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第5話 一枚上手な『犬』の音

三島と呼ばれる男が阿賀野の背をポンポンと叩く

それと同時に僕を締め付ける、僕自身の身体の触感は

『ペンローズの階段』は消え去った。



これが最期のチャンスだ...っ!

「『テセウスの』...『船』っっ!!」

高圧迫によって摩耗した全身体を消滅、同座標に再構築。


身体の負傷は無かったことにすることはできた。

だが吐き気を催す痛みは無かった事にはできない。

身体的要因でない。精神的負荷の末か。



ーーー身体が...思うように動かない...!




「あ~...少年、あんまもう能力使わない方がいいよ~」

三島は身体や顔は阿賀野の方向に向けつつ、ひらひらと掌だけをこちらに向けていた。

「君、たぶん目だろ?君のトリガー。今にも能力回路が焼き切れそうになってる。」

指摘され、初めて実感した。

眼球付近の血管に中心に灼け切れそうな程の熱を持っていた。



「んまぁ~、安心してお兄さんに任せとけって。」

三島はひらひらと舞わせていた手を腰の刀に沿わせる。



「さぁ~て。お待たせ。阿賀野っち。」

淀みと殺意で濁みんだ阿賀野の瞳は、三島を呑むが如く睨んでいた。

「・・・よく俺の前に姿を現せましたね。裏切者。」

「だーかーら、裏切りとかじゃなくて職場の異動だって言ってんだろ?」

「・・・特務警察の正義を失い、政府の犬に成り下がったの間違いでしょう?」

阿賀野の言葉に少しだけ三島は眉を動かす。



「あんまナメんなよ。後輩。」

三島は不敵な笑顔を浮かばせた。

小さく体を震わせ、肩を回す形で刀に沿わせていた右手に力を入れる。


「・・・来るっ!」

刹那、阿賀野の視界に入った物は

三島によって放たれた、眼前を裂く刀



ではなく、目の前に放り出されたフラッシュバンだった。



阿賀野は自身の意識が誘導されていたことに初めて気が付いた。

刀に伏せる右手を警戒しすぎた故に。

ポケットに入れた左手に意識を向けることができなかった。



「だーから言っただろ。ナメんな後輩。」

「・・・っな!?」


ーーーだが、まだ間に合う!!

阿賀野は刀への警戒態勢から体を反り返し、眼前に腕を敷く。


フラッシュバンに警戒し、視界を塞いだ阿賀野を


三島は鼻で笑っていた。



「目先のことだけ考えってからだよ」

フラッシュバンのピンは抜かれていなかった。


視界を自ら封じた阿賀野を目前に嘲笑を浮かべる三島は、刀に添える手を放し宙に浮かべた。

宙を浮かぶ三島の腕は血管が巡る様に朱色が走り巡っていた。



「よく見とけよ。これが言霊ってやつの使い方だ。」


フラッシュを警戒し、腕伏せを解くことのできない阿賀野を前に

倒れこみ、動くことの出来ない僕を前に




「言霊『パブロフの犬』」



ーーーーーーッッパーーーーーン


三島は、朱色巡る腕で爆音の拍手を起こした。



爆音の拍手が耳に届いた時。





僕の意識は暗闇へと突き飛ばされた。









「ん...」

眩しい。ただ、嫌な眩しさじゃなかった。なんというか、陽だまりの暖かさというか。

天国のような。ずっとここで眠ってしまいと思ってしまう様な。


ゆっくりと、ゆっくりと目を開ける。

ぼんやりと外の世界を捉える始めた瞳に初めに映り込んだ彼女は。

僕が命を懸けた、僕が一目惚れした。名前も知らない彼女だった。

「天使かな?」

「第一声もうちょっと他になかったかな?」


彼女は少し驚いた様子だったが、笑顔で僕に返答を返してくれた。

視界が戻ったことで確認できた、病院の入院個室の様な部屋。

無事にあの場からは脱出できたみたいだ。

「なんにしろ、君が無事だったみたいでよかった。」

本当に。本当にこの娘が無事でよかった。心からの安堵に思考を浸す。


「ところでここは...?」

「なにか病院みたい。なんとか研究医療機関みたいな事を聞いたけど...後で看護師さんに聞いてみましょ?」


病院...?そうだ。三島って人が手を叩いた後から記憶がない。


ハッと意識がさえる様に思い出した。何より、大事なことを忘れていた。

「僕は五泉 蓮。好きな呼び方でいいよ。」

自己紹介は済ませた。あとは...


「君の名前、聞いてもいいかな?」



彼女は少し困った顔を浮かべると、髪先を少しだけ弄りながら答える。

「私、出雲 陽菜。って名前らしいの。陽菜で大丈夫。」



出雲 陽菜かーーー!!可愛い名前だなーーーー!!!!

いや、わかってるよ客観的に。たぶん僕この娘と話してる時、頭の中お花畑になってるよねコレ。


一瞬冷静になったことで初めて脳内に言葉が引っ掛かった。

「ん...?らしい...?」


「実は...この病院で目覚める前の記憶がないの。」

彼女は申し訳なさそうに俯いて言葉を並べた。


「調べても分からなかったみたい。私がどこの誰で、何をしていたのかも何も思い出せないの。」

「それじゃ出雲 陽菜って名前は?」

「この病院の医院長の出雲さんって人が名前がないと不便なことが多いし、とりあえずって付けてくれたの。」

「記憶喪失ってことは僕のことも...?」

「いま初めまして。って感じなの」

「まぁ元々話したことないんだけどね」

「はじめて話したのに「天使かな?」とか言っていたの!?」



今、僕の目の前で笑顔を見せているが。彼女は、陽菜は今、どれだけ心細いのだろう。

自身が誰なのかもわからず。見知らぬ地で目を覚ました。



僕が陽菜に一目ぼれしたように。僕が陽菜の気を許せる場所になりたい。

惚れられなくてもいい。彼女が安心して話せる場所に。僕は成りたい。


それにはまず、僕が好意を寄せている事。

敵ではない事を伝える事が一番だろう。




陽菜の瞳をジッと捉え、真剣な声色で言葉を選ぶ。

「陽菜。よく聞いてくれ。僕は君が好

「はーい!惚気そこまでー!説明してくぞー!!!」




扉の開音と同時に部屋に響く、男児特有の少し高音な声。

僕の言葉はいきなり入ってきた少年によって遮られた。

閲覧いただきありがとうございます。




作者の柚原 透です。








ページ下部分にあるポイント評価をササっと、評価を着けて頂くとと幸いです!!








好評でなく、アドバイス等でももちろん大歓迎です!




評価していただけると本当に幸いです!








皆様から頂いた声を励みに、頑張っていきたいと思います!








この時間のお相手は、柚原 透でした。








作者Twitter @yuzuhara_yuki

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