王太子の来訪
フランシス・アメスト王子―――アメスト王国、王位継承権第一位の王太子殿下である。御年は確かヴィレット様と同じ21歳。
整った高貴な顔立ちを彩るのは、輝く金髪に紫水晶を思わせる瞳。紫色の瞳は、王家の血筋に特有のものだと歴史書で読んだ記憶がある。
突然の王太子殿下の来訪に私は驚いたが、ヴィレット様は落ち着いている。
殿下とヴィレット様は王太子とその補佐という立場であり、なおかつ同い年ということで気心の知れた仲なのだろう。突然の訪問も珍しくはないのかもしれない。
「お邪魔するよ、レイモンド。」
「フランシス殿下…何か御用ですか?」
「まぁね。ロベール伯爵令嬢、舞踏会以外では初めまして、かな。」
想像以上に気さくな口調に驚いたが、淑女の礼をしつつ答える。
「仰る通りでございます、王太子殿下。」
「ああ、そんなにかしこまらないでくれ。堅苦しいのは公の場だけで十分だ。気軽に“フランシス”とでも呼んでくれ。」
なんて無茶を。王族を気軽に名前で呼ぶなど、兄弟や婚約者でもあるまいし。
「身に余る光栄ですが、謹んでお断り申し上げます。礼は省略いたしますが、呼び方は譲れませんわ。どうかご容赦ください。殿下。」
「わかったよ。…それにしても、礼儀作法は完璧、なおかつ聡明で美しい。さすがはレイモンドがご執心なだけは「殿下!」…なんだよ。」
「用件というのは例の法改正の件ですね。ジュリア様、申し訳ないのですが王立図書館でこのリストにある本を借りてきていただけますか?なんでしたら息抜きがてら、司書の皆様とゆっくり話をしてきていただいて構いませんよ。」
ヴィレット様は殿下の言葉を遮ったかと思うと矢継ぎ早にそう告げ、私にリストを手渡してきた。
本を借りに行くなど、さほど急ぎの用件ではないと思うのだが…何か聞かれるとまずいお話なのだろうか。
国政にまつわる重要機密であれば、王太子補佐付といえども聞かせられない内容もあるだろう。
私は二つ返事で執務室を後にし、図書館のある北塔へと向かった。
そういえば、殿下が何やら随分と私のことを褒めていた気がする。
礼儀作法はお母様と家庭教師たちから叩き込まれたので、ひと通りは問題ないはずだ。しかしながら、貴族令嬢であれば誰でも身に着けていて当然の嗜みである。
その他は…聡明で美しい、だったか?あー、否定し損ねた。どうせ社交辞令なので構わないということにしよう。ヴィレット様がご執心というのは、部下として欲しがったということだろうし、それはまあ否定できない。
考え事をしながら歩いていると、あっという間に慣れ親しんだ北塔が見えてきた。
さて、執務室の方が内密なお話の最中なら、あまり早くに戻るのはよくないだろう。せっかくなので、お言葉に甘えて司書の皆様とお話もしたい。
図書館の方が忙しくないといいのだが。
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