手を繋いでいたい
レイモンド様と馬車を降り、一緒に街を歩いているのだが…周囲の視線がとても痛い。
周囲の女性たちが次々に振り返り、レイモンド様に見惚れているのが伝わってくる。いや、女性だけに止まらないかもしれない。それもそうか。レイモンド様は容姿端麗で背も高く、気品があり、何よりもその圧倒的なオーラ。人の目を惹いてしまうのは仕方のないことなのだ。
街中ならば人が多くてさほど目立たないかと思ったのだが、甘かった。むしろその大勢いる人々――老若男女問わず――の視線が一様にレイモンド様に釘付けなのだ。ついでにその隣を歩く私への、嫉妬と値踏みの混ざった視線も痛い。
すみませんね、レイモンド様の隣を歩くのが私のような地味な女で――少し前の私ならそんな卑屈なことを考えたのだろう。
しかし、今の私はそんなことを言っていられないのだ。私自身に対する評価は変わらないが、それでもこの場所、レイモンド様の隣を誰かに譲るつもりはない。こんな私でも、レイモンド様の正式な婚約者なのだ。
隣を歩くレイモンド様に目をやると、特に気にしていない様子。彼にとってはこの程度の視線は日常なのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、すれ違った誰かの肩にぶつかってバランスを崩してしまった。
「きゃっ!」
「リア!」
咄嗟にレイモンド様が手首を掴んで引き寄せてくださったので、無様に転ぶようなことがなくてほっとした。
「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます。おかげで助かりましたわ。」
「当然のことです。」
落ち着いて今の状況を確認してみると、あまりの距離の近さに息をのんだ。引き寄せ…というよりは抱き寄せられている状態。
「……」
「……」
無言で見つめ合う(?)こと数秒。
「あの、レイモンド様?もう手を離していただいても大丈夫かと思うのですが…」
「そうですか。しかし、人も多くて危ないですので、手はこのままでも?」
え。
「そ、それは…」
「ご迷惑、でしょうか。」
あ、まずい。レイモンド様の声が少し低くなった。せっかく気遣っていただいたのに、ご気分を害してしまっただろうか。手首を握っていたレイモンド様の手から力が抜けていく。
「いいえ、迷惑などでは……で、ではこうしましょう!」
「…っ!」
慌てて否定しつつ、手首から離れかけていたレイモンド様の手に自分の手を重ねる。どうせなら、手首を握られるよりも手を繋いでいたい。
自分から手を繋ぐのは少々恥ずかしかったが、せっかくのデー…お出かけで彼に不快な思いをさせるよりマシだ。
レイモンド様がどんな反応をしていらっしゃるか気になるところだが、今はそれどころではない。熱が集まって真っ赤になっているであろう、この顔を見られないためにも、顔を背けるのに全力を費やさなくては。
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