明日の予定は
「ところで、今日はどのようにお過ごしだったのですか?」
レイモンド様の言葉に、沈みかけていた気持ちが微かに浮上するのを感じた。彼なりに、私のことを気にかけてくれてはいるようだ。
「今日はモニカに案内してもらって、お屋敷の細かな所を見て回ったり、使用人の皆さんに挨拶をしたりしていましたわ。少しでも早く、このお屋敷に慣れたいと思ったものですから。」
あ、まずい。これではまた奥方気取りだと思われてしまうかも…いやまあ、実際に奥方なのだけれども。
「モニカが…そうでしたか。使用人たちは貴女に会うのを楽しみにしていたようですから、皆喜んだでしょうね。」
よかった、この件では特にお咎めはないようだ。そして、レイモンド様は思いのほか使用人の皆さんのことを理解していらっしゃるようだ。現に皆さん、ものすごい歓迎ムードだった。
「ええ、皆さんとても良くしてくださいましたわ。」
少しの間、室内に沈黙が流れる。しかし、気まずいものではない。執務室での休憩中にもよくあった沈黙。私達の間では、話題を切り替えるための間のようなものだ。
「ああ、そうだ。緊急の呼び出しは今日だけで、明日は予定通り休みになりそうです。」
「まあ、そうですの。では、ごゆっくりお休みくださいな。」
よかった。火急の用件というのは、一日で片付く案件だったようだ。せっかくの休暇を潰されてばかりでは、さすがのレイモンド様も参ってしまうだろう。
「ええ。明日は一日、リアと一緒に過ごせます。」
予想外の発言に、しばし固まる。“一緒に過ごせる”だなんて、そんな甘い言葉を彼の口から聞くとは思わなかった。
「リア?もしかして、既に何か予定がありましたか?」
レイモンド様の訝しげな声で、鈍っていた思考力が戻ってくる。
「い、いいえ。何もございませんわ。明日は何をしようかと迷っていたくらいですの。」
これは本当だ。強いて言えば使用人の皆さんと親交を深めていきたいが、必ずしも明日しなければならないことではない。
「そうですか。それならば、明日の予定は私に任せていただいても?」
「もちろんですわ。楽しみにしております。」
もういい時間なのでと、レイモンド様は退室していった。ライラにも、茶器を片付けたらそのまま休むように伝える。
レイモンド様からあのような申し出があるとは、思ってもみなかった。これを機に、少しでもレイモンド様との距離を縮められたら…とは思うのだが。あまり距離が縮みすぎても、心の内を悟られてしまいそうでよろしくない。
もういっそ「お慕いしています」と伝えてしまおうか、という考えが頭をよぎる。そんなことをすればレイモンド様を困らせてしまうだろうし、下手をすれば離縁を言い渡されるかもしれない。それだけは嫌だ。
適度な距離感を保ちつつ徐々に親交を深めて、いずれは信頼し合える真の夫婦に…そんな器用な真似が、私にできるだろうか。
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