ロマンスを求めて
「ただいま戻りましたわ。遅くなってしまい申し訳ございません。」
「ああ、ご苦労様。無事に戻れたようですね。書類は公爵に渡せましたか?」
図書館へ戻って声をかけると、テオドール様が書棚の間から顔を出して返事をしてくれた。
それはそうと、「無事に戻れた」とは…子供のお使いではないのだが。
やはりテオドール様こそ過保護で心配性だと思う。
「ええ、探していらした書類らしくて。お役に立てたようで良かったですわ。」
「ジュリア様!お疲れ様でした。公爵様は素敵な方でしたでしょう?」
「え、ええ。噂通り、本当にお美しい方ですのね。それに、伺っていたほど気難しい方でもないようでしたわ。」
若干食い気味に話しかけてくるオリヴィエ様に驚いたが、当たり障りのないよう返事をしておく。
「そうでしょう!私もヴィレット公爵と直接お会いしたことは数えるほどしかないのですけれど、きっとジュリア様とお似合いだと思いますの!」
「お似合い…?」
「ええ。美男美女のお二人がお並びになると、まるで絵画や物語のワンシーンのようになるのですわ!ヴィレット公爵に相応しいのは、ジュリア様をおいて他にいらっしゃいませn「オリヴィエ様!」…あら、どうなさいましたの?」
驚いた。いきなり何を言い出すのかと思えば。
それに…美男美女?美男はともかく、美女とは?私の容姿は、髪と瞳こそ美しかったお母様譲りだが、それだけだ。
稀に参加する舞踏会では、常に壁の花。元々が地味顔なので、よほど目立つ装いでなければ簡単にその他大勢に紛れられる自信がある。それはさておき…
「オリヴィエ様、私は公爵にお会いするのは今日が初めてでしたのよ?それに、書類をお渡ししに伺っただけですもの。」
「どんな恋も、出会いがなければ始まりませんわ。今日、ついにお二人が出会ったのですもの、ここから素敵なロマンスが…!」
「オリヴィエ様、落ち着いて下さい。ジュリア様が引いていらっしゃいますよ。」
「あら…コホン。つい取り乱してしまいましたわね。失礼いたしました。」
テオドール様が止めて下さって助かった。
そういえば、オリヴィエ様は無類のロマンス好きだった。恋愛ものとあらば短編小説でも長編でも、果ては新聞や大衆誌の連載コラムまで、片っ端から読み漁ってしまうのだ、この令嬢は。
恋愛小説のことに関してならば、もはや生き字引と称しても過言ではないだろう。
オリヴィエ様は、政略結婚が当然の貴族令嬢として生まれた以上、自分の恋愛はほとんど諦めていると言っていた。その代わりに、他人のロマンスや恋愛小説などから「ときめき」を貰って空想に耽り、心を満たすのだと。
しかし、大切なことを忘れてもらっては困るのだが、私も貴族令嬢なのだ。
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