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ナナイロノミチ  作者: 涼音 星夜
それぞれの道
26/29

大切な人

 目を開けた照人は、夕暮れに照らされた高台の公園のベンチに座り、大切な人を待っていた。ずっと考えて悩み、だけどやっぱり決めた。今日こそここで伝えよう。しかし改めて会うとなるとやっぱり緊張する。果たしてどんな顔で現れるだろうか。

すると、遠くから人影が見えた。大きく手を振り近寄ってくる。

「お待たせー!」

「……翔太か? 久しぶりだな!」

やってきたのは翔太だった。高校の時に別れて以来の再開だった。前に会った時よりかなり身長が伸びていたが、笑顔はあの時のまま変わっていなかった。

「おい、いつ帰ってきたんだよ!」

「ハロー、照人君。今朝、日本についたばかりなんだ」

「お前、だいぶ伸びたなー」

「そう? 向こうだとみんな僕より大きいよ」

二人はベンチに腰掛け、語り合った。


「ここは全然変わらないね」

「ああ、そうだな」

夕日に照らされる街並みを二人は懐かしそうに見つめている。

「よく二人でここへ来てたよな」

「うん、覚えてるよ」

「翔太はその……良い人に出会えたか?」

「うん。向こうで知り合ったカナダ人の彼氏がいるんだ。今、付き合って一年半かな」

「そっか、良かったな。海外だと同性でも結婚できたりするところもあるんだろ?」

「そうだね。いずれはそうなれたらいいかなって僕は思ってる」

「そっかー。結婚式には絶対呼んでくれよ」

「うん、わかったよ。照人君はどうなの?」

「俺は……分からん。フラれたら後で一杯付き合って」

「フフッ。大丈夫だよ、照人君なら。じゃあ、そろそろ行こうかな。僕はしばらく日本にいるから、期待しないで報告待ってるねー」

翔太は立ち上がって手を振り、その場を去って行った。

「んなこと言ったってなー。はあ……」

自信がない訳ではないが、断られる可能性もある。そしてこの結果により、俺の人生にアイツをずっと付き合わせることにもなるのだ。なんだかだんだんと自信バロメーターが低下していく気がした。


「よっ! 待ったー?」

「うわっ、た、玉紀! びっくりしたー」

照人が考え込んでいると、玉紀に後ろから肩を叩かれた。

「照人が呼び出したくせに。はー、でも綺麗な夕日ねー。懐かしいな」

玉紀が就職先を決める前に話したいことがあると、照人はこの場所へ呼び出していた。生まれ育った街全体が見渡せる高台の公園。夕暮れ時や夜空は特に綺麗で昔よく来ていた。

「それで、こんなとこに呼び出したりなんかしちゃって、どうしたの?」

「ん? ああ。なんかさ、昔のこと思い出したくなって」

「昔のこと?」

「うん。玉紀に出会う前、高校入り立ての時に俺、怪我しちゃってさ。陸上一筋でずっとやってきた俺は、生きる意味なんてないって思ってた」

「へー。初めて聞いた……」

「それから俺のことを慕ってくれる友だちが出来たり、玉紀に出会ったりして、自分一人だけの世界が少しずつ広がっていったんだ」

玉紀は隣に座り、照人の話を聞いている。

「あの時はびっくりしたよ。いきなりあんなこと言うんだもんなー」

「ああ、あれは……私もね、思春期で好奇心いっぱいで怖いもの知らずだったの」

「今でも怖い? 男の人……」

「最近はね、日常生活ですれ違うくらいなら平気だけど、近くにいるとちょっとね……」

「俺のことも?」

「照人はもう、なんだか兄貴みたいな感じだから大丈夫だけど……」

「夫婦にはなれない?」

「夫婦?」

照人は立ち上がった。そして玉紀の方に向かって(ひざまず)き、小さな箱を開いた。

「照人……何これ……嘘でしょ?」

「三浦玉紀さん。僕と……結婚してください」

「照人……私、無理だよ……。できないかもしれないよ? 照人、子ども好きでしょ? 私じゃない人の方がいいよ、きっと……」

「いや、俺は玉紀じゃないと駄目なんだ。玉紀のいない人生なんて考えられないよ」

照人は真剣に玉紀を見つめる。玉紀は驚いたまま固まっている。

「できなくても……そんなこといいんだよ。俺は玉紀が側に居るだけで楽しいし嬉しいし、ずっと側にいて守ってやりたい。子どもなんていなくても玉紀が居ればそれでいいんだよ」

「だって……駄目だよ、照人」

「寂しかったらさ、犬や猫を飼ってもいいし、養子を迎えてもいいし。俺が玉紀を独占して、二人だけで過ごすのもいいしな」

「照人……本気なの?」

「ああ。俺は転勤もある仕事だけど、玉紀と離れたくない。付いて来て欲しい。側に居て守りたいんだ。だから、ずっと……。ワガママなのわかってるけど、俺の側に居てくれないかな?」

照人の目は真っ直ぐと玉紀を見つめていた。

玉紀は悩んでいるようだった。照人は玉紀の手を握り締める。

「ホントに、私でいいの? 後悔しない?」

「俺はこの手を離したほうが後悔すると思う。玉紀の夢、俺が叶えるよ」

「……もう、しょうがないわねー。頑固な照人について行けるなんて、私くらいなもんだしね。けど、守ってもらうだけじゃ嫌だからね! 私が照人を幸せにしてあげる!」

「それって……オッケーってこと?」

「うん!」

「マジで?! やったー!!」

「ちょっと、照人ってばー!」

照人は嬉しすぎて、玉紀を抱きしめてグルグル回った。

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