19・恒星の周りを惑星が回っているだけの話
この話は、恒星の周りを惑星が回っているだけです。
恒星はユービレザムニカという名前で、直径十センチです。片側はマグマ、もう片側はバニラでできています。宇宙は紙でできているので、マグマ側が当たったところは燃えてしまいます。
惑星はシジラビュミサ・オーカゾモガッラという名前ですが、どうしてそういう名前になったのか誰も知りません。長すぎるので、ただ惑星と呼ばれています。ローズクォーツのように淡いピンク色をしていて、正円の軌道をえがいて恒星の周りを回ります。直径は二ミリです。
惑星はバニラの近くを回る時、白い色を反射して甘く光ります。マグマの近くを通る時は、暑すぎて心を無にしています。
恒星には他にも惑星があるけれど、軌道が垂直だったり、八の字だったり、好きなアニメキャラの形をしていたりするので、ほとんど交わりません。惑星はどれも一人きりで回っているようなものです。
さて、この話に出てくる惑星は、正円の軌道をとても気に入っています。一度も外れたことはなく、速度を緩めたこともありません。恒星の表面に影を落とし、その影で軌跡を描くとちょうど恒星を真っ二つにする線が引けます。
何百億年も回り続けてきました。
宇宙が隣の宇宙と戦争をしていた時も、宇宙が選挙で負けて他の人が宇宙になった時も、惑星は同じ軌道を回り続けました。小惑星がぶつかってきても、仲間の惑星が爆発する音が聞こえても、止まることはありませんでした。
ところがある日、大きな女の子がやってきました。直径百二十センチぐらいです。
「あら、こんなところにあったのね。アイロンビーズ」
惑星はアイロンビーズと呼ばれるのが初めてで、動揺して軌道を離れてしまいました。そして女の子に拾われました。
女の子は惑星を部屋へ運んでいこうとしましたが、途中で恒星のことを思い出しました。
「そうだ、焼きリンゴアイスを描いてる途中だったわ」
取りに戻る途中、部屋の敷居につまづきました。惑星は本物のアイロンビーズのように女の子の指をすり抜け、床を転がり出しました。
「あら。どこ行っちゃったの、私のアイロンビーズ」
「ここにあるわよ。ちゃんと片付けなさい」
「それじゃないわ、薄いピンクで……ああっ! お母さん私のアイス食べたでしょ!」
恒星の周りを惑星が回っているだけの話ではなくなってしまったので、惑星はこの話の外へ飛び出しました。今もきっと、どこかの宇宙で正円の軌道をえがいているでしょう。惑星というのはそういうものなのです。恒星がなくても、惑星として生きるしかないのです。