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ナナイロノミチ  作者: 涼音 星夜
出会い
3/29

バスケ少女

 数日後、照人は隣のクラスと合同で、体育館でバスケの練習をしていた。ドリブルやパス、シュートの練習、その後にゲーム形式の男女混合チームで競い合うことになった。

「タマタマ玉紀ー! お前、ホントはタマ付いてんだろ?」

照人の隣のクラスで男子バスケ部の健太(けんた)が、玉紀と呼ばれるショートカットの女子をからかっていた。

「うっせーな! いらないんなら、アンタのタマとチンコ、取ってやるよ!」

「おー、怖。 ホラ、しょうがねーからこっちのタマならやるよ、っと!」

そういうと健太は、バスケットボールを玉紀に向かって思いっきり投げつけた。

「キャー!!」

近くにいた女子が目を(おお)って叫ぶ。

 バン!!

 その時、別な方向からボールが飛んできて、玉紀に投げつけられたボールを弾き、投げつけた健太の顔面にぶつかった。

「うっ、痛えーな、誰だ!」

「あー、ごめんごめん大丈夫? ボール取り損なっちゃって」

照人は走ってきて跳ねたボールを掴み、苦笑いしながら謝った。

「気をつけろよ、バカやろー!」

顔を押さえながら健太は去った。玉紀は助けてくれた照人の方を見る。

「あの……ありがと」

「ん? なんのこと?」

照人は知らないフリをしてニコッと笑い、自分のクラスのところへと戻って行った。玉紀はそんな照人の姿をずっと見つめていた。


 休憩の後、二組男女混合で五対五のチームに分かれて、ゲームが始まった。照人は玉紀と一緒のチームになり、対戦相手のチームには健太がいた。

「おう、またお前か。さっきのリベンジさせてもらうぜ」

「お手柔らかによろしくね」

「じゃあ、始めるぞ!」

各チームは整列して一礼し、試合が始まった。


 運動部や経験者が中心となってパスを回し、試合をリードしていた。一方健太は、背は低いがスピードあるドリブルでディフェンスをどんどん突破し、そのままランニングシュートを決めた。

「オラ、どうした! バスケは背だけじゃ勝てねーんだぜ?」

「うん。これは強敵だなあ」

照人はニコニコと笑う。

「よし、今度はうちらの番だよ!」

玉紀はバスケ部で鍛えた俊敏な動きで、あっという間にセンターラインを越えて行った。同じチームの男子とパスを繋ぎながらゴールを狙う。玉紀にボールが戻り、半円の外から放たれたボールは、放物線を描いてリングの中に吸い込まれた。

「スリーポイント!」

ワッと歓声が上がった。

「確かに背だけじゃ勝てない、よね?」

玉紀はドヤ顔で健太を見る。

「やるじゃん。まあ、まぐれだろうけどよ」


 お互いに点の取り合いになった。二点差前後を保って残り一分。両チーム共に体力の限界で、運動部の二、三人以外は、へばって動けなくなっていた。

「玉紀、そろそろ限界なんじゃねーの?」

「アンタこそ、足が止まってきてるんじゃない?」

照人も陸上の経験が役に立っているのか体力だけは自信があった。照人はボールをキープしている健太からゴールを守る。

「じゃあ、そろそろ、さっきのリベンジしてやるよ!」

健太はボールを弾ませるリズムを変えて進行方向を切り替えし、照人に向かって強引に突っ込んできた。

 ピー!!

「オフェンス、ファール!」

勢い余って照人は吹っ飛ばされた。

「おい、大丈夫か!」

同じチームのメンバーが駆け寄る。

「ちょっとアンタ! ワザとぶつかってきたでしょ!」

玉紀が突進してきた健太に詰め寄る。

「フン! そんなとこでぼーっと突っ立ってるからだろ」

健太は素知らぬフリをする。

「俺なら……大丈夫だよ」

チームメンバーに助け起こされる照人。残り五秒で二点差。フリースロー1本では勝てない点差だ。

「悪いが、俺たちの勝ちみたいだな」

健太は既に勝ったつもりになって、センターライン付近でチームメイトと雑談している。照人は呼吸を整えて一本目を放った。

 ダン、シュッ。

 ボールはバックボードに当たり、そのままゴールネットを通過した。コートの外で見ていた生徒たちから歓声が上がる。玉紀は照人に近づき肩を叩いた。

「ありがとう。もう十分だよ。ここで負けても誰も文句は言わないよ。二投目も気にせず投げな」

他のチームメイトも照人を見て優しく(うなず)く。

「負けて元々か。それじゃあみんな、最後のチャンスに賭けてみようか」

顔を見合わせたチームメイトたちは、照人を中心に集まって話し合った。


 フリースローラインに立つ照人。チラッと玉紀の方を見る。一点差。これを入れたら同点になるが、相手ボールになって残り五秒、向こうに保持されたら同点終了になる可能性が高い。入れて同点か、それとも……。

 照人は一呼吸をつき、固唾(かたず)を吞んでみんなが見守る中で、ゴールを見つめてからボールを高く放った。

 ガンッ!

 ボールはバックボードとリングに当たって弾かれて飛んで行った。そのボールは、相手チームの生徒の元へと飛んでいく。

「残念。やっぱ、俺の勝ちだ!」

残り四秒、相手チームがキャッチしようとした時、僅かな隙を突いて照人がボールを奪い、そのまま玉紀へパスした。

 残り二秒。相手ディフェンスが間に合わず、玉紀がゴールへ向かってジャンプした。

 パサッ。ビー!!

 試合終了のブザーと同時にゴールインした。スコアが動きゴールが認められ、照人チームの勝利が決まり、ワッと大歓声が上がった。がっくりと(ひざ)を突く相手チームの選手たち。

「残念だけど、私たちの勝ちだね」

「チクショー! 今度は絶対勝つからな!」

負け惜しみを残し、強気な態度を取り戻した健太はコートを去って行った。コート内では玉紀のクラスメイトたちが流れ込み、玉紀を中心に囲んで喜んでいる。揉みくちゃにされながら玉紀は、クラスメイトの男子と笑いながらコートを出る照人の姿を見送っていた。

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