使節団(3)
『』内はトルマ語での会話です。
使節団の主要人物は全部で八人。それぞれがトルマ王国の重鎮であり、公爵や侯爵、伯爵といった貴族たちである。他にも護衛の騎士や、視察のために同行した役人に文官たちもいるようだが、こちらは個別に挨拶はせずとも構わないらしい。
順に挨拶と軽い会話を交わしていき、最後の一人の番になったところで―――それは起こった。
『お初にお目にかかります、ヴィレット・レイモンド公爵です。どうぞお見知りおきを。』
『ふん、カール・ベルクマン侯爵だ。それで、こちらのお嬢さんは?随分とお若いようだが?』
こう言っては何だが、ヴィレット様に対しても私に対しても、随分と失礼な態度である。しかし、そんな気持ちを態度に出してはならない。どんな時も笑顔で応えるのが、淑女の嗜みである。
『申し遅れました、ロベール伯爵家のジュリア・ロベールでございます。まだまだ若輩ですが、ヴィレット様の補佐として文官を勤めております。』
『ほほう、こんな若いお嬢さんが!しかもえらく美人じゃないか…君、ジュリア嬢といったね……よし、気に入った。ワシの妻にしてやろう。』
「え?」
…え、今なんと?
妻にと仰った?誰を、私を?
え……えええ!?
「ジュリア様、ここは私が。」
脳内が大パニックの私に冷静さを取り戻させてくれたのは、ヴィレット様の落ち着いた声だった。
『ベルクマン侯爵、少々お酒が過ぎたのではございませんか?どうやら旅の疲れが出たようですね。あちらでお休みされてはいかがでしょうか。』
ヴィレット様は物腰は柔らかなまま、どこか有無を言わせない雰囲気を漂わせてベルクマン侯爵の背を押す。
『おい若造!何をする!ワシはジュリア嬢と話をして…おい、聞いているのか!』
『…君、侯爵をバルコニーへお連れして。できれば酔いが醒めるまで、付いていて差し上げた方が良いでしょう。』
騒ぎ立てるベルクマン侯爵の声を、サラッと無視するヴィレット様。そして護衛として傍に控えていたトルマ王国の騎士を呼び、この場から侯爵を強制退場させた。
「大丈夫ですか、ジュリア様。」
「え、ええ。ありがとうございました。申し訳ございません、私ったら人前で取り乱してしまいまして…お恥ずかしいですわ。」
「いえ、アレは…当人同士では対応が難しいでしょうからね。気にすることはありませんよ。ジュリア様もお疲れのようですし、ダンスはまたの機会に……お互い、あとは食事と会話を楽しむとしましょう。」
アレって…まぁ、そう言いたくもなるだろう、うん。
ダンスはまたの機会って、そんな機会があるのだろうかという疑問はこの際仕舞っておこう。ヴィレット様の申し出通り、食事や会話を楽しみたい。
それにしても驚いた。妻に…だなんて、まさかパーティーの場で急にそんな話を振られるとは。お酒というものは恐ろしい。
求婚の瞬間というのはもうちょっと…こう…ソワソワしたり、ドキドキしたりする、ロマンティックなものではないだろうか。あれならば、お父様から淡々と政略結婚を言い渡される方がまだマシというものだ。
今回はヴィレット様が冷静に対処して下さったおかげで、大ごとにならずに済んだ。
―――そう思っていたのだが、この件はここで終わりはしなかった。そんなことは、今の私には知る由もなかったのだった。
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