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パステル銀河  作者: れみ
8/20

8・永遠に

 俺はミウを探している。何年も、何百年も、何億年もミウだけを追っている。


 時を超えて、空間を超えて、ミウは現れる。いつも同じ顔をしているので、見つけるのは簡単だ。お団子頭から三つ編みをぶら下げて、無防備に歩いている。


 ミウは俺を覚えていない。初めて会った時の、縞猫中学の赤いジャージをまだ着ているのに。

 俺を見ても、深い色の瞳には何も映らない。


「誰ですか」


 何度会っても、ミウの記憶から俺は抜け落ちてしまう。それでもいい。俺はミウを追いかける。子どもだったり社会人だったり、宇宙をさまよっていたりするミウを、見つけ出して捕まえる。


 昨日も今日も、これから先も、永遠に。


「そこにいたか……!」


 繁華街のそばの小学校で、ミウを見つけた。校庭から一階のベランダに回り、誰もいない保健室を抜けて校内の廊下に出る。


 お団子頭に短いスカート。今日は小学生のミウだ。俺は背後から忍び寄り、腕をつかんだ。そのまま引き寄せ、名前を呼ぼうとした、その時だ。


 俺は盛大に転び、廊下にべしゃっと大の字になった。


「観念しな」


 俺を見下ろしているのはミウではなかった。切れ長の目をした、十歳くらいの少年だ。穏やかで落ち着いた雰囲気だが、どこか不安を煽る顔をしている。


「逃げるつもり? バカな獲物」


 起き上がろうとしたが、うつぶせになったまま動けない。腹がべったりと廊下に貼りついている。少年はほとんど表情を変えず、しゃがみ込んで俺の頭を床に押し付けた。


「お前にはウサギ穴の材料になってもらうよ。本望だろ?」

「俺はミウを連れ帰らなきゃいけないんだ」

「そうなの? 残念だったね」


 少年は俺の背中に手を触れた。熱くて思わず声が漏れる。体が溶けて床と一体化していくようだ。

 どんなに力を入れても体はびくともしなかった。


「や……めろ……!」

「ミウを捕まえてどうするつもりだよ。吐け。この変態が」


 どうしてここにいるのか、どうしてミウを追っているのか、どうしてミウの記憶は消えてしまうのか、どうして取り戻さなければならないのか。


 全てが溶けてなくなってしまう。少年の目が赤く光り、両手で粘土をこねるように俺の体を押す。


 その時、チャイムが鳴った。


「四年一組、池澤ウサギ君。体育館の裏まで来てください。鉛筆とノートと音楽の教科書とリコーダーと福引券百五十枚が落とし物ボックスに届いています。早く来ないとイクラのエサにします」


 甲高い声が聞こえ、少年は舌打ちをする。


「早く来ないとイクラのエサに」

「あいつめ!」


 少年は俺から離れ、走っていった。ポケットから消しゴムやメモ帳をぱらぱらと落とし、振り向きもせずに行ってしまった。


 両手に力を入れると、何もなかったように起き上がることができた。焼けるような痛みも消えている。俺は立ち上がり、保健室を横切って外へ出た。


 何度こんなことがあっただろう。

 車にはねられ、壁に埋まり、全身に星が刺さり、それでも俺はミウを追い続ける。お団子頭に三つ編みをぶら下げた、無防備なミウを探してさまよい続ける。


 昨日も今日も、これから先も、永遠に捕まえられない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウサギ君の意外な一面が見られて面白かったです。 今年もたくさんの作品をありがとうございました。
[一言] 今回は深淵なストーリーですね。宇宙を含めた「この世」の仕組みを垣間見たような気がしました。 輪廻転生なのか、それとも無限に存在する平行世界なのか、空想の広がる内容でした。
[良い点] おお~なんと赤ジャージ視点のお話ですか!! いつも突如現れてはこっぴどくやられるシーンを見てきただけに(笑)、感慨深いものがあります! 彼は彼なりの理由があって、彼なりの信念があるんですね…
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