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ナナイロノミチ  作者: 涼音 星夜
それぞれの道
24/29

最後の願い

 あれから季節が変わり、桜が咲き誇る高校生活最後の卒業式を迎えた。在校生と父兄たちが見送る中、卒業生が体育館を後にする。校舎や教室を背景に記念撮影する人、お別れの言葉を伝え合う人、ボタンやネクタイを渡して思いを伝え合う人など、みんなそれぞれ別れを惜しんでいた。 

 

 卒業式を終えた数日後、照人は玉紀の家を訪れていた。久しぶりの玉紀の部屋。段ボール箱に荷物が詰められていて、部屋の中はすっかり片付けられていた。

「玉紀も引越し、もうすぐだっけ?」

「うん、そう。明日には荷物送って、明後日には出る予定」

「良かったな。女子寮がある大学でさ」

「うん」

「照人も来週には出るんだよね?」

「ああ。けど俺は、荷物だってたいしてないから」

「でも、驚いたなー。照人が警察学校だなんてさ」

「そうか? 俺にピッタリだと思うんだけどなー」

「えー? こんなヒョロヒョロで?」

玉紀が照人の腕をモミモミした。

「バカ、これから鍛えるんだよー」

玉紀と照人がそんなやり取りをしていると、階段の下の方から玉紀の母の声がした。

「玉紀ー! ちょっとお母さん、出かけてくるからね。照人くん、ゆっくりしてって」

「うん、行ってらっしゃい」

「はい、ありがとうございます!」

そう言うと玉紀の母は出かけて行った。


 家には照人と玉紀の二人だけとなり、一瞬、静まり返る。なんだか気まずい空気が流れた。

玉紀は照人に対しては普通に触れるようになってきた。しかし時々夜中に、夢でうなされることもあるようだった。玉紀とこうして会えるのも今日が最後だろう。お互いの学校は、近いとはいえ電車で二時間程は離れている。

「しばらくはこんなふうに会えなくなるな」

「そうだね……」

並んで座っていた玉紀は、照人にもたれ掛かって(つぶや)いた。

「ねえ、照人……」

「うん?」

「抱いてくれないかな」

「えっ? でも……」

「最後に、お願い……」

「玉紀……」

照人は玉紀の目を見つめた。真っ直ぐに見つめ返してくる玉紀の目が、本気だと言っていた。照人は玉紀の目が閉じるのと同時に唇へと優しくキスをした。

「怖くない? 俺のこと」

「うん。大丈夫」

「もし嫌になったらすぐ言って。俺は玉紀を傷つけたくないから」

「うん……」

玉紀と一緒に照人は、同じベッドの中で抱き合った。お互いの体温を感じながら、時々見つめ合い、確認するように。白くて滑らかな玉紀の肌が自分の肌越しに伝わり、照人の鼓動が早くなった。

「玉紀、平気? 目を(つぶ)ったら駄目だよ。俺のこと、ずっと見てて」

「うん……」

玉紀の指に、照人が指を重ねる。お互いの体温で熱くなり、溶け合うように感じた。

「玉紀……」

照人の手が玉紀の太股から足の付け根に触れた時、玉紀が一瞬ビクッとなり、目を見開いて叫んだ。

「……イヤー!! やめてー!!」

「玉紀?!」

照人はすぐに身を起こして玉紀から離れた。玉紀は毛布に包まり、震えている。

「玉紀? 大丈夫か? おい!」

「怖い……怖いよ……」

玉紀は震えながら泣き出した。照人は触れて大丈夫か様子を確かめてから、玉紀の体を毛布ごと(さす)った。

「玉紀……もうしないから。大丈夫だから」

「照人……ごめん」

玉紀が抱きついてきた。

「玉紀……大丈夫だよ。一緒に乗り越えよう。俺はずっと玉紀の味方だから」

「照人……」

照人は玉紀を抱きしめ、泣き止むまでずっと側にいた。

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