8・永遠に
俺はミウを探している。何年も、何百年も、何億年もミウだけを追っている。
時を超えて、空間を超えて、ミウは現れる。いつも同じ顔をしているので、見つけるのは簡単だ。お団子頭から三つ編みをぶら下げて、無防備に歩いている。
ミウは俺を覚えていない。初めて会った時の、縞猫中学の赤いジャージをまだ着ているのに。
俺を見ても、深い色の瞳には何も映らない。
「誰ですか」
何度会っても、ミウの記憶から俺は抜け落ちてしまう。それでもいい。俺はミウを追いかける。子どもだったり社会人だったり、宇宙をさまよっていたりするミウを、見つけ出して捕まえる。
昨日も今日も、これから先も、永遠に。
「そこにいたか……!」
繁華街のそばの小学校で、ミウを見つけた。校庭から一階のベランダに回り、誰もいない保健室を抜けて校内の廊下に出る。
お団子頭に短いスカート。今日は小学生のミウだ。俺は背後から忍び寄り、腕をつかんだ。そのまま引き寄せ、名前を呼ぼうとした、その時だ。
俺は盛大に転び、廊下にべしゃっと大の字になった。
「観念しな」
俺を見下ろしているのはミウではなかった。切れ長の目をした、十歳くらいの少年だ。穏やかで落ち着いた雰囲気だが、どこか不安を煽る顔をしている。
「逃げるつもり? バカな獲物」
起き上がろうとしたが、うつぶせになったまま動けない。腹がべったりと廊下に貼りついている。少年はほとんど表情を変えず、しゃがみ込んで俺の頭を床に押し付けた。
「お前にはウサギ穴の材料になってもらうよ。本望だろ?」
「俺はミウを連れ帰らなきゃいけないんだ」
「そうなの? 残念だったね」
少年は俺の背中に手を触れた。熱くて思わず声が漏れる。体が溶けて床と一体化していくようだ。
どんなに力を入れても体はびくともしなかった。
「や……めろ……!」
「ミウを捕まえてどうするつもりだよ。吐け。この変態が」
どうしてここにいるのか、どうしてミウを追っているのか、どうしてミウの記憶は消えてしまうのか、どうして取り戻さなければならないのか。
全てが溶けてなくなってしまう。少年の目が赤く光り、両手で粘土をこねるように俺の体を押す。
その時、チャイムが鳴った。
「四年一組、池澤ウサギ君。体育館の裏まで来てください。鉛筆とノートと音楽の教科書とリコーダーと福引券百五十枚が落とし物ボックスに届いています。早く来ないとイクラのエサにします」
甲高い声が聞こえ、少年は舌打ちをする。
「早く来ないとイクラのエサに」
「あいつめ!」
少年は俺から離れ、走っていった。ポケットから消しゴムやメモ帳をぱらぱらと落とし、振り向きもせずに行ってしまった。
両手に力を入れると、何もなかったように起き上がることができた。焼けるような痛みも消えている。俺は立ち上がり、保健室を横切って外へ出た。
何度こんなことがあっただろう。
車にはねられ、壁に埋まり、全身に星が刺さり、それでも俺はミウを追い続ける。お団子頭に三つ編みをぶら下げた、無防備なミウを探してさまよい続ける。
昨日も今日も、これから先も、永遠に捕まえられない。