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星廻りの夢3「力量」

1日1章、進めています。

とはいえ、今日は2章目です。リアルでは、サラリーマン管理職なので、このペースをいつまで維持できるのかは定かでないのですが、できうる限り続けます。

応援よろしくお願いします。


「破れた夢の先は、三角関係から始めます」星廻りの夢は、「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました」記憶の舞姫の続編(サナレス過去編)です。

シリーズとして長編ですが、お付き合いよろしくお願いします。

              ※

「はぁぁぁ……」

 ため息しか出ない。


 このときサナレスは後悔先に立たずということわざを、苦言として自分の中に刻み込むことになる。


 半年前に学院シリウスで首席の成績を収めてしまった。

 それはサナレスにとって計算外の汚点だった。


 力加減がわからず、総合成績ではルカをも抜いて第一位、サナレス・アルス・ラーディア、ーーラーディア一族の王位継承権第三皇子の名前を轟かせてしまった。

 これは王宮内や、貴族内だけの噂にはどまらず、ラーディア一族中に広がった。


 どういうことだ?、と人々は噂した。

 第三皇妃の息子は、これまで名前も聞いたことがないほど、凡人。否、どちらかというと愚息だったはずだが、と。


 たかが学院の試験、されどシリウうスという名門、国立の学術機関の試験だった。

 ルカの口車に乗って、本来学院へ通う目的を忘れ、本気を出してしまった。

 侮っていた。学院の年度末試験の知名度の高さを目のあたりにし、サナレスは自分の浅はかさを嘆いた。


「ふうんーー。脳ある鷹は爪を隠すってこれか? おまえやっぱり、私よりも成績いいのな」

 ルカが感心して、成り行きでそういうことになったサナレスの有言実行を労ったが、嬉しくない。しまったと思ったときには、とき既に遅かった。

 いっときでも王位継承権第三位などと、人の口に登ってしまった。


 王位継承者として肩を並べる義兄達からも、無害と認識されていたサナレスは、まずいことに有害になるかもしれないと警戒される存在になってしまった。

 彼らに敵視されると、面倒でしかない。


 ーーだからこその、あえての遊郭遊びだ。

 女遊びは、ため息が出るほど飽きていた。

 けれど王族に献上される財力を持ち出し、日毎遊郭で贅沢三昧という悪名が、今のサナレスにとっては大事だったのだ。言われなくとも、自分自身がこの行為を恥だと知っている。


 王位継承権がある対象者から外れるためだ。

 目的は一つだった。


 王位など継いでしまったら、自分の夢がその時点で潰えてしまう。それが怖かった。自分が目指すのは、追放なみの自由なのだ。


 年度末試験から学院への出席率も最低限を意識した。例え出席したとしても、後ろの方の席を陣取って、一目につくように体を伸ばして眠っていた。


 せっかく長い期間、色に狂った皇子を演出してきたのだ。年度末試験のあの一度だけなら、「あのときたまたままぐれで」と言い逃れすることも十分可能だ。

 嘘偽りのこの状態を、サナレスとて好ましいとは思っていなかった。

 

 でも国を背負うなんて嫌だった。

 だから壊れるほど、毎日酒を浴びる日々に現実逃避するのだ。


 夢を叶えたい。自分の中の大義があった。

 ーーけれど怠惰である日々もまた、日常になりつつあった。

 人は忙しいのだ。やりたいことが叶わなくても、日々を過ごす方法は多様化していて、誘惑も多い。


 自分は、いつかラーディア一族を出て自由に羽ばたいてみせる。

 サナレスは束の間眠りについた。


       ※


 ジウスに呼び出された謁見の間で、サナレスは実の父親と視線すら合わせなかった。


 白大理石を敷き詰めた床、天井に所々アメジストを用いて細工したその部屋は、この部屋の主人に似て氷で作られているように冷たい。


「随分と遅かったな」

 午後に来るように言われていたが、起きることができずに訪れた時間は、その日の夕刻だった。時間を無視した訪問を咎めることもなく、ジウスは彼が読んでいたらしい書物を閉じて傍に置き、微笑んだ。

 その笑みは、サナレスが一瞬見惚れてしまうほど美しい。


 神として完全である、透明感のある美しさだ。

 義兄弟はジウスを父上と呼ぶが、サナレスにはそれが躊躇われた。


 こんな神々しい人間離れした男が父などと、どうして認めることができるだろう。

 そもそもこの男の息子でなければ、面倒な画策をすることもなかったと思うと、腹が立つ。サナレスは反抗期の絶頂だ。


 どうせ説教されるのだろうと、斜め上を見る。聞き流す姿勢はできていた。

「やりたい放題は楽しいか?」

 それなのに、ジウスが発した一言は、見事にサナレスの神経を逆撫でした。


 誰がやりたい放題しているって!?


 食ってかかりそうになる自分を、懸命にサナレスは抑えた。

 ジウスは賢い。

 相手のペースに巻き込まれるなど、もう2度とごめんである。


「可愛い子(女)が多くて忙しいのですよ、ジウス様」

 ジウスは人の子の親という存在からは程遠い。サナレスは適当に切り抜けようと言葉を選んだ。


「皇子は嫁選びに忙しいのだな」

 遊郭に出入りしていることを、知らないジウスではないはずだ。

 とぼけたことを言われ、サナレスはくすっと笑った。


「少し、考えごとをしていて、呼ばれていたことを失念しておりました。すみません……」

 寝ていただけだが、適当に言い訳する。


「ーーで、要件とは? 遅くなりましたし、後日に改めることも出来ますが……、火急の用であればお聞きします」

 ジウスが過分に自分に期待して話すこともないだろうと、サナレスは畳み掛ける。


 一方ジウスからの反応は違った。

「さすがに感がいいな。察する通り急ぎ話しておかねばならんことだ」

 サナレスは虚をつかれ、ジウスを見る。


「おまえは、ラーディアの外で起こっている現状をどれくらい把握している?」

 ジウスは遅くなった訪問の無礼を責めることもしなかった。


「人の子の争いが、神の氏族も巻き込んでいることを、耳にしてはおりますが……」

「それについての、おまえの意見を聞いておきたい」

 ジウスはサナレスを凝視した。


 ジウスは、ここ最近の自分を咎めることなど一切考えていない様子だ。

 一族の総帥として意見を求めているのだ。それがわかるからサナレスも視線を逸らさず、ジウスを見つめ返す。


 互いの意思を見抜こうとする欲望を、視線で交わし合う。

 けれど二人とも、そう簡単に手の内を見せるほど迂闊ではなかった。


「私が意見する前に、なぜそんな質問をするのかということを、お聞かせいただきたいのですが」

 所詮若輩者のサナレスからの意見など、ジウスが本心から求めているとも思えなかった。


 聞いておかなければならないのは、父が自分をどう認識しているかだ。

 キッパリというと、ジウスは唇の端に笑みをたたえた。


「やはり、おまえは用心深いな」

「ーーええ。事が事ですので」


 もし第一皇子に続いて、出陣してくれなどと命じられたら、たまったものではない。


「心配するな。特段おまえにだけ、この質問をしたわけではない。あれらにも、今日おまえに問うたことと同じことを聞いてみた」

 あれらーー、とはサナレスの義兄弟のことを指す。


 サナレスはジウスの質問に受け答えした義兄弟達の間抜け顔を想像して、思わず吹き出しそうになった。


「大方、賢明になって正論をお答えになったのだと思いますが」

 サナレスがそういうと、ジウスは苦笑した。


「その通りだ。あれらは自分の意見が如何に正しいか、私に示す機会ができたと必死だった。我が子ながら思慮の浅さには失望したよ」


「それはきついですね……」

 サナレスは義兄弟達に同情した。ジウスにそこまで言わせる方も、言わせる方なのだけれどーー。

「それでサナレス。おまえは何と答える?」


「つまり、戦についてですか……?」

 父に気に入られるつもりもないサナレスは、確認するように言った。


「戦は反対です。何が理由であろうと、戦がもたらすものは無残な焼け跡と悲しみでしかない。せっかく人が築き上げてきた文明を焼き払うなど勿体ない。どんな正論を並べ立てても、人と人が争うこと、人が人を殺すことに私は賛同できない」

 だから皇子として戦地に行けなどとは、決して口にしてくれるなと、垣根を作って自分を守る。


「ならばサナレス、私が今起こっている争いを、武力でもって制圧すると言ったら、おまえは何という?」

「火に……油を注ぐだけかと思われます」

「では放っておけと?」

「はい。武力でもって人の行いを制するなら、人は家畜以下ということになりましょう」


 ジウスは笑った。


「では、もう一つ聞く。例えば、このラーディア一族に、ダイナグラムに敵が攻め入ってきたら、おまえはどうするのだ?」

 一瞬、沈黙がおりた。


 昨今食糧事情が悪くなったとはいえ、ダイナグラムは平和で、戦の陰りなど一切無い。

 もしダイナグラムに火の手が上がったら。それを想像することは難しかったが、サナレスは言った。


「ーー逃げます」


「そうか……」

 簡潔に答えると、ジウスは小さく笑った。


 国や一族を捨て逃亡する事が、決していいとは思っていない。けれど無益な戦いをする理由は見つからなかった。

「私は生きるために、逃げるでしょう」

 サナレスはジウスの笑いに抵抗するかのように、自らの意見を述べた。


「それもいい」

 ジウスはそう言って、サナレスに意見を求めるのをやめた。

 そしてサナレスにラーディアの財源についての話をした。


 王族や貴族が豊かでいられるのは、一族内外からの民から、神として献上品を祀られているからだ、とジウスは言った。

 民里が貧しくなれば貴族も同じだと、わかり切ったことを言う。


「サナレス。おまえはしたいようにすればいい。ーーけれど、おまえが今したいようにしているのは、一族の民からの恩恵によるものだ。誰かが汗水たらして労働し、私たち王族に希望を持って金銭や食料を奉納している。ーーそれを心えよ。私達は特別ではない」

 心にずしんと響く、重い忠告だった。


 夢ばかりを追い求め、自らの才覚を偽り、何もしていない自分に嫌気はさしていた。


 遊郭へ持ち出す金ですら、王族への分配金だ。

 こんなことで本当に、夢なんて叶えられるのか!?

 人の稼いだ金で、怠惰な日々を送り、夢だけは大きなことを言って、周りを見ない。

 この身勝手さに目を背けたまま、いったい何ができると言うのか。


 小言を言われ咎められるより、数十倍刺さる言葉だった。

 ジウスの元を辞して、神殿廊下に出ると、徐にサナレスは壁に拳を叩きつけた。


 ギリ、と唇を噛み締める。

 全て自分自身が手に入れたもので無いことを突きつけられ、サナレスは己が力量を知る。


 ジウスが自分達は特別ではないと、釘を刺してきた。

 今の住まいも、学院での生活も、才覚を偽るための遊びでさえ、金の出所は王族だからだ。貴族を追放されたルカがストイックに頑張る姿を横で目にしながら、いったい自分は何をしていた!?


 地位や身分じゃない。

 必要なのは、力だった。


 顔面は蒼白になったけれど、握る拳には力が入る。


 遊郭は才を隠す隠れ蓑だ。皇子として政権争いに巻き込まれないための、サナレスが考えた画策だった。


 けれどせめて、遊郭に通う金くらい、自分で稼ぎ出してやる。

 サナレスは決意した。

「破れた夢の先は、三角関係から始ます」

星廻りの夢3:2020年8月30日

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