お昼休憩(1)
「相変わらずジュリア様の速読はすごいですわね!」
4人でテーブルに着くと、隣の席に座ったオリヴィエ・クラルティ子爵令嬢様――ゆるく波打つ藍色の髪にブルーの瞳、タレ目がどこか人懐っこい印象を与える、私より2つ年上(18歳)の先輩――が胸の前で手を組み、目を輝かせてこちらを見ている。
まるで恋する乙女のような仕草だが、純粋に尊敬しているのだと以前に言われたことを思い出す。
爵位は我が家の方が上なので、敬語で話されるのは仕方がない。とはいえ、この尊敬の眼差しは解せない。職場では彼女の方が先輩で、私の方こそ仕事のできる彼女を尊敬しているというのに。
「そうそう。今日なんて3冊も読むのに、たったの3時間だろ?俺だったら1日かかるね。」
「おいおい、今日入荷の3冊は全てトルマ語だぞ?フレッドじゃあ3日かけても無理だろう。さすがはジュリア様ですね。」
「テオドール!そんな言い方はないだろう!」
フレッドと呼ばれたフレデリック・ルナン様と、テオドール・ポートリエ様。それぞれ伯爵家のご子息で同い年らしい。
フレデリック様はクセのある赤毛に茶色の瞳、貴族らしからぬ気さくな口調で、失礼に感じるどころかそれが親しみやすく、表情豊かで少年のような方。
テオドール様はサラサラとした焦げ茶色の髪に銀縁メガネ、いつも冷静で紳士的な頼れる先輩。普段は微笑みを絶やさず、誰に対しても丁寧な口調なのだが、フレデリック様に対してだけは砕けた話し方になるようだ。
一見すると正反対のおふたりだが、だからこそ互いの足りない部分を補ったり指摘したりできる親友になれたのだろう。テオドール様の鋭い物言いにフレデリック様が噛みつくのも、いつもの光景である。
こうしていると、まるで本当の兄弟のようだと、オリヴィエ様とこっそり話す。その場合どちらが兄かというのは、言わずもがなであるが。
それにしても、テオドール様は相変わらず(フレデリック様以外に対しては)紳士な対応である。「さすがは○○様ですね」なんて優しく微笑まれたら、そこらの令嬢ならあっという間に恋に落ちてしまうだろう。
私も当初はドキッとしていたが、ようやく慣れてきた。どなたに対しても一様にあの対応なのだと、初めのうちにオリヴィエ様に教えて頂かなければ、私も勘違いをしてしまっていたかもしれない。
「お褒めに預かり光栄ですわ。トルマ語はアメスト王国内ではなかなか馴染みがありませんものね。皆さんのお役に立ててよかったですわ。」
尊敬する先輩方に褒められてニヤけそうになる気持ちを押さえ、淑女の微笑みを保って答える。なぜか皆さんがニコニコしている気がするが、何かいいことがあったのだろうか?
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