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第4話 『階段』を昇り切る前に

『ペンローズの階段』は2次元下のみに身に存在する完全ループ画。

もし阿賀野の言霊『ペンローズの階段』がこれを3次元に作り出す能力だとしたら。


僕は完全に閉じ込められたことになる。


だけど僕には『テセウスの船』がある!



「言霊!『テセウスの船』!!」

僕をこの立方体の外に再構築すればいい!!



消滅した僕が再構築された場所は

消滅前と寸分ずれた立方体の中だった

「!?」

外に再構築できない!?



「そんな!?壁には触れてないのに!?」

まさか...!?

「・・・『ペンローズの階段』のループ条件は壁じゃない。立方体空間単位の移動だ。」

阿賀野の口角が歪み上がる。だが、その目は笑みを得ていない。

「・・・理解したか?お前は既に処刑台の上に立ってたんだよ」

残酷に冷酷に、罠に掛かった獲物を見る目をしていた。


つまりこの立方体に触れなきゃループしないわけじゃない。

壁に触れずとも移動した座標分、後ろのに壁に移動させられる。

この現象は『テセウスの船』も例外じゃないってことだ。



物理的な脱出は不可能。

言霊『テセウスの船』を使っても脱出できない。



この立方体に、『ペンローズの階段』に完全に閉じ込められたってことだ。

「っつ...!」

なにか...!ここから、『ペンローズの階段』から脱出する方法を...!



もし、『ペンローズの階段』が完全に事象を再現した言霊だとしたら糸口はある!

ペンローズの階段は2次元下のみ存在することのできる事象だ。

つまり、3次元空間に立方体で存在すること自体が矛盾する。

事象に矛盾するプラス分の能力が言霊にあるってことは、マイナス分の弱点もある筈だ!

けどその弱点を解明するには『ペンローズの階段』の外に...


「・・・『ペンローズの階段』を内側から打破することは完全に不可能だ。」

阿賀野の歪み笑みは更に吊り上がる。

思考の高速回転、首筋を走る冷汗。それらを全否定する現状。


ーーー呑まれるな...!可能性を探せ!

阿賀野の言葉を振り切る様に思考を巡らす。

だが思考の裏から確実に覗く絶望。それを無視することはできなかった。


阿賀野の歪んだ喜感情を揺らす口から染み出る。

「・・・もし『ペンローズの階段』の体積を、お前の体積以下にしたらどうなると思う?」

僕に訪れた、思考の急冷却。身体の発汗停止。




ーーー......。

『ペンローズの階段』は壁に入った物が対面から出現する。

もし、面積が僕の身体より小さくなったら...

もし、心臓サイズまで収縮したら...

僕の身体は心臓サイズまで圧縮される。

高圧器で潰される様に、グチャグチャに、圧縮される。



『テセウスの船』で身体を再構築したとしても

『ペンローズの階段』の外に出ることはできない

むしろ『ペンローズの階段』内で身体が五体満足に再構築されてしまう

再構築された瞬間に圧縮される。


きっとそれは

死すら安らぎに感じる苦痛なのだろう。




「・・・『ペンローズの階段』、殺せ。」

「!?」

『ペンローズの階段』の壁がゆっくりと収縮を始めた。

透ける壁の向こう側に、阿賀野の掌に小さな立方体が浮いているのが見える。

阿賀野が掌を狭める度、壁は伸縮してゆく。小さな立方体をゆっくりと狭める阿賀野の表情は愉悦。



阿賀野にとって、これは処刑だ。

当然、処刑台に上る罪人は僕。刃を握る処刑人が阿賀野。

抵抗することすら許されず、ただ罪人の首に刃を通す。

完全な一方通行。規定された必然。約束された死。振り下ろされる刃。


刻一刻と刃は、免れぬ死は、『ペンローズの階段』は僕に近づいている。




「なんで...!なんでこんなことするんだ!お前は警察なんだろ!?」

「・・・お前が正義じゃないからだ。正義以外がこの世界に存在する意義があるか?答えは否だ。」

淡々と僕の命など存在しない。そう否定されている気分だった。



やめろ...!

「・・・せめて聞き苦しい断末魔を抑えろよ。違法能力者、犯罪者。」

身構えていた僕の左手が、少し広げ気味にあった筈の左手が

絶対に触れるはずのない右手に触れた、触れてしまった感覚が伝わる。


やめろやめろやめろ!!

「・・・死体は拾ってやる。上に処分品として提出する為にな。」

胸と背中。同時の触感。小さな圧迫感。

両腕は完全に触れ合い、圧迫感すら感じる。


やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!!!!!

「・・・さて、暇乞いだ。正義でない自身を責めるんだな。」

ーーー苦しい...!!呼吸が...でき...ない!!

胸が、背中が、腕が、頭が、脚が、全神経が.......

その全てが詰まり、千切れ、爛れる






今度こそ、本当に絶望が待ち受けている。

死すら生温いと錯覚される絶望が。





肉体が形を手放し始めた。朧げな感覚の中、意識を手放す中。



必然で確実に絶対的な絶望に










水が差された。


あまりにも場違いな、陽気な男の声だった。


「正義の警察が聞いてあきれるぜ、阿賀野っち。」

気だるげにスーツを着崩し、日本刀を差した男性。

彼は阿賀野の背中を軽く、ポンポンと叩いていた。


「・・・三島っ...樹!!!!」

つい先までの僕に向けられていた阿賀野の愉悦の思考は既に消え去っていた。

まるで僕など存在しなかったの様に、思考一切の末端すら僕には向けられず

三島と呼ばれた男に向けられていた。




阿賀野の目には。ただただ憎悪と嫌悪が。

淀んだ殺意だけが詰められていた。

閲覧いただきありがとうございます。




作者の柚原 透です。








ページ下部分にあるポイント評価をササっと、評価を着けて頂くとと幸いです!!








好評でなく、アドバイス等でももちろん大歓迎です!




評価していただけると本当に幸いです!








皆様から頂いた声を励みに、頑張っていきたいと思います!








この時間のお相手は、柚原 透でした。








作者Twitter @yuzuhara_yuki

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