-二重奏・デュエット-
また地獄の時間が始まった…
柊木が転校してきて初めての音楽の授業
ご存知の通り俺は歌が上手くない
それなのに何故か声が通ってしまう
なんなんだこの罰ゲームは…
『夏、頼むから歌ってるフリだけにしてくれ…頼む…俺が悪かったから本当にやめてくれ…』
普段絶対に負けを認めないし謝るなんて事をしない冬人でさえこうなる
もうある意味才能なのではないかと自分で思うほどだ…
『なっちゃん、周りの人の声を聞いて合わせるんだよ』
『秋風、それが出来るなら最初からやってる』
『確かにwww夏くんは音程合わないけどリズムが何故か誰と歌っても合うから余計に酷く聴こえるよねwww』
こいつ…
殴りたくなるくらいヘラヘラした顔で春市にバカにされるが悲しいかな事実なだけに言い返せない…
『兵藤くん…』
急に聞き慣れない声で呼ばれびっくりして振り返ると声の主は柊木だ
『驚かせてごめんなさい、兵藤くんって普段喋っている時はだいぶ声が低いような気がするのだけど、どうして歌う時は高い声で歌おうとするの?』
確かに
言われてみたら普段会話している時より歌う時は高い声を出そうと意識して歌おうとしてる
『男子は声変わりすると初めのうちは声変わり前の様に歌おうとしてしまうと音程が取れなくなってしまうらしいから…なれるまで低い声で歌ってみたらどうかしら?』
『わかった、試してみる』
正直驚いたし周りの連中も同じように驚いている
『バカな…万年音痴の夏が…歌えている…だと…』
『夏くん、中々渋い声で歌えるじゃないですか!まぁまだ所々狂いますが誤差の範囲内でしょ!』
『なっちゃん…凄くいいよー!もっと練習したら絶対上手く歌えるよ!』
『バカ夏のくせにちょっとはやるじゃない…』
こいつら言いたい放題いいやがって…
と思ったが悪い気はしないのでここは良しとしよう
『柊木、ありがとうな、柊木のおかげで音楽の授業が少し、ほんと少しだけど楽しめそうだ』
『いえ、私は兵藤くんの声素敵なのにもったいないと思ったので…それから秋風くんも…
本当はもっと大きな声出ますよね?
あえて腹式呼吸で歌わない様にしてるのがわかります…』
『ぼ、僕、自分の歌いやすい音域だとどうしても他の男子より声高いし、実はなっちゃんより声が大きくなっちゃって…』
『なら、一度私と二重奏してみましょう!』
『二重奏?』
『はい、一般的にはデュエットと言った方がわかりやすいでしょうか』
『でも、でも、僕本当に声が大きくて…』
秋風はモジモジしながら反論しようとするも柊木に押し切られる形で本来の自分の歌いやすい音域で歌うことになる
2人が歌い始めた瞬間にそこにいたすべての人の時間が止まったかのようだった
秋風の声は普段聞いている声よりも何倍も大きい、なによりも女子でも高いであろう音域で歌っている
しかし、その秋風の歌声をも包み込んでしまう柊木の歌声
オクターブ上オクターブ下ユニゾンあらゆる音域を秋風の声に合わせながら流れる様に歌っている
『凄い、凄いわ2人とも』
クラスメイトみんなが2人を絶賛する
『秋風くん、私はあなたとならまた歌えるかも知れない…私とデュオを組んでくれませんか?』
柊木小鳥…彼女は一体なにものなんだろうか…
coming soon