9・かまって星
かまって星には、かまって欲しい人ばかりが住んでいる。自分から人にかまうのは嫌いなので、ほとんどの時間を家の中で過ごす。
「誰かかまいに来てくれないかな」
ナナカはそう言いながら昼食のラーメンを一人で作って食べ、大学のレポートを仕上げ、ネットを開いてSNSに書き込む。
『私のことが大好きな人はいいねしてね! 私のこと愛してる人はリツイートしてね!』
待ち続けること二時間、三時間。誰からも反応はない。他のユーザーの投稿が流れてくる。
『フォロワーさんともっと絡みたいので私の良いところを十個挙げてね』
『私は花と宝石と虹と星でいうとどれですか』
『今までの私の歴史で一番印象に残ったことを教えてください』
くだらない、とナナカは思う。こんな人たちにかまうのは時間の無駄だ。みんな間違っている。もっと私にかまうべきなのに。私のことをもっと知りたがるべきなのに。
SNSには、ピカピカ星やペロペロ星に住む人たちの投稿も流れてくる。美しい人物画や風景画、夕焼け空やおいしそうなハンバーグ定食の写真など、思わず保存したくなるものばかりだ。
ナナカはピカピカ星のキララさんのファンだ。どうにかしてキララさんにかまってもらうため、時間を合わせて投稿する。
『私もキラキラしたスパゲッティのぬいぐるみが好き。ふわふわしたゲンゴロウも大好き。同じ趣味の人は私に話しかけてください』
しかし、キララさんどころか誰からも反応はない。かまって星のユーザーたちが似たような投稿を繰り返し、あっという間に流れていってしまう。
「おかしいわ。みんなおかしいんだわ」
ピカピカ星やペロペロ星の人たちは、お互いの絵や写真、動画に感想を送り合い、楽しそうにしている。こんなに暇そうなのに、とナナカは思う。暇なら私にかまうべきなのに。私を褒めるべきなのに。
ナナカはパソコンを閉じ、買い物に出かける。外には車やマンションや犬やナメクジがあって邪魔だ。買いたいものをわざわざ取りに行くのも、レジでお金を払うのも、消費税が高いのも、ナナカの好きなカリカリ梅アイスが最近売っていないのも気に入らない。
「でも誰かがかまってくれるかもしれないわ。私が外に行くんだもの。私が歩いてるんだもの」
かまって星の住人の中でも、自分が一番かまってほしがっている。この王座は絶対に明け渡さない。かまってほしいことに関しては、自分の右に出る者はいない。かまってもらうためなら、石になっても鉛になっても待ち続ける。