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ナナイロノミチ  作者: 涼音 星夜
どっちが好き?
6/29

異性の友だち

「えっ!? セッ……て、はあ?!」

予想外の展開に照人はビックリして固まった。

「私と一回試してみない? 男は誰だってそういうことに興味あるもんなんでしょ?」

「バカか、お前! そ、そういうのはだな、好きな奴とするものだろ!」

照人は真っ赤になりながら動揺している。逆に玉紀の方が落ち着いているように見えた。

「照人だっけ? アンタさ、抜けてるように見せてるみたいだけど実は、困ってる子は放っておけないタイプじゃない? それに意外と筋肉締まってて体力もありそうだし」

「それはつまり、俺のことが好きなの?」

玉紀は歩きながら考えて話し続ける。

「今まではさ、女の子といる方が全然楽しくて、男子なんかバカばっかりで興味なかったんだけどさー。最近、なんだかアンタのことばっかり考えてて……」

「いや、だからっていきなりそんなこと……」

「アンタってさ、もしかして女には興味ないの?」

「えっ?! なんで?」

照人はドキッとして動揺した。

「……まあ、いいわ。いきなりそんな話しても無理なのはわかってるよ。まずは友だちでもいいからさ、仲良くしない?」

照人は少し考えてみたが、断る理由も特に見つからなかった。

「友だちならいいけどさー……。その先のことはね、お互いちゃんと好きになれたらにしようよ」

「わかったわ。じゃあ、よろしくね照人」

「おう。よろしく、玉紀」

二人は握手を交わし、お互いに初めて異性の友人ができた。


 照人はその晩、ベッドに仰向けになりながら、玉紀のことを考えていた。女の子にあんなふうに呼び出されたのは初めてだった。とはいっても、玉紀はスタイルも性格も男の子みたいで男友だちのようにしか思えないが。翔太の方が逆に女の子みたいに可愛く見えることがある。男みたいな女の子と、女みたいな男の子。二人の間に挟まれ色々考えているうちに、いつの間にか照人は眠りに落ちていった。


「照人ー! 朝よー! 夏休みだからっていつまで寝てるのよ!」

「わかった、起きるってば!」

夏休みに入り、ゆっくり寝ようと思ってたら母に起こされた。あんまりゴロゴロしてたら体が(なま)るだろうか。しかしこの暑さだと外を走る気にもなれない。それなら泳ぎに行くか。朝食を食べて落ち着いてから、照人は自転車に乗って出かけた。


 蝉がジリジリと鳴いている。街中は蜃気楼のように揺らぎ、湯気が立っているようだ。子供たちの(はしゃ)ぐ声とプールの監視員が吹く笛の音が聞こえる。照人は市民プールの駐輪場に自転車を停め、バッグを背負って入口に向かった。

 更衣室で水着に着替えてからシャワーと腰丈の小さなプールを通り、軽く水に体を慣らした後、プールサイドで準備運動を始めた。充分に体をほぐしてからゆっくりとプールに浸かる。外気温が高いせいか水温も高めだ。それでもサウナのような外よりは少しはマシだろう。

「やっぱり、夏休みだから()んでるなー」

照人が二十五メートルプールに入ると小学校高学年くらいから大人まで自由に泳いでいた。その奥にある子ども用プールには、家族連れの人たちでいっぱいになっている。ゆっくり水圧をお腹に感じながら照人は歩いていき、広くなったところに出てから泳ぎ始めた。水の中に潜って泳ぐと、人々の腰から下だけが見えてなんだか別な世界のようだった。

「プハッ!」

奥の壁まで着いた照人は、水から顔を出した。

「あれ? 照人? 来てたんだ」

「ん?」

ゴーグルを上げて見上げると、水着姿の玉紀が立っていた。

「いいよねー、男子は海パン一丁で泳げてさ」

上下で分かれた競泳用の水着を着た玉紀が、羨ましそうに言う。

「玉紀? 玉紀も泳ぎに来てたの?」

「うん。学校の水着ってなんか着る気になれなくてさ。泳ぐのは好きなんだけどね」

玉紀はそう言うとプールに入り、照人の横に並んだ。

「ねえ、一緒にあっちまで競争しない?」

玉紀はゴーグルを準備して提案する。

「いいよ。だけど混んでるから、ぶつからないように気をつけて行こうよ」

「オッケー! じゃあ、おっ先ー」

玉紀は両手を水面に突き出して泳ぎ始めた。

無駄のない綺麗なフォームで息継ぎしながらクロールする。

「へー。じゃあ、俺も」

照人もその後を追って泳ぎ始めた。玉紀が先に向こう側に着き、そのすぐ後に照人が到着した。

「ふう、なかなか速かったな。追いつくのがやっとだったよ」

照人は息を整えて玉紀に話しかける。

「運動系は得意だかんね。アンタもなかなかやるじゃん」

玉紀は自慢げな笑みを浮かべた。するとその時、すごい勢いで玉紀に向かって泳いでくる人影が見えた。

「危ない!」

照人は反射的に玉紀を抱き寄せ、水しぶきを背にするようにして守った。

「うわっ」

それでも水がかかり、玉紀は咄嗟(とっさ)のことで声を上げた。

「ったく、周りを見ろってな。大丈夫か?」

「……うん」

気が付くと玉紀を抱き締める格好になってて、胸の膨らみの感触が水着越しに伝わってきた。

「うわっ! ご、ごめん!」

照人は赤面しながら体を離した。

「……そろそろ上がろうかな。ねえ、今日はこの後、予定ある?」

「えっ? いや、特にないけど……」

「うちに遊びに来ない? 夕方までみんな出かけてていないし……」

玉紀が照人の手を弱々しく掴む。なんだか寂しげな雰囲気で、守ってあげたい気持ちになった。

「んー、じゃあ、ちょっとだけなら……」

「ホント? ありがと! じゃあ、着替えたら、玄関のとこに集合ね!」

玉紀は嬉しそうにプールから出て更衣室に向った。簡単にオッケーしてしまったが、良かったんだろうか。男友だちのように気楽に考えていたが、さっき感じたあの男にはない柔らかな感触……。今までまともに家族以外の女性と話したり、ましてや恋愛などの経験もない。照人は着替えつつ、玉紀のことを考えながら急いで更衣室を出た。

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