貴族令嬢の役割
―――ここ十数年で、このアメスト王国で働く人々の様子はガラリと変わった。
以前はメイドや小さな商店の売り子など、女性の働ける場所はかなり限られていたのである。
特に、貴族階級の令嬢は働きに出ることなどほとんどなく、せめて行儀見習いや侍女として王宮や上級貴族に出仕するのが通例であった。
しかし、十数年前に始められた改革により、女性の活躍が推し進められるようになったのだ。
その結果、商人や芸術家、医師に文官と、多くの職で女性が活躍するようになった。
また、各分野において女性目線での改革や改善がなされ、アメスト王国はより良い方向に向かっているといえる。
今では、オリヴィエ様や私のような貴族令嬢も、本人が希望し、かつ能力が認められれば、司書や文官などさまざまな職で王宮へ出仕することも叶うようになった。
それでも、やはり貴族には貴族なりの役割やしがらみがあるのだ。そのひとつが結婚である。
結婚――婚姻とは、家と家、貴族と王家、国と国を繋ぐもの。
もちろん、貴族同士の恋愛結婚もなくはないのだが、多くは政略結婚である。それは貴族令嬢として生まれた者の義務であると理解しているし、私もいずれは…と覚悟もしている。
話が逸れた。
とにかく、貴族令嬢だからと恋愛を諦めたオリヴィエ様と同様に、私も貴族令嬢なのである。
それに、今日の出会いはオリヴィエ様の期待するような、運命的な何かしらではない。あくまでも仕事の一環でしかない。
おまけに、私は本と、本に携われる司書の仕事が大好きなのだ。お兄様にも言った通り、誇りをもってこの仕事をしているし、今のこの状況に大変満足している。
残念ながら今のところ異性にも恋愛にも、さして興味はない。年頃の令嬢としてはどうかと思われるかもしれないが、それが事実。
オリヴィエ様には申し訳ないが、私にロマンスなど期待されても困るというのが正直なところである。
「オリヴィエ様。私、今は司書のお仕事で手一杯ですし、毎日が充実していますの。ヴィレット公爵には数多くの縁談が舞い込んでいらっしゃると有名ですし、そちらからのロマンスを期待なさった方が望みがありますわ。…それに、あんなにお美しい方の隣に並ぶなんて、恐れ多いですもの。」
「ジュリア様ったらまたそんなことをおっしゃって!」
「ほらほら。もうその辺にして、仕事に戻りましょう。オリヴィエ様、午後は貸出と返却の受付業務だったでしょう?ジュリア様は、よろしければこちらを手伝っていただけますか?」
助かった。恋愛モードに入ったオリヴィエ様を止めるのは私には難しい。
「もちろんですわ。それではオリヴィエ様、お話の途中で申し訳ございませんが、失礼いたします。」
テオドール様の助け舟に感謝しなくては。さすがは気遣いのできる紳士。
私が困っていたので気を利かせてくれたのだろう。
「テオドール様、ありがとうございます。」
「さて、何のことでしょう。」
助けたことを恩に着せず、とぼけた風にサラリと受け流す振る舞いもさすがである。この場はテオドール様のご厚意に甘えるとしよう。
「ふふ。何でもないですわ。これは…目録の再編でしょうか?」
「ご明察。今日中にこの書棚の分を終わらせたいので、早速取り掛かりましょう。」
読んで下さってありがとうございます。
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