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パステル銀河  作者: れみ
4/20

4・ショートコント「天探女」

4話と5話は連作です。続けて読むと理解しやすいです。

 湯川一覇(イチハ)の一年は365日ではない。倍の日数、つまり730日もある。4月1日が終わると、もうひとつの4月1日が来て、それからようやく4月2日になる。次の日はもうひとつの4月2日だ。


 どうして自分だけそうなのか、いつからなのか、そんなことはどうでもいい。問題は、世界が二つに分かれてしまったことだ。


「イチハ、卒業旅行どこがいい?」


 ブルーのシャツを着て、端正な顔に屈託のない笑みを浮かべた男。藍沢ラオトは一覇の親友だ。大学に入ったばかりの頃に知り合い、それからいつも一緒にいる。


 こちらの世界では、そうだ。


「卒業旅行……え?」

「だからさ、もう大学も終わりだし。たまには遠出したいじゃん」

「あっ……そうだね。オレはどこでもいいよ」


 いつもそれだよなあ、と背中を叩かれる。


 一覇は考える。

 自分が大学四年生であること、ラオトが最近車を買ったこと、近々旅行したいと話していたことを思い出し、頭の中でパズルのピースを組み合わせる。

 そうだった。こちらの世界では、そうだ。


「空の近くに行きたい」

「空? ああ、山? ふもとまでなら行けるかな」


 違う。山の上まで行っても、雲の上を飛行機で飛んでも、この世界に彼女はいない。


 天音りん子は、この世界では都市伝説のような存在なのだ。


 カワウソと空を飛び、信号機と遊んで太陽の光をかき氷に変え、空の色で未来を言い当てる女の子。どこにもいない。この世界のどこにも。


「お前さあ、まだそんなの調べてるの? ただのおとぎ話だろ」

「れっきとした日本神話だよ。天探女(あまのさぐめ)。神に逆らった巫女の話」

「それで、可愛いの? 美人なの? 見つけたら紹介してくれるんだろうな?」


 ラオトは優しい。信じていないと言いながら、一覇の話を聞いてくれる。一覇がぼんやりしている間に、先のことをいろいろと決めてくれる。


 それなのに自分は、ラオトのいない世界のことばかり考えている。


「なあ、考えてくれた? 卒業したらオレとお笑いやるって話」


 ラオトは優しい。優しくて、時々危うい。刃物を与えられた子供のように、片時も目が離せない。


「ああ、うん、そうだね……」


 いつもそれしか返せない。踏み込むのが怖かった。この世界を知りすぎるのが怖かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんっ?! りん子さんって、都市伝説だったんだ(;゜〇゜)
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