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第2話 『船』と消滅と再構築

呼吸も辛い。だが決して脚は止めない。

夕暮れの道から延びる彼女の影を、必死に追う。

きっと、今逃したらもう2度と彼女に会えない。そんな気がしたから。


ようやく彼女の姿を再び視界にとらえた時。

彼女の姿は廃ビルの中へと消える最中。

なぜこんな廃ビルに...?と反射的に思考が挟まることで一目惚れに茹で上がった頭も、少しずつだがやっと思考を取り戻しつつあった。

だが、やっと休むことを許された自身の肺を一切考慮することなく思考の中心は彼女だ。


理由はわからない。だが、こんな廃ビルに呼び出されることで良い事など数あるものかと自身に気張りを入れる。

深く大きく息を吸い込んだ後、目を鋭く狭まばせた。

彼女に、会うんだ。

その言葉を自分に刻みこんだ時、脚は既に廃ビルに踏み込んでいた。



一部崩れかけた壁に、至る所から覗く苔とカビの臭いが鼻を刺す。

中は外見よりも恐ろしく劣化していることが五感で感じられる。

現に上ってきた階段は大きな軋みを鳴き上げ、血圧は常時上がりっぱなしだ。

階段を登り切り、やっと軋む不安と高血圧との決別を迎えた。


胸を撫でおろし、深く息を吸いこむ

生きこんだ僕を出迎えたのは安堵でも落ち着きでもなかった。


ーーー綺麗な女性物の靴

嫌な汗が背中を撫で、全身を走る。


恐る恐る視界を靴から上げ、嫌がる瞼を押し上げる。

先の廊下を見る。部屋の扉の空いた廊下を見る。


そこに、倒れた彼女はいた。


自分でも、何を言ったか覚えていない。



彼女を抱え上げ、肩を揺さぶり必死に言葉を掛ける。

抱きかかえた彼女の頭は人間の脱力性を体現した。

外傷は無い。だが意識も反応もない。

震える手は119を入力の入力すらまともに受け付けない程に動揺していた。


「こちら198。レベル3対象と思われる人物を発見。対処します。」

背後から何の前触れもなく響いたその声に、ようやく第三者が来たことに僕は気が付いた。

自分以外の人間の言葉に触れ、僕はようやく自分のすべきことを理解できた。


「助けてください!この子、意識がなくて!」

一刻でも早く現状を伝えようと振り返りった僕に差し出された物は


柔らかな救いの手でなく、凍てつく銃口。




水に沈み込むように喉に銃弾が触れる


音を立てず、静かに銃弾が喉元を駆けていく


後部に内部からの触覚が触れる、未感覚





目眩。風穴空いた喉を空気が駆ける異感覚。吐血。喉の灼感。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!!!!!


衝動的な痛みと灼ける様な感覚。

よろよろと倒れる形で歩を後退させる。

身を制御を放り出され身を倒す形で加速。背後の小机に身を折られる。

身体から生きる術が抜けていく。

苦しみから逃れようと必死に動かした手は




卓上の薄汚れた瓶を掴んだ




死に行く過程。生命としての終わりを迎える確信。

だが、予想外にもその確信は裏切られ。


自身の生が途切れゆく感覚。それと同時に自身に流れる、未知。

空いた生を埋め尽くす未知。


それに言葉は無かったが、それを何か理解することができた。

それは言葉にならなくとも、それは確かに言の葉。

その言葉でありその用途も存在も理解した。




これは力。


これは言葉。言の葉。確かなる言葉で形無き物。


これは形を持たぬ力。外形を持たぬ刃。言の刃。


あぁ、この力の名は。この能力は。僕の身に刻まれたそれは






「言霊『テセウスの船』」






僕に刻まれたコレは確かに教えてくれた。

コレは僕に刻まれた言葉の刃であり、言の葉。言霊。


名は『テセウスの船』


同一性についての問題。

船や人を構成する細胞単位の要素が別のものに置き換わった時。

それは元の物体と同一といえるかどうか?というもの。

言霊はその事象をこの世界に引き起こす。


自身と視界内の生物以外の物質を消滅させ、1から効果範囲内に再構築する。

それが、僕に刻まれた力。刃。




僕の消滅。この世界からの消滅。



全身を毛細血管末端に至るまでに巡り走る、凄まじい速度で廻り続ける細小因子。

毛先の細胞から爪先の細胞まで、すべての僕の座標は消失していく。


その刹那、その座標にいるのは僕。

何ら変哲ない、いつもの僕。


喉を焼いた痛みも吐血散布した血も、この僕の物ではない。

後ろへ倒れかけている体を反り、全力で地を確かに踏みしめる。

体の傷は癒えている。いや、初めから僕の体に傷など存在しなかった。


「絶対に守り切る。この人だけは絶対に。」




つい先に目の前の銃に喉元を撃ち抜かれたのに。

訳のわからない異物が体に取り込まれたというのに。

絶命的な状況だというのに。

僕の頭は信じられないくらいに透き通っている。


血流では無い、何かが眼球に澄み切る。

『テセウスの船』の対象への、消滅再構築可能範囲は視界内範囲4メートル程のみ。




目の前の男がもつ銃口の先は依然変わらず僕に向いている。

だがこの状況ではむしろありがたいのかも知れない。

彼女に銃口が向けば僕は彼女の元へ全力で向かう。だがそこに『テセウスの船』でさえ間に合うという保証はない。


だが銃口が僕だけに向くとするならば事態の収束は簡単だ。



僕が制す。この状況を、この場を。





僕がこの男を倒せばいい。

閲覧いただきありがとうございます。

作者の柚原 透です。


ページ下部分にあるポイント評価をササっと、評価を着けて頂くとと幸いです!!


好評でなく、アドバイス等でももちろん大歓迎です!

評価していただけると本当に幸いです!


皆様から頂いた声を励みに、頑張っていきたいと思います!


この時間のお相手は、柚原 透でした。


作者Twitter @yuzuhara_yuki

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