お口に合うといいのですけれど
時折窓の外を確認し、そわそわしながらあの方の来訪を待つ。
少しすると、玄関の呼び鈴が鳴った。
飛び出しそうになったところをライラに止められ、ひとつ深呼吸をしてから玄関ホールへと向かう。
「ごきげんよう―――オリヴィエ様。」
「ごきげんよう、ジュリア様。お招きに与り光栄ですわ。」
そう、今日はオリヴィエ様との二人のお茶会の日なのだ。以前差し入れていただいたお弁当のお礼の約束が、ようやく果たせる。
相談に乗ってもらいたかったのでジェラルド様も誘ってみたのだが、お忙しいからとお断りの返事をいただいた。
「もう準備はできていますわ。お身体が冷えていらっしゃるでしょうから、さっそくお茶にしましょうか。」
「ええ、ありがとうございます。」
そうして案内した先にはセッティング済みのテーブル。その上に並ぶのは、サンドイッチや焼き菓子、そしてティーセット。
テーブルを挟んで座り、ライラにお茶を淹れてもらう。
「これは、ミルクティー…ですの?刺激的というか、珍しい香りですわね。」
目を丸くして尋ねてくるオリヴィエ様。
「ええ。東方の国で飲まれているスパイスのきいたミルクティーで、“チャイ”という飲み物ですわ。お口に合うといいのですけれど…」
公爵領のお義母様達から届けられた物の中に、スパイスが割とたくさんあった。そこで、以前見つけた、香辛料やハーブに関する書物に書いてあったレシピを参考に、料理の練習のときに淹れてみたのだ。
美味しいのはもちろんだが、スパイスのおかげで身体がポカポカと温まるため、寒い季節には嬉しいと使用人の皆さんの間でも好評らしい。
「とっても美味しいですわ。それに、心なしか身体がポカポカするような…」
「スパイスには、身体を温める作用をもつものもあるそうですの。ですから、きっとそのおかげですわ。」
「さすがはジュリア様、博識でいらっしゃるのね。」
身体が温まったところで本題に入る。
「実は、オリヴィエ様に相談があるのですが…」
「ふふ、公爵夫人のお役に立てるだなんて光栄ですわ。私でよければ聞かせてくださいな。」
オリヴィエ様のちょっとした茶化しに、気を遣わせまいとする彼女なりの気遣いを感じる。本当に素敵な先輩である。
「ありがとうございます。」
オリヴィエ様は、うんうんと相槌を打ちながら聞いてくれた。
私とレイモンド様が、その…相思相愛だという噂のこと。
私たちが婚約に至った顛末や他の諸々までも脚色され、間違った情報が独り歩きしていて不安に感じたこと。
なぜか私たち夫婦がやたらと英雄視され、持ち上げられてしまっていること。
全体的には、あからさまな嘘ばかりというわけでもない。曲解が曲解を招いた結果、事実との乖離が大きくなりすぎた、という印象だった。
しかし、その話を鵜呑みにした人たちの目には、現実の“私”という人間は随分とつまらないものに映るだろう。
そうでなくとも、間違った噂話を放置し続けるわけにはいかない。しかし、私が否定しようとすると誰もが「またまたご謙遜を」と言って、まともに取り合ってくれないのが現状だ。
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