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友人  作者: 風音沙矢
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友人 Ver洋子

 バーのカウンターで、いきなり彼が怒り出した。

「お前、何のつもりでそんなウソ言うんだよ。」

「えっ、本当のことよ。江口が私のこと何も知らなかっただけでしょ。」


 大人の客の多い落ち着いたバーだが、クリスマスシーズンのせいか、テーブル席も、カウンター席も、華やいだ雰囲気だったのに、皆が会話を止め、私たちは一斉に注目をあびている。

「まあ、少し頭を冷やせよ。」

そう言って、間に入ってくれたのは、彼の友人。



 彼が、機嫌よく、この店に入って来たのは1時間前。

 私も、機嫌よく飲んでいたのは、1時間前まで。


 最悪だった。

 久しぶりに、一緒に飲もうと電話があり、ずっと、彼と話したくてウズウズしていたから、いろいろな話を聞いてもらおうと待ち構えていた。

 私のほうが、先に仕事を終えて、マスターと楽しく話をしていたところだった。

 店の入り口を気にしながら待っていると、彼が手を挙げて近づいてきた。一人ではなかった。1・2度何かの会合で話したことのある彼の友人も一緒だった。それだけで気分は、だだ下がり。


 彼、江口雅也は、大学からの友人。そう、友人だ。

 『彼にとっては。』 だけど。

 私は、大学の時から好きだった。好きだと意識した時には、もう彼女がいて、その可愛さと言ったら、大学でも1番と言っても良いような彼女だ。話にならないなと、苦笑いするしかなかったけど、意外とさばさばしている自分がいて、じゃあ、誰にも負けない一番の友人になろうと切り替えて、14年たっている。


 自分の努力を、自分だけは誉めてやりたい。彼が少しでも興味がありそうと思ったことは、何でも調べて、彼の話についていった。ついていくだけでなく、自分の考えや知識を話し、私と言う存在を認めさせて行ったから、大学を卒業するころには、

「お前と話をしていると、一番面白いよ。同じ会社に就職するんだから、これからもよろしくな。心強いよ。」

と、言わせるようになっていて、一生、この関係は続くと思うとうれしかった。


 『それって、どうなの。恋愛じゃないでしょ。』

 そう、どこからか声が聞こえそうだけど、それは、きっと、自分の容姿に対するコンプレックスの裏返しだったのだろう。背が高く、肩幅もしっかり。太れない体質らしく、ごつごつとして、女性らしい柔らかいイメージとは、対極にいると分かっていた。

「笑うと目じりが下がって、可愛いじゃない。」

母だけが、親ばかを発揮しているが、見事に恋人いない歴32年。


「来年は、もう厄年よ。早く何とかしなさい。」

「わかっているわよ。まったく、会うたびに厄年の話しないでよ!」

 今朝だって、掃除がてらアパートに来てくれた母から、露骨な催促があったが、仕方ない。彼が結婚するまでは、一人でいるって勝手に決めているんだから。なぜ?彼が結婚したら、本当にきっと、諦められると思っているからだろう。と、言うより、そうなったら、きっと本当にあきらめなければならないと無意識に、覚悟しているんだろう。


 とにかく、今日は、久々に話ができる。最近は彼女がいないから、コイバナを聞かないで済むので、益々楽しみだ。旅行の話をしようか。仕事がらみでも面白い。たまには、私の部下の愚痴でも聞いてもらおうか。今日は、ラッシュの電車も苦にならなかった。


 街は、クリスマス一色。あまり関係のないイベントとなって久しいが、今日は、クリスマスイルミネーションに、やっぱり心が弾む。

-現金な物ね-

なんて、ばかみたいに浮かれてた。さっきまで。


「こいつ、知ってるよな。総務部の山瀬。同期。」

「今晩は。いつもあなたの仕事の手腕を見せて貰ってます。すばらしいですよ。うちの課でも評判なんですよ。」

「ありがとうございます。そうおっしゃっていただいても、うれしくありません。本気でも、まして、お世辞なら当然。」

「おまえ、何時ものことだけど、可愛げないなあ。」

彼が山瀬を気にしながら、作り笑いをしてる。


「江口、良いよ。こんなところも、三輪さんの面白いところだからさ。」

 そう言って、山瀬は笑ったが、彼も私も、雲行きが怪しくなっていることを感じている!私は、もともと、さっぱりとした性格だが、世間話程度のことに毒を吐くようなことはしないことを彼は知っている。それなのに、しょっぱなから辛辣な話をしているので、困っているようだ。


 しばらくして、私は、トイレに立って出てくると、江口が待っていた。

「なに?」

「山瀬が、洋子を紹介してくれって。おまえも、そろそろ結婚しても良いんじゃないかと思って。いいやつだよ。本当に。」

私は、江口の顔をにらんで無言のまま、席に戻った。


「三輪さんは、旅行が好きなんですってね。どんなところへ行かれるんですか。」

「田舎へ行って、やりたそうな男とホテルに行くんです。」

「えっ!」

ほら、もう鼻白んでる。こんなものよ。これで、終わりよ。


 江口に、『もうそろそろ良いんじゃないか。』と言われたことが、悔しくてならない。恋人にしてくれと言ったこともない。まして、ずっと待っているわと言ったこともない。なんで、お前もそろそろなどと言われなきゃならないんだろう。


「うそでしょ。びっくりしたな。そんな冗談も言うんですね。」

「冗談じゃないわよ。田舎の男は、素朴で良いわ。」

トイレから戻ってきて、いきなり彼が怒り出した。

「お前、何のつもりでそんなウソ言うんだよ」

「本当のことよ。江口が私のこと何も知らなかっただけでしょ。」

「まあ、少し頭を冷やせよ。大体、なんで江口がおこるんだ。」

「えっ、洋子は、おれの妹みたいなもんだから。そんなこと言うだけでも、当然、腹立つさ。」

「妹ね。私は、貴方が、私の弟だと思っていたわ。」


 お互いをにらみつけて言っているのを見ていた山瀬が、くすくす笑い出した。

「まいったな。」

「おれ、お邪魔虫だったわけか。」

「なんだよ、お邪魔虫って。」

「まあ、良いよ。今度、おごれよ。」

ぽかーんと山瀬を見送って、まだ腑に落ちない江口は、コップのハイボールを一気に飲み干し、

「マスター、おかわりお願いします。」

そう、言って、何か考えている。私は、山瀬の言った意味にすぐ気づき、江口に自分の気持ちがばれてしまうのではと、気が気じゃなかった。


「マスター、私に、ギムレット、作って。」

「ギムレットって、お前、そんな強いカクテル飲むのかよ。」

「そうよ、貴方は、私のこと、何も知らないの。」

「わたしは、貴方と同じ32歳。卒業して10年。総合職でやって来たのよ。砂をかむような味気ないことも悔しいことも、経験してきてるの。」


 マスターが、ハイボールとギムレットをそれぞれのコースターに置いて少し離れた場所のお客と話し出した。二人とも、黙ってグラスを口に運んで、どのくらいたったのか、私が、切り出した。

「もう、これからは、私におせっかいはやめて。」

「おせっかいだなんて思わなかったよ。良いやつなんだ。」

「良い人でも、悪い人でも、とにかく今後一切、かまわないで。」

そう、言って、バーを出てきた。


 彼は会計をするために、すぐは来れないはずだ。良かった。本当は、トイレで言われた時から泣きそうだったのだ。

「わかっていたけどね。」

ぽろっと本音が出る。恋愛対象じゃないことは判っていたけど。恋ばなされるより、きついよ。

歩道橋から見える、クリスマスイルミネーション。恋人たちが寄り添って幸せそうに歩いている。今日ほど、切なく感じることがあっただろうか。


「涙で目が洗えるほどたくさん泣いた女は、視野が広くなるの。」

「アメリカの女性ジャーナリストが、かっこよく言ってたけど、ほんとかな。」


 歩道橋の上で泣いていると、ぼやけた目に、江口が必死に走ってくるのが見えた。






最後まで、お読みいただきまして ありがとうございました。

よろしければ、「友人 Ver洋子」の朗読をお聞きいただけませんか?

涼音色 ~言ノ葉 音ノ葉~ 第28回 友人 Ver洋子 と検索してください。

声優 岡部涼音が朗読しています。

よろしくお願いします。


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