ジュリア・ロベール伯爵令嬢
「あら?これは…」
ここはアメスト王国王立図書館。司書である私、ジュリア・ロベール(これでも一応伯爵令嬢)は、返却された本を点検している真っ最中。
この王立図書館は、アメスト王国王宮の北塔にある。ここには、国中から集められたあらゆる書物が納められており、最近では周辺諸国から収集した書物も増えてきている。
司書としては仕事が増えて大変ではあるのだが、本好きの私個人としては嬉しい限りである。おっと、また考えが脱線してしまった。
「これは、書類…かしら?栞代わりではなさそうですし、誤って挟んでしまったようね。貸し出し記録は…っと。レイモンド・ヴィレット様というと、あの王太子補佐の?」
レイモンド・ヴィレット公爵――――21歳という若さで公爵位を継がれただけでなく、王太子殿下の補佐としてこの国を支えていらっしゃる方。
誰もが振り返るほど整った容姿に加えてこの地位と財力。にもかかわらず現在は恋人も婚約者もいらっしゃらないため、縁談が引っ切りなしに舞い込んでいるのだとか。
ちなみに私自身、彼の公爵様にお会いしたことは一度もない。情報源は、やたらと情報通の同僚である。
「お仕事に必要な書類でしたら大変ですわ。午後にでもお返ししに参りましょう。」
午後は特に急ぎの仕事はなかったはずだ。
午前中は、今朝届いた本を確認して分類しなくてはならない。新しい本との出会いはいつでもワクワクしてしまう。
誰よりも早く新刊に触れて読むことができるのだから、役得である。
「申し訳ありませんが、今日届いた本の確認はジュリア様にお願いしますね。」
テオドール様が申し訳なさそうに、今朝届いた3冊の本を差し出してきた。
「はい。お任せくださいな。この数でしたら午前中には終わると思いますわ。」
私はワクワク感が顔に出そうになるのをどうにか押さえて、すました顔で本をそっと受け取った。伯爵令嬢たるもの、人前では子供っぽい振る舞いは控えなくては。
新刊が届くと、ジャンル別に分類するために、ある程度内容を把握する必要がある。本来は司書皆で分担して行う作業なのだが、今日は私ひとりだ。
今朝届いた本はトルマ王国から寄贈された本であり、当然トルマ語で書かれている。そのため、読める人間が限られているのだ。
「これもみんなお母様のおかげね。他国へ嫁ぐことになんてならないのになぜ?と思っていたけれど…」
私はこれでも伯爵令嬢であり、亡くなったお母様は優しく美しく、そして教育熱心な人だった。
貴族としての教養や作法はもちろん、ダンスに語学、果ては料理や掃除など、およそ令嬢らしくないことまで教え込まれた。
曰く「知識や技術は、いくらあっても困るものではありません。上に立つ者だからこそ、使用人の仕事までもきちんと把握なさい。たとえ実践はできなくとも、知ると知らないとでは雲泥の差があるのですよ。」とのことだった。
容姿はお母様には遠く及ばないけれど、お母様譲りのプラチナブロンドの髪とエメラルド色の瞳、そして今までの経験は私の誇りであり、お母様が生きた証でもある。
別のことを考えながらでも、目は文字を追い、手はページをめくり、頭は情報を処理していくのだから不思議だ。3冊の本を流し読みし、それぞれの内容を簡単に書き留める。
すると、ちょうどお昼の鐘が鳴ったので、いつも通り先輩たちと一緒に、王宮の大食堂で昼食をとることにした。
初投稿につき、誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m
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