惹かれている?【ヴィレット公爵視点】
ジュリア様は指示通り、図書館へと向かったようだ。
先ほどは殿下が余計なこと言いかけて焦ってしまったが、とりあえずは誤魔化せただろうか。
「…それで?どういったご用件なのでしょうか、殿下?」
「そんな怖い顔をするなよ。レイモンドがとあるご令嬢に随分とご執心だと聞いてね、様子を見に来たのさ。」
様子を見に…ねぇ。面白がっているのを隠そうともせずによくもまあ。
「それで?どうなんだ、ジュリア嬢とは?」
「そうですね。とても優秀な方ですよ。飲み込みは早いですし、仕事も迅速かつ丁寧。彼女のおかげで仕事がさっさと片付いて、休憩する時間もとれるようになりました。」
本当に彼女には感謝しかない。「頭脳労働には甘いものが良い」と教えてくれたのも彼女だ。
今後はお茶請けの菓子を用意すると言ったら嬉しそうにしていたな。
「ああ、そういえば彼女はお茶を淹れるのも上手でしてね。次に訪ねていらっしゃるときには、お茶菓子でも持ってきていただけると嬉しいです。」
「そういうことを聞いてるんじゃないよ!わかっててはぐらかしているだろう。」
「さて、何のことでしょうか。」
「ったく…まあ、彼女が優秀で君の負担が減っているのなら、それはそれで良いことだな。さすがはロベール伯爵家の血筋、あの外務長官殿のご令嬢だな。」
殿下は何気なく口にしたつもりかもしれないが、その言い方はいただけない。
「それは聞き捨てなりませんね、フランシス殿下。私が彼女を補佐付にと望んだのは、彼女自身の才能を買ってのことです。ロベール伯爵家や外務長官は関係ありませんよ。」
「わ、悪かったよ、そんなに怒るなって。…でも“才能を買って”だけじゃないんだろう?」
「どういう意味です?」
「どうもこうも…なら単刀直入に聞くが、レイモンド。君、彼女に惹かれているんだろう?」
惹かれている?それどころではない。
はじめはその見目と気品ある所作が目を引いた。少し話すと、機転がきき知性溢れる女性だと感じた。
そして一緒に働くうちに、その仕事ぶりや気遣いに感心し、ちょっとした表情の変化に心が温かくなるのを感じた。
さすがに殿下の目は誤魔化しきれないか。ここで否定したところで、殿下は信じないだろう。正直なところ、放っておいてほしいのだが。
「はぁ…否定はしませんがね。人のことよりも、殿下ご自身のことはどうなんです?いつまでも王太子が未婚どころか婚約者も不在では…」
「さて!話も終わったし、そろそろお暇しようかな。」
いつもこうだ。こと自分の結婚だ婚約だの話になるとすぐ逃げに走る。補佐としては、殿下にもいい加減身を固めていただきたいのだが。
今回は見逃して差し上げますがね。
「どうぞそうなさってください。」
「愛しのジュリア嬢によろしくな。次に来るときには、美味しい菓子を差し入れるとしよう。」
「ひと言多いですよ。差し入れはありがたくいただきますけれど。それと、こちらの書類は殿下の確認が必要なものですので、お願いいたします。」
そう言って書類の束を差し出すと、殿下の顔が曇った。これくらいの量、殿下ならすぐに処理できるだろうに。
「こんなにか?…わかった!わかったからそんな目で睨むなって。美形の真顔は怖いんだぞ?そんな顔見られたら、ジュリア嬢に嫌われてしまうかもな。」
それは困る。そんなに怖い顔をしたつもりはないのだが…
「それじゃあ、今度こそお暇するとしよう。がんばれよ、レイモンド!」
「余計なお世話です。」
「ははっ。じゃあな。」
(それにしても、あのレイモンドが恋…ねぇ。無茶な異動の件といい、あの褒めちぎりようといい…どう考えても本気、というかベタ惚れだろう。“否定はしない”とかいって、自覚がないのか?
――それとも、自覚した上でのあの振る舞いか?どちらにせよ、面倒な奴に好かれたもんだな、ジュリア・ロベール伯爵令嬢。)
ようやく恋愛小説っぽくなってきましたかね?
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