2話 訓練
翌日
「それでは、早速始めましょうか♪」
朝食を終えた後、パルスクトさんに連れられて、中庭に来た
「よろしくお願いします!!」
僕は礼をする
今の僕の格好は、体操服みたいな動きやすい服だ
初めての感触が、この服が異世界の物だと認識させてくる
「先ずは柔軟です、戦いに慣れてない、ツカサ君の身体には負担が大きいですからね」
そう言って、パルスクトさんは腕を伸ばしたり、足を伸ばしたりする
僕も真似をする
「柔軟をしてるついでに、ツカサ君の訓練の目標と期限を話しておきましょう」
「期限ですか?」
「ええ、数日後に陛下から伝えられると思いますが、ツカサ君とユウキさんにはニシヤマ殿と一緒に旅をして貰うつもりです」
「勇者の装備を集める旅ですか?」
他の国にある盾とか鎧とか?
「はい、勿論お三方以外にも、優秀な護衛をつけますよ、その勇者パーティーで人助けをしながら、各国を廻り、装備を集めて、魔族の侵攻を止めてもらいます」
「それが旅の目的ですね、つまり、旅立の日が期限ですか?」
「そうですよ、8ヶ月、ニシヤマ殿が15歳になった時が旅立の時です」
「何で15歳なんですか?」
「成人になるからですね、この世界では、未成年だと色々制限されるんですよ、国境を越えれなかったりしますし……だから、成人してからになるんです」
「そうなんですか……あれ? 西山君の誕生日とか、いつ聞いたんです?」
「あ~その……」
パルスクトさんが答えにくそうに頬をかく
「あるお方がその……まあゴニョゴニョな事をしましてね」
「???」
よく聞こえない
僕が首を傾げるのを見て、パルスクトさんは僕に耳打ちする
「つまり、営んで色々と聞き出したんですよ」
「……営んで?」
「あー、セックスって言ったらわかります?」
「!!? はい!?」
流石にそこまで言われたらわかる
てか、えっ? セックス!?
「あの、西山君もですけど、僕達はここに来て1日しか経ってませんよね?」
「そうですね」
「僕達は未成年ですよね?」
「そうですよね……」
「その未成年と……その……」
「そうですよね、普通引きますよね……私も聞いた時は引きましたよ」
「それ、王様の命令で?」
「違います、この国にも居るんですよ、常識を考えない馬鹿が……」
パルスクトさんは頭を押さえる
「ただね、その馬鹿が立場がある人間だから、表向きに邪険に出来ないんですよ……はぁ、何であの素晴らしい御二人からあんなのが産まれたのか……」
「く、苦労してるんですね……こ、この話しは止めて訓練しましょう!!」
「そうですね、そうしましょう!」
これ以上、この話をするのは駄目だと思った
・・・・・・・・・・
「それでは、訓練を始めますが、その前に言いそびれた目標を伝えますね」
柔軟を終えた僕にパルスクトさんは言う
「はい!」
「良い返事です、目標は私に一撃を叩き込むこと! それくらいになれば、充分旅をしても問題ない戦闘力を手に入れられてます」
「そう、なんですか? やっぱりパルスクトさんも強い人なんですね?」
「そうですよ、これでも執事の仕事以外にも陛下の護衛を任されてますからね」
「……護衛が王様から離れてて良いんですか?」
「陛下の命令ですから、私の部下を代わりにつけてますし、訓練の時間以外は護衛の仕事に戻ってますから」
なら、大丈夫かな?
「じゃあ、先ずはパンチをやってみましょうか!」
「パンチですか?」
「ええ、一番多用するでしょうからね、真っ直ぐに出してみてください」
「わ、わかりました!」
パンチ……うーん、正直喧嘩もしたこと無いから、うまく出来るかな?
「え、えい!」
ブン!
僕は、パルスクトさんに向けて、パンチを放つ
「……あー、これは、ふむ……教えがいがありますね」
苦笑された
「ツカサ君、パンチとはこう放つんですよ」
そう言って、パルスクトさんは右側に身体を向けて
パンチを放つ
ヒュッ!
パァン!
「音が! 音が違いすぎる!!」
何も殴ってないのにパァン!って! パァン!って!!?
「さて、ツカサ君のパンチと私のパンチの違いですが……」
パルスクトさんが僕の右腕を掴む
「君は、右腕だけでパンチを放ったね?」
「えっ? あ、多分、そうです……」
「それじゃあ駄目ですよ」
そう言ってパルスクトさんは……
「先ずは脚、踏み込みが重要です」
僕の右足の太腿を触り
「次に腰、下半身からの勢いを上半身に伝えるために、しっかりと回しましょう」
僕の腰を触り
「そして、上半身もしっかりと使います、最後に右腕」
スーと手を腰から上半身、右腕に流した
「状況によっては、踏み込み等は省略しないといけない場合もありますが、それはまた追々教えましょう」
そんな訳で本格的に訓練が始まった
・・・・・・・
途中で、メイドさんが昼食を持ってきてくれて、昼休憩を取ってからまた訓練
そして夕方
「はぁ、はぁ」
「はい、今日はここまでにしましょう」
「ありがとう……ございました……」
僕は座り込む
パルスクトさん、汗1つかいてない……
「ふむ、予想よりも覚えが良いですね、これなら1ヶ月くらいで身体も慣れるんじゃないですか?」
「1ヶ月で?」
慣れたら良いなぁ……
そう思っていたら……
ボン!!
『!?』
大きな爆発音がした
音の方を見ると……大きな火柱があった
「な、なんだあれ?」
「おやおや」
少しすると、雨が降ってきて、火柱が消えた
雨? 雲1つ無いのに?
「これは面白くなってきましたね」
パルスクトさんがそう言ってニヤリと笑った
・・・・・・・・
夜、玉座の間
そこに4人の人間が集まっていた
玉座にはイスターク王
そして、彼の前にはダルガス、フラー、パルスクトが立っていた
「それで、3人の様子はどうじゃ?」
イスターク王が問う
「私から……」
パルスクトが1歩前に出る
「ツカサ君は戦い慣れしてませんね、元々、彼等の居た世界では魔物も出ないそうで、戦う事が無かったそうなので仕方ありませんが……」
ニコリとパルスクトは笑う
「覚えが良いですね、それに素直に教えを聞くので、こっちも教えがいがあります、この調子なら、何の問題もなく、彼は戦える人間になると思いますよ」
「そうか……あの子は優しい子の様だから、戦いは嫌がるとも思っておったが……心配しなくても良さそうじゃな」
「次は私!! 陛下! あの子ヤバイよ! 剥き出しの剣よりもヤバイ!」
そう言うと、フラーは指先から火を灯す
小さな火だ
「魔法の仕組みを教えて、これやらしたら、火柱が出たもん! ビックリした!」
「あぁ、あれはやっぱりユウキさんがやったんですね」
パルスクトがフラーを見る
「おぉ、あの火柱なら我輩も見たぞ、上級の魔法でも使ったと思っていたが」
「初級よりも簡単な基本魔法であれです!」
「ふむ……魔力の調整を教えた方が良いかもしれんのぉ」
「そうですね、でも城内は危ないから、街の外でやりますね、許可をもらっても良いですか?」
「勿論」
「次は自分が……ニシヤマ殿ですが……あー、本人はそれなりに対人の経験はあるようですが、まだ兵士達の方が強いと思いますね、身体能力があっても、技術が無い」
「では、その技術を教えるところからかの?」
「そうですが……陛下、アンリエ様を隔離してもらえませんか? 邪魔です」
「また何かやらかしたのか?」
アンリエ、イスターク王の娘で第一王女だ
我が儘で、自意識過剰、更に……ビッチである
イスターク王を始めとした重鎮達の悩みの種である
「ニシヤマ殿にくっついて、訓練どころじゃありません、ニシヤマ殿もアンリエ様と一緒に遊んでばかりで……」
「ふむ、それは問題じゃな……はぁ、あやつめ、全く反省しておらん」
「もう勘当した方が良いのでは? 妹様達にいつ危害をくわえるかわかりませんよ?」
パルスクトが言う
「むむむ……そろそろ、それも考えるべきか……」
こんな風に、イスターク王達の打ち合わせが進むのだった