表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第二話 覇王、襲撃を受ける

 王都に到着するまで質問攻めだった。

 なぜ戦姫と話せるのかを説明すれば、そのスキルは神の水鏡で得られたスキルなのかを問われて、自分でもわからない旨を伝えた。


 はっきりしないのらりくらりとした答えに、ルーミアの好奇心は満たされていないようだったが、なんとか納得してもらった。


 だって仕方がない。

 俺だってよくわからないスキルだ。


 戦姫と話ができるということは、戦闘の上ではかなりのアドバンテージになる。

 敵の弱点を事細かに教えられるし、コミュニケーションも楽にとれる。


「セツナ……あなたはやっぱりすごいわねっ」


「ありがとうルーミア。ところで、君はどんなスキルを手に入れたんだ?」


 褒められて悪い気はしない。

 というより、Fランクという判定が出た後もルーミアと話ができるだけでも、昨日までの俺では考えられなかった。


「私? ふふふ……私はね、【魔力強化(A)】と【直感(A)】、【身体能力向上(A)】、【魔戦士の適正(A)】よっ」


「凶悪だな……Aランクって最初からそんなスキルがもらえるのか」


 しかし現状、ルーミアと俺が仮に同じ戦姫と契約したとしても弱いのは俺のほうだ。


 一体特化の俺の特性ではある程度のレベルまでは数の暴力に押されてしまう。

 そのせいで使役戦姫1という特性は序盤はキツいのだが、レベル50を超えたあたりからは同レベル帯の戦姫複数を退けられるようになる。


 ちなみに、ジェイスさんのレベルを聞いたら、使役戦姫6体のランクD。レベルは120だった。

 今の俺ではある方法を除いてはどうやっても勝てやしない。


 ルーミアはレベル1で俺と同格だが、使役戦姫の上限は10体。持っているスキルも凶悪だ。


 【魔力強化(A)】は名前の通りで、魔力を強化するスキルだ。

 戦姫がアクティブスキル――技を使うと騎士の魔力を消費する。複数の戦姫を使役するスタイルにとって、魔力強化は非常に重要なスキルだ。必須レベルといってもいい。


 【直感(A)】

 【身体能力向上(A)】


 この二つのスキルも恐ろしい。

 直感は薬草や鉱石の採掘にもプラス補正を与えるし、戦闘でも戦姫と自分に振りかかる危険もすぐに察知できる。

 身体能力向上は言わずもがな。今の俺とルーミアが『普通に』殴り合っても、ルーミアは傷一つ付かないだろう。


 そして極めつけが【魔戦士の適正(A)】。これは魔術と近接武器の両方を高い水準で扱えるようになるスキルだ。

 極めれば高等魔術も生身で使えるし、身体能力向上のスキルのおかげで、自己強化の魔術を使用すれば生身でも戦姫と戦えるようにもなるかもしれない。


 ゲーム時代と比べて騎士の力が大きく衰えているこの世界では、このスキル構成はSSランクにも匹敵するものがあるな。あくまでセツナ・キサラギとしての経験を基にしているのだが。


「あっ……見えてきたよ。あんなにでっかいんだ……!」


 そうこうしているうちに王都が一望できる山の上まで来たらしい。

 吹き抜ける風が心地よく、王都のざわめきも聞こえてくるようだ。


 眼下に広がる巨大な都市――【王都オーディン】だ。


 ふむ。

 大きさはゲームの時とあまり変わりはないな。


 円形上に広がる巨大な王都。

 幾重にも広がるその多重の円は、この国の発展そのものを象徴していると言っても過言ではないだろう。


 最初は小さな国だったが、年を経るごとに人口が増加、それに合わせて都市も拡張していった。

 円形に拡張する王都の壁だが、その中に納まらないほど人が増えると、また外側に大きく円形の壁ができる。


 中央に聳える白亜の城が王城なのだが、その周囲は貴族連中しか入れないとか。

 兵士たちの詰め所は各場所にあり、どの兵士も高い練度を誇るという。


 その国の戦力の育成機関としては――円形に広がる中、その部分だけ王都を取り囲む壁が存在しない所にある巨大な建物……王都東側にある【王立戦姫士官学院】が最大の育成機関とされている。


 戦姫精霊の森へはあの学院の地下にある転移ポータルから飛ぶことができるのだ。


 Eランク以上であれば、自分の戦姫を学院が管理するその『戦姫精霊の森』で得ることができる。

 ランクが上がるほどより腕のいい教官に手助けしてもらい、強い戦姫を手に入れることができるという仕組みだ。


 周囲のフィールドではたくさんの生徒たちが魔物や魔獣を相手にして戦っているのが見える。

 戦姫の数も一人当たり5体以上を連れているようで、群れ相手にもひるまずに戦えているようだ。


「すごいな……」


 思わず独り言が漏れる。

 VRゲームでは感じられなかった命の息吹が聞こえる。


 NPCなどという見かけだけの人間など存在せず、全員が全員、生きる意志を持って行動しているのが見て取れる。


 故に気づいた。

 学院の中に王都が所有している大きなダンジョンがあるのだが、その入り口には10以上の戦姫を使役した騎士しかいないことに。


「ジェイスさん。学院のダンジョンに入るのはもしかして高いランクじゃないといけないのですか?」


「なんでい藪から棒に。俺の居たころは誰でも入れるようにはなってたが、少なくともCランク以下はあそこに近づくことすらしなかったよ」


「それはまた……なぜです?」


 不思議だ。ダンジョンこそ大きな稼ぎ場だ。

 危険が伴うが、十分な準備をすれば安全に、かつ、大量に魔物を狩れるというのに。


「分かるだろ? 危険だからだよ。あんな場所に入って無事で入れるのは10体以上の戦姫を連れている猛者だけだ。Aランク以上の化け物たちじゃないとあのダンジョンのボスには勝てないのさ」


 なんということだ。


 騎士側が弱すぎやしないか?


 あそこのボスはレベル30程度の戦姫単身でも撃破可能なレベルだったはずだ。

 

 いや待て考え直せ。ここは現実世界になったヴァナクロだ。

 だが、セツナ・キサラギとしての知識だと、学院のダンジョンのレベルは俺の想定通り……ゲームと同じ仕様だということがわかる。


 戦姫が十体もいるのであれば、仮に騎士と戦姫のレベルが10あれば格上のレベル50ボスにぎりぎり勝てる程度だった記憶がある。


 使役数一体の制限を受けているキャラはレベル51以上であれば格上のレベル100にも負けることはないはずなのだが……。


「そうなのか……」


 あいまいに返事を返しながら、思考する。

 とりあえず今の騎士たちがどの程度やれるのかは知らないが、これは調べるに値する情報だ。


 ゲーム時代での知識が通用しない場合の対策はしておくべきだ。慢心は命取り。ただでさえ俺はこの世界で最も弱いとされている【Fランク】なのだから。


 仕様が違う場合どうしようもない。なんてことは許されない。


 俺はさらに気合を入れ、ルーミアと共に山の木々に遮られるまで王都を眺め続けた。



――――――――――



 王都に到着し、ジェイスさんに別れを告げた俺たちはその足で学院へと向かう。

 入学手続きを済ませなければならないからだ。


 神の水鏡でのランク判定後、制服が手渡される。

 案内の書類を一通り目を通してみたが、どうやら今期の学生の入学式は一週間後らしい。


 誕生日が一緒だったルーミアと俺だが、同年代の中ではどうやら誕生日がかなり遅かったようだ。

 もう少し遅かったら一年間修行できたんだが。


 そう思いながら、学院までの大通りを進んでいく。

 道行く人々に学院性が混じり始めたころ、俺たちに注がれる視線の数も多くなってきた。


 正確にはルーミアへ注がれる視線というべきか。

 当然だ。美人なルーミアは男を虜にする魅力がある。


 スレンダーな体型ながらもその傷一つない白磁のような肌、くびれた腰の曲線は否応なく男としての理性を瓦解させる魔力が宿っている。


 そして極めつけはその美しい金色の髪の毛だ。

 それを纏うルーミアはまるで月明かりの中にいる乙女といったところ。


 ようするに……綺麗すぎて浮いているわけだ。


「……居心地悪いわね」


「Aランクってことが公表されたら変な男が寄ってくるかもな。気をつけろよ」


「何よ他人事みたいに……そんな変な奴私がぶっ飛ばすわよ」


 そうか。

 ルーミアはほかの男には興味がなし……と。

 一安心といったところだが、まだ油断はできん。


 ルーミアは世間知らずなところもあるし、実力で屈服された場合どうすることもできない。

 Sランク以上に変な奴がいるとも思えないが……ルーミアに変な虫がつかないように早く強くならなければ。


「おいあの人すごくきれいじゃないか……? もしかして新入生かも……」

「ランクはいくつだろうな。俺様より下のランクだったら……くくく」

「お前キモいぞ。自分の戦姫がいるだろ」

「お前こそキモい。戦姫とそういうことをする奴はハッキリ言って異常だね。生物的にあいつらは精霊で、俺たちは人間だぞ? 子作りするならやっぱり下のランクの可愛い女の子をブチ犯すほうが燃えるよなぁ」

「それは同意する。さらに言うなら、その女に同年代だけどランクの低い男友達とかいたら、その男の目の前でヤってもよさそうだ。悔しさで血の涙を流すかもな」

「そうだよなぁ。俺たちAランクなら大抵のやつは力づくで物にできちまうし、なんなら今ここで……」


 なかなか変態的な議論が交わされているようだが、全部こっちに丸聞こえだ。 


「……セツナ。悪寒が止まらないのだけれど……」


「ああ、こっちもムカついて吐きそうだ。学院まで走るぞ」


 俺はまだ弱い。

 今ここでやつらに襲われたらたまったものじゃない。


 周囲に衛兵の類はいない。学生たちが視線を送ってくるだけだ。

 ……考えたくないことだが、ああいう下衆な奴らしかいないようなら、さすがに俺はルーミアを連れてさっさと田舎に引っ込むつもりだ。


 角を曲がったあたりで、尾けてくる連中を撒くために俺とルーミアは全力で走り出した。


「王都って怖いところね……」


「学院の試験担当者はまともなことを祈ろう」


 まずい。

 走り出した瞬間に理解した。

 俺は何の強化も受けてないが、ルーミアは身体能力向上スキルのおかげで走る速さも格段に上がっている。


「させるかよぉ!」


「行けっ!!」


 当然、追ってくる下衆野郎は戦姫を使役するわけで。

 現れたのは――【人狼族(ワーウルフ)】の戦姫が四体。


 俊敏かつ力強い。

 魔術的な適正はないが、好戦的なところがある。


 今戦闘をするにはキツい相手だ。


「くっ……」


「セツナっ!!」


 ルーミアが振り返り、俺を見る。


「馬鹿野郎振り返るな! 学院まで走れッッ!!」


 突然の襲撃にルーミアは困惑し……違うな。

 俺が心配で動けないって顔をしてやがる。


「逃がすわけないじゃーん♪」


 学院の制服を着た男二人が獲物を逃すまいと戦姫をけしかける。

 その戦姫の目は見るからに死んでいた。


 彼女たちの首元に目をやると、【契約の首輪】がはめられているのが見えた。

 これは、忠誠を誓う人狼族(ワーウルフ)】特有の掟で、戦姫側からの一方的な契約破棄ができないようにされているのだ。


 種族特性的にも彼女たちは自分の忠誠心を誇りとするものがあるのだが、彼女たちは騙されて忠誠を誓わされたに違いない。


 相手は二人。

 戦力は未知数。


 対してこちらはFランクが一人。


「やれっ」


『……死ぬなよ』


 オオカミの耳がついている戦姫が俺の腹にボディブローを決めた。


「ガハッッ……!?」


「セツナぁああッッ!!」


 腹部に受けた衝撃はすさまじいものだった。

 ぎりぎりの防御に成功したとはいえ、五メートル以上吹っ飛んだだろうか。


 悲痛な顔をしてルーミアが俺に駆け寄ってくる。


「……なに? もしかしてもしかして、男の方がランク低いの? ねぇ、キミ、そんな低能な男なんて置いといて、僕たちと遊ばない? いい夢見させてあげるよ?」


 言いながら、戦姫が俺たちを取り囲む。

 どの戦姫も不本意そうな顔をしている。


 ……怒りしか湧いてこない。

 こんな無様を晒している自分に。


 明らかにランクの高い男たちが二人、戦姫は服従せざるを得ないようなので、精霊言語は使えない。


「やめてよ、セツナに乱暴しないでよっ!! お願い……だから」


 涙を流しながら俺をかばうルーミア。

 おいやめろ。こんな奴らに頭を下げるな。

 そう言おうとするが、口が動かない。ダメージが大きかったようだ。


「ひひっ……いいよ? その男には乱暴しないでおいてやるよ。騎士であるかどうかすら怪しいやつに、手を汚したくない。だけどその代わり、キミ、僕たちのものになれよ」


「そ、そんな……きゃぁっ! いやっ、放しなさいよっ!!」


「いい声で泣くねぇ……そそるよソレぇ!」


 戦姫たちが俺たちを引きはがし、ルーミアを拘束する。

 どうやら奴は相当な手練れらしい。身体強化がかかったルーミアを拘束できるほど戦姫の性能が高い。


「やめ、ろ……」


 わずかに動く俺の唇。

 全身の筋肉が言うことを聞かなくなるほどあの一撃が効いている。あまりの悔しさに唇をかみしめると、血の味がした。


「いいねいいねぇ……その表情! 二人は実は想いあっていた幼馴染でしたって!? ぎゃははっ!! どんな低俗な物語だっつーの! 今時そんなの流行らないぜ……? そうだ。こういう風に改変しよう。夢を見ていたクソ雑魚騎士の男は、最強の俺たちにぼこぼこにされて、恋人を寝取られましたってなぁ!!」


「クソ野郎が……!」


 なおも体は動かない。

 徐々にルーミアに近づいていく男たち。


 許されるか、こんなこと。

 誰が思う? 学院の生徒がこんなに下衆で、往来で襲うことも厭わないクソが存在するってことを。


 ……とまぁ、柄にもなく熱いことをやっているのだが、それももう終わりにしよう。


 ――スキル【絶対防御】を取得しました――


 目の前を流れるテキストメッセージ。

 どうやらほかのやつには見えていないようで、戦姫たちのこちらを見る目は変わらない。


 一撃で死に至る攻撃をクリティカルガードをして生き延びた場合にのみ発現するこのスキル。


 ゲームシステム的に言えば、相手の攻撃をタイミングよくガードした場合にのみクリティカルガードは発生する。ヴァナクロのそのタイミングはほかのVRゲーム中でも難易度最高と言われているが、これくらいできなければ俺は覇王とは呼ばれていない。


 そしてこの【絶対防御】スキルは戦闘中に一度クリティカルガードを繰り出したら次のクリティカルガードまでの発動時間を0にしてくれる最高のスキルだ。


 クールタイムがなくなるので、連続してクリティカルガードを出せるというわけだ。


 ……これが来るのを待っていたのだ。俺は。


 足に力を入れて立ち上がると、戦姫を使役している男二人が怪訝そうな顔をした。


「なんだよお前。黙って地べたに這いつくばってれば、お友達の女の子が乱れる姿を見られたかもしんねぇのによ。……死にたがりか? 運よく【致命の守護】が発動したってのに、勿体ねぇことするなぁ」


 致命の守護とやらは聞いたことがないが、おそらくクリティカルガードのことを言っているのだろう。

 どんな攻撃が来てもクリティカルガードさえできれば死なないからな。


「セツナ、わ、私なら、だ、だいじょう、ぶ……だからっ」


 何が大丈夫だよルーミア。

 お前震えてるじゃねぇか。


「死にたがりでもなんでもいい。ルーミアに手を出すなら、俺を殺してからにしろ」


 拳を構えながら俺は初めてまともな戦闘態勢へと移行する。

 この世界で前世を思い出してから、初めての戦闘だ。クリティカルガードが発生することが確認できた以上、俺がこいつらに負ける道理はない。


『正気か……人間』


 【人狼族(ワーウルフ)】の一人が俺に問いかけてくるが、無視だ。

 この戦いでこいつらも開放してやらなきゃならんからな。少し痛い思いをさせてしまうのが心苦しい。


 そうこうしている内に、男のうちの一人が【人狼族(ワーウルフ)】に端的に指示を出す。


「俺の邪魔をする奴は皆殺しだ。殺せ」


「クソ雑魚のくせにかっこつけるとか許せねーしなっ! ははっ」


「やめて! セツナを殺さないでよぉぉっ!!」


 【人狼族(ワーウルフ)】の一体に拘束されているルーミアがもがき、泣き叫ぶ。

 それと同時に三体の【人狼族(ワーウルフ)】が目にもとまらぬ速さで俺に殴りかかってきた――が。


 脇腹への鋭い一撃をガード。

 二体目の頭部への一撃をガード。

 三体目の背部への一撃を身を捩りながら回避した。


 俺は同時攻撃をすべて退け、拍子抜けしながら三体の戦姫を見る。


「甘い。練度が足りん」


『な、なんだと……!? 人間がわれらの拳を止められる訳が――』


 それはまさに一瞬といっても過言ではないだろう。

 彼女たちを縛る【契約の首輪】めがけて俺は拳を振るった。


 途端、ガラスが弾けるような音を立てて、三体の【契約の首輪】が破壊された。


「何しやがった!?」


「生身のくせに単身で戦姫を撃破しただと!?」


 慌てふためく二人の男たちを見て、俺はため息を吐いた。

 手ごたえがなさすぎるし、驚きのあまり俺に攻撃する隙も逃している。


 騎士なら戦姫をやられた瞬間に勝負が決まるわけではないことを知っているはずなのだが。

 そもそも俺は生身の人間で、やつらも生身の人間。

 しかもこっちは奴らよりレベルが低いというのに、あいつら自身が俺に攻撃するチャンスを逃したのだ。


 ちらりと横を見ると、【人狼族(ワーウルフ)】の三体の戦姫はすでに地に伏している。

 レベル差を超えて倒し切ったわけではないが、起き上がる気力もないというところか。


 当然といえば当然だ。

 彼女たちを縛っている枷を解き放ったのだ。

 過剰にストレスを与えられていた状態で、それを一気に開放されたら意識も失うというもの。


 よって、この場に立っているのは下衆野郎二人と、ルーミアを拘束している【人狼族(ワーウルフ)】だけだ。


「来いよ。俺はFランクだぞ?」


「なっ――!? 馬鹿にしやがって……。そんな出鱈目なFランクがいるわけねぇだろうがっ!! もう女はいい! あいつを殺せ、ヴァロ!」


 最後に残った【人狼族(ワーウルフ)】がルーミアの拘束を解いて俺にとびかかってくる。

 直線的な攻撃だ。絡め手もなにもない。だが早い。


 こいつらはいままでこんな単調な戦いの仕方でいい気になれていたのか。甚だ疑問だ。

 教えてやろう。本物の闘いというやつを。


「ふっ」


 軽く息を吐いて戦姫の攻撃を寸前で見切り、回避する。

 そしてカウンター気味に首輪に一発。


 またもやガラスの弾ける音がして戦姫が地に倒れ伏した。

 これで彼女たちはもうこいつらと契約を結ぼうとは思わないだろう。


「お、俺の戦姫がやられた!? う、嘘だっ! 新入生のクズにこんな、こんな――」


「おいやばいぞ、今はもう戦姫を持ってねぇ! 逃げるしか……」


 背中を見せた男二人に俺は追撃を仕掛ける。

 こっちはレベル1だが、あいつらはおそらくレベル50オーバーだろう。

 普通に考えれば、やつらに俺は勝てない。


 だが、一つだけレベルの差を無視して攻撃できるシステムが存在する。


 クリティカルアタック。


 クリティカルガードと同じく、攻撃するときにコツを掴めば百発中百発、クリティカルアタックが発動する。

 効果は、防御無視 + ダメージ500%アップ。

 遠隔の魔術攻撃や弓術なんかはヘッドショットなどの弱点を正確に、針の穴を通すように狙わなければならないが、肉弾戦はそうではない。


 ほんのコンマ1ミリ秒もないくらいのあたる寸前のところで、拳を一段階早く対象に衝突させることでソレは簡単に発生するのだ。


 そして、すさまじい轟音が二つ、街中に轟いた。


「ぐべぇえええええェェェエエェッッッ!!??」


 先ほど俺が吹き飛ばされた時より速いスピードで男二人は吹き飛び、レンガ造りの壁に衝突した。

 ゴキリ、と嫌な音がしたが気にしない。当然の報いだろう。


 静まった路地。周囲の学生たちは唖然としてこちらを見ているが、男たちを助けようとするものは誰もいない。


 俺はいまだに蹲っているルーミアに歩み寄り、右手を差し出した。


「大丈夫か? ほら、学院にいくぞ」


 俺の言葉にルーミアは顔を上げて、その美しい瞳から大粒の涙を流していた。


「……ばかっ、ばかぁああっ! 本当に死んじゃうんじゃないかって心配だったんだから!」


 号泣するルーミアを抱きしめて俺は謝ることしかできなかった。

 いや、今回は賭けのような戦いだったのだ。


 クリティカルガードにクリティカルアタック。

 この二つのゲームの仕様がなければ、俺は奴らに手も足もでなかっただろう。


「ごめんって……俺もぎりぎりでな。心配させてすまん。騒ぎになる前にここを離れよう」


「うぅ……うん……」


 泣きじゃくるルーミアを立たせて、俺はその場を後にしようとする。

 そこに、先ほどの【人狼族(ワーウルフ)】の一体が立ちふさがった。


 いつの間にか、ほかの三体も起き上がっている。


 また戦闘になるのか? と身構えたがそれは杞憂だった。


『私はあなたに忠誠を誓いたい。どうか、我等を使役してくれないか?』


 跪いて首を垂れる四体の戦姫。

 彼女たちはルーミアではなく俺を見ていた。


 ルーミアだったら間違いなく契約してもらっていたんだが、残念ながら今の俺では彼女たちは使役しきれない。

 【人狼族(ワーウルフ)】の種族特性上、集団戦で真価を発揮するというのに、俺は同時に一体までしか戦姫を使役できないのだ。


 心苦しいながらも、精一杯の礼を尽くして返答する。


『すまない。俺は貴女たちの真価を引き出せる騎士ではないんだ……。申し出は嬉しく思うが、君たちは俺なんかに忠誠を誓っても不幸になるだけだ……。分かってくれ』


『私たちの言語も理解できるのか……尚更惜しい騎士様だが……なんということか。……ならば、これはせめてもの礼だ。受け取ってほしい』


 【人狼族(ワーウルフ)】は光り輝くものを胸から取り出し、俺のほうへとそっと差し出した。

 球体のそれは俺の胸へと吸い込まれていき……。


 ――スキル【シンクロ】を獲得しました――


『こ、これは……こんなにいいもの、もらってもいいのか!?』


 思いもよらないスキルが手に入り、自然と声が震える。

 これは希少価値が高いスキルだ。俺の【絶倫】並みともいえる。


 本来の入手ルートで騎士が習得しようと思えば、かなりの苦行を体験しないと得られないものなのだ。

 これは【人狼族(ワーウルフ)】などの群れで狩りをする性質がある戦姫が持っているスキルで、戦姫が使う効果は、ほかの戦姫と連携を向上させるものだ。


 だが……騎士が持つとなると話は別だ。


 瞬時に戦姫と意思疎通ができ、スキルや技術(プレイヤースキル)などもすべて戦姫と騎士の間で共有されるのだ。……早い話が、俺が使役する戦姫の固有スキル以外のスキルを俺も使えるようになるし、戦姫は俺の技術……クリティカルアタックやクリティカルガードを繰り出せるようになるということだ。


『これは、未来のあなたとあなたの戦姫を祝福するためのスキルだ。困った時はいつでも呼んでくれ……何なら、その場限りでの契約でも構わないからな。では……さらばだ』


 去り際に【人狼族(ワーウルフ)】四人が俺の頬に代わる代わるキスを落としていく。


「なっ、ななななっ! セツナ!?」


 ルーミアがその光景に顔を赤くする。

 ……今まで気にしなかったが、【人狼族(ワーウルフ)】は局部を毛で覆われただけの、かなり露出の激しい女体をした戦姫だ。

 しかもスタイルがいい。


 たゆんたゆんとした胸部やら、つるつるのお腹やらが抱き着かれた拍子に感触として伝わるわけで。

 名残惜しそうに俺を見つめた後、意識のない男二人を蹴りつけながら彼女たちは跳躍し、王都の壁を難なく超えて外の世界へと帰っていった。


 残る感触は、たゆんたゆん。すべすべ。

 ほう、とため息を吐く。


「もう死んでもいいかもしれん」


「セツナの馬鹿! もう知らない!」


「ちょっ、俺を置いていくなよルーミア!?」


 学院に着くまでルーミアを宥めて機嫌をとるのは【人狼族(ワーウルフ)】を相手にするよりキツかったことをここに記しておこう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ