クラウス・ロベール
11/08 クロヴィス→クラウス に改名しました
王太子補佐であるヴィレット様の執務室は、確か兄たち文官と同じ東塔にあるはずだ。
東塔への渡り廊下に差し掛かると、兄であるクラウスが前方から歩いて来るのが見えた。
「ジュリア!どうしたんだい?今日は頼みものをしていた覚えはないけれど?」
「ごきげんよう、お兄様。司書のお仕事でヴィレット公爵の所を訪ねるところですの。」
「司書の?そうか。ジュリアも頑張っているようで何よりだよ。ヴィレット様なら今ちょうど執務室に戻られた頃だろう。僕も戻るところだから、途中まで一緒に行こうか。」
「あら、お兄様。今しがた東塔から出ていらしたところですのに、何の用事もなさらずにお戻りになるんですの?」
案内の申し出は嬉しいが、兄にも仕事があるのだ。行動が矛盾していることをクスリと笑いながら指摘してみると、兄はやれやれと言う風に肩をすくめた。
「ははは。ジュリアには適わないな。お前の知識とその洞察力があるなら、文官としても十分やっていけるのに。よければ僕が推薦するよ?」
今度は仕返しとばかりに、兄がいたずらっぽく笑う。またこの話か。
我が家は代々文官の家系であり、兄はもちろん、父も現役で文官として王宮に仕えている。
その流れで、私も司書ではなく文官にならないかと、父と兄からしょっちゅう声を掛けられるのだ。
「結構ですわ。私は司書という仕事に誇りを持っていますし、新しい本と出会える毎日がとても楽しいのです。」
「やっぱりだめか。今の仕事が充実しているなら仕方ないね。でも、その気になったらいつでも席を用意するから、遠慮なく言っておいで。ああそうだ、週末には屋敷に帰れるから、皆に伝えておいてくれるかい?」
兄が私を誘うのがいつものことなら、私が断るのもいつものこと。
さほど残念ではなさそうに言いつつも、サラッと念を押すのはさすがである。ひょろりと背の高い優男に見えても、内政を担うやり手の文官なのだ。
「わかりましたわ。週末の晩餐にはお兄様の好物を用意するよう、シェフに伝えてもらいますわね。」
「それは楽しみだな。ああそうだ!ヴィレット様の執務室は、手前から3番目にある鷹の意匠の扉だよ。」
「ありがとうございます、お兄様!では、また週末にお会いしましょう。」
次回、ようやく公爵登場です!意外と長くなってしまった…
次話更新は11月7日を予定しています。
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