帰宅
ダントン侯爵の尽力のおかげで、司書仲間の皆様への挨拶と引継ぎは滞りなく(?)済んだ。
オリヴィエ様は「運命の赤い糸が~」などと目をキラキラさせていた。否定はしておいたが、果たして聞いていたのかどうか…
テオドール様は顔が引きつっていて、眼鏡がピシリと音を立てたような気がした。急な引継ぎが大変だったのだろう。申し訳ないと思っている。
フレデリック様からは「寂しくなるけど、ジュリア嬢ならどこへ行っても大丈夫」と言われた。お世辞が苦手な彼の褒め言葉に、嬉しくなった。
ジェラルド様は、困ったことがあればいつでも相談に乗ると言ってくれた。やっぱり過保護…いやいや。よき同僚であり、よき友人である証拠だ。
同じ王宮に出仕しているのだし、文官と司書なら資料探しなどで会える機会もあるだろう。うん。そんなに寂しくはない。ないったらない。
―――来週から、私は文官として出仕することになるのだ。
それはそうと、今夜はお兄様が久しぶりに屋敷へと帰ってくる。念のため確認したところ、今週末はお父様も帰るらしい。今後のことについて相談もしたかったので、助かった。
私室であれこれと考えていると、玄関ホールから声が聞こえてきた。きっとお兄様とお父様が戻られたのだろう。
侍女を呼び、手早く身支度を整えて貰ってから玄関ホールへと向かう。
「お父様、お兄様、お帰りなさいませ。」
「おお、ジュリア。出迎えをありがとう。」
「ただいま、ジュリア!今日のディナーはなんだい?もうお腹がペコペコなんだ。」
うっかりコケそうになった。久々の実家でまず気にするのがディナー…
「お兄様。献立を尋ねるなら相手が違うでしょう?それに、帰宅して第一声がそれだなんて、お行儀が悪いですわ!」
「家でくらい気を抜いてもいいじゃないか。今日のディナーを楽しみに、仕事を片付けて帰ってきたんだよ?」
「そうそう。大きな仕事が片付いて、やっと堅苦しい王宮から帰って来られたんだ。」
ああもう!こうやってしれっと自分たちのペースに持っていくのだから、お兄様とお父様はタチが悪い。
こうなったら何を言っても暖簾に腕押しなので、さっさと折れてしまおう。
「そうですわね。では、晩餐まで応接間でお茶でもご一緒にいかが?今なら私の焼いたクッキーがございますの。」
「ジュリアのクッキーか、いいね。久しぶりにいただこうかな。お父様はどうしますか?」
「そうだな。せっかくだから貰おうか。ジュリアの近況も気になるところだ。」
この様子だと、お父様も私の異動の件を耳にしているようだ。話が早くて助かる。
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