った瞬間に殺せ。』ってやり方に猛反発する奴もいたわけだ。」
やれやれと言わんばかりの顔で出雲医院長が続ける。
「そいつは能力者としてかなりの腕前で上層部的には離したくなかった。だから、移動先の施設を作った。」
はっとした表情で陽菜が呟く。
「それがこの病院、霊研究開発医療機関...」
驚く陽菜も非常に可愛い。
「そゆこと。開発機関や病院を銘打って実質的な第二部隊を立ち上げさせたってことだな。『合理的に出会った瞬間に殺せ。』ってやり方じゃない部隊をな。」
ということは二つの部隊の関係は...
「特務警察と研究病院はすっごい仲悪いな。同じ政府機関だけど。」
僕の思考を読んだ如く、出雲医院長は言葉を繋げた。
その時、病室の扉からまた声が響いた。
「そんで、その特務警察に反発してた奴がこの僕、三島 樹。ってこと~。あ、三島さんでいいよ。」
病室の扉縁から聞こえたその声は聞き覚えのある声。
「元気になったみたいで良かったよ。少年。いや、五泉 蓮くん。」
滅命的状況だった僕を助けてくれた、爆音気絶拍手おじさんこと。三島 樹だった。
「あの時はありがとうございました。」
「いやいや、いいってことよ。俺はああいいう阿賀野みたいな考え方が嫌で特務警察を抜けたんだから~」
相変わらずふわふわとした雰囲気を醸しながら、僕らの近くの椅子に三島さんは腰かけた。
「阿賀野の件は全然大丈夫だよ。あいつ弱っちいし。大変だったのは報告書の方だよ。」
「報告書...ですか」
少しわからないといった顔を浮かべた後、あぁなるほどとコロコロと表情が変わる陽菜。
非常にかわいい。
「なにしろ軍事目的じゃない一般人、たまたま警戒網を搔い潜って言霊と契約。しかも能力で警備員を倒しました。なんて前代未聞だからねぇ。」
微笑を浮かべ、両手をプラプラさせて大変だったことを訴える三島さん。
その時、病室の扉からまたまた声が響いた。
「新人くん、目が覚めたってホント!?」
「いやこのパターン多くない!?もう3回目だよ!?」
出雲医院長、三島さんと続き。
今度は紫掛かった髪色、そして僕や陽菜と同じ歳程のスカートを履いた少女だった。
彼女は名乗りも忘れ、意気ようようズカズカと僕に近づき。
そして僕の顔を、瞳をジッと見つめた。
「ねぇ君。」
「ど、どしたの?」
焦る僕と、僕を見つめる少女。
沈黙を破ったのは彼女だった。
「ボクと、結婚しない?」
「「はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」」
病室で僕と陽菜の声が木霊した。
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作者の柚原 透です。
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