1話 場所を変えて
ーーー司視点ーーー
西山君が勇者の剣を抜いた後、これからの事を話し合うために場所を移動することになった
王様達を先頭に僕達は歩いて
さっきまで居た暗い場所を後にした
あの暗い場所は教会の地下室らしく
剣が封印されていた聖域って扱いなんだって
「…………」
「黒川さん? 大丈夫?」
「まだ混乱してるかも……司君、これ夢じゃないんだよね?」
「だと思うよ? さっき痛かったし……」
僕はぶっ飛ばされた事を思い出す……
やっぱり、あれはおかしいよね?
僕は手をグーパーと開いたり閉じたりする
「どうしたの?」
「いや、もしかしたら、身体能力が上がってたりするのかなって……」
人があんな風に飛ぶなんて、普通じゃありえないし
でも、実感がわかないんだよね……
「よし、着いたぞ」
あ、いつの間にか椅子がいっぱいある部屋に着いた
応接室?
この部屋に居た、メイドさんに促されて椅子に座る
「それじゃあ、話を続けようかのぅ……あっ、甘いものは好きかい? 焼き菓子とお茶を用意させよう」
イスターク王が、僕達に気を利かせてくれる
メイドさんがクッキーと紅茶を持ってきてくれた
「それで? 俺達はどうしたらいいんだ?」
西山君がクッキーを噛りながら聞く
勇者の剣を誇らしげに持ってるけど……重いのか、持ってる右手が震えてる
「うむ、ニシヤマ殿達には魔族の侵攻を止めてほしい、先程も説明したが、この世界は魔族に侵攻され、争いが絶えないのじゃ……」
「つまり、魔族を全部殺せばいいんだな?」
西山君が物騒なことを言う
「……それしか方法が無ければ、そうなるかのぅ……じゃが、それは最終手段と考えてほしい」
イスターク王が宥めるように言う
「……王様は魔族と戦いたくないんですか?」
僕は聞く
「……出来れば、争いは避けたいのぉ……今までは魔族とも普通に暮らしていたのじゃ、彼等が身勝手な理由で侵攻を始めたとは思えなくてのぉ」
イスターク王は紅茶を飲む
「それじゃあ、魔族が侵攻を始めた理由を調べる所から始めるべきですか?」
黒川さんが聞く
「我輩としては、そうしてほしい……じゃが、いきなり調べてくれと言っても難しいじゃろ?」
そう言うとイスターク王は人差し指を立てる
「先ずは、ニシヤマ殿達を鍛えようと思う」
イスターク王がパンパンと手を叩く
すると、部屋に男の人と女の人が入ってきた
「紹介しよう、男の方は『ダルガス』、このイスタークの騎士総長を任せておる」
「お初に御目にかかる」
ダルガスさんは礼をする
厳つい見た目をしているけど、その仕草はとても綺麗だと感じた
か、カッコいい大人だ!!
「そっちの女の方は『フラー』と言うのじゃが……」
「……わーお」
フラーさんは人差し指と親指で輪を作って、そこから覗くように黒川さんを見ていた
「……フラー?」
「あっと、初めまして、フラーです! ここの魔法軍の団長を任されてるよ」
フラーさんはそう言うと、また輪を作って天井まで視線を上げた
「……コホン、この2人ともう1人」
イスターク王がそう言うと、彼の後ろから執事さんが歩いてきた
「『パルスクト』と申します、以後お見知りおきを」
パラスクトさんは礼をする
この人の仕草も綺麗だった……
「それで? このおっさん達が俺達を鍛えるのか?」
西山君が紅茶を飲み干す
おっさんって……
「そうじゃ、ダルガスはニシヤマ殿をフラーは……」
「お嬢さん、私が鍛えて上げる、君なら私を越えられる」
「ふぇ!?」
フラーさんが黒川さんの手を握る
「どうしたフラー? 随分とやる気じゃな?」
「陛下、この子ヤバイって! 魔力の量が半端ないの!」
「えっ? えっ?」
黒川さんが戸惑う
「そんなに凄いんですか?」
僕が聞くと
「凄いよ! ほら見て見て!」
「うわわわ!?」
フラーさんが僕の側に来て抱き寄せてきた
そして僕の目の前に、指で作った輪を出す
「……うわ、なんか見える!?」
輪の向こうにはイスターク王、なんかオーラみたいなのが見える
「これが魔力なんだけど、ほら、陛下とかダルガス総長とかはこんな感じでしょ?」
イスターク王の次はダルガスさんを見る
イスターク王より小さいけど、ダルガスさんもオーラを纏っている
「そしてあの子!」
輪は黒川さんの方に向いて……僕は黒川さんを見る
「うぉ!?」
桁違いって言葉がピッタリだ
黒川さんのオーラ……魔力はとても大きく、天井にまで届いていた
「こ、これは凄い……」
「そんなに!?」
「うん、なんか、あれ、スーパーサ◯ヤ人よりも凄い感じ」
「神?」
「ブルーよりも凄いかも……でかいもん」
「そんなに……うわぁ」
黒川さんは戸惑っている
「あ、僕はどんな感じなんです?」
フラーさんに聞くと……
「うーん……普通かな、訓練次第で伸びると思うけど……うん、頑張れ」
「そうですか……」
ションボリ
あ、西山君が鼻で笑った
「では、ユウキ殿はフラーに任せよう、ではツカサ殿は」
「私が鍛えましょう」
パルスクトさんが僕の前に来る
「頑張りましょう」
「は、はい! 宜しくお願いします!」
各々の担当が決まった後も、イスターク王の話が続いた
僕達の訓練が終わったら、他の種族の国が巡る事になるらしい
理由は、イスタークには勇者の剣が有ったように、他の国に勇者の装備があるんだって
盾と兜と鎧
全部揃えたら竜の王にでも挑むのかな?
そして、見事に勇者の使命を果たせたら、僕達が望めば元の世界に帰してくれるって
しかも、お礼として望むものをくれるとか……
勿論、この世界が気に入ったのなら、英雄として永住出来るんだって
良かった、ちゃんと帰る方法があるんだね
・・・・・・・・・
話が一段落して、晩御飯をご馳走になってから、僕達は各々の客室に案内された
訓練の間はこの部屋で暮らすんだね
「はぁ、疲れた……」
色々起きすぎだよ
まだ頭が落ち着かない
「明日から訓練か……」
パルスクトさんと少し話したけど、僕の訓練は体術らしい
「体術……空手とかそんな感じなのかな?」
まあ、戦えるようにはなった方が良いよね
しっかりと鍛えないと……
「それと……文字を覚えないとなぁ」
この客室に案内される間に、扉に書かれてる文字とか、すれ違う人が持ってた紙に書かれていた文字とか
それを見る限り、僕達の世界とは全く違う文字だった
「でも、言葉は通じるんだよね……不思議だ」
取り敢えず……明日から頑張ろう!