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ナナイロノミチ  作者: 涼音 星夜
男と女
20/29

過去と未来と今

 誰にでも辛い出来事は突然にやってくる。身近な人の死、事故や災害、後遺症や生まれつきの障害など、自分の力じゃどうにもならないことが。

 照人と翔太たちは、広島の原爆ドームに修学旅行で訪れていた。お花を捧げ、みんなで黙祷し、崩れ落ちそうなその建物を見上げた。人は愚かだ。欲にまみれ、人と人、国と国とが争う。その後には何が残るだろうか。いつも被害を受けるのは、一般人たちだ。弱い人たちを守るのが国の使命なはずなのに……。

「僕らの平和な世の中は、この犠牲になった人たちの上に立っているんだね……」

「そうなんだな……」

翔太と照人は久しぶりに会話した。転校した玉紀とは一緒に来れなかったが、たまには翔太とのんびり過ごすのも悪くないと思った。

「明日は京都だったっけ……自由行動の時、翔太はどこか行きたいところあるか?」

「僕はお茶屋さんに寄りたいなと思うけど、照人君とならどこでもいいよ」

「そっか……じゃあ、回れそうなところ今日のうちに探しておこうぜ」

「うん」


 京都では定番の嵐山や清水寺、金閣寺などの仏閣巡りをし、自由行動となった。

「さーてと、それじゃあまずはお茶屋さんだっけ?」

「うん。近くに和菓子で有名なお店もあるんだ」

「よし、じゃあ行こっか」

「うん!」


 照人と翔太は、探していたお店を目指して歩いた。日本茶の専門店や和菓子屋、抹茶と善哉のスイーツの有名な店などに向かった。

「翔太はホント、甘い物好きだなー」

「甘い物は別腹でしょ?」

「まあ、そうだけどよ。……ん? 神社だ。ちょっとお参りして行くか」

「うん」

二人は通り掛かりに歴史のありそうな雰囲気の神社を見かけ、お参りすることにした。


 カランカラン。

お賽銭を投げ入れ、手を合わせ、照人と翔太は並んでお祈りした。

「よし、おみくじ引こうぜ」

「うん」

二人はそれぞれおみくじを引き、一緒に開く。

「えーと、……大吉! おお、やったー! 翔太は?」

「僕は……吉だね」

「まあ運は努力で変えられると言うからな。よし、お守りも見ていこう」

「うん」

照人と翔太はお守りの売り場へと向かった。

「えっと……学業成就と……これで!」

「僕は……厄除け、縁結びにしようかな」

「厄除け?」

「うん、まあちょっと、いろいろあってね」

二人は近くのお茶屋さんで休憩することにした。


「なんだか二人でこうやって、出かけたり話すのも久しぶりだな」

「そうだね。玉紀さんって人は、あれから元気になったの?」

「うん。新しい学校で元気にやってるよ」

「そっか。よかったね」

「ごめんな、翔太。最近付き合いが悪くてさ」

「ううん、僕のことは気にしないで。せっかくの修学旅行なんだから楽しもうよ」

「そうだな! えっと、じゃあ次は……」

パンフレットを見ながら次に行く場所を探す照人の楽しそうな横顔。

「……」

翔太はその横顔を、目に焼き付けるようにずっと見つめていた。


 修学旅行が終わり、それぞれ進路を考える時期となった。担任教師と個別面談し、自分の進路希望と教科選択などを話し合う。

「翔太は今日面談だっけ?」

「うん。これから行ってくるよ」

「そっか。じゃあ、また明日な」

「うん。またね」

翔太は進路指導室へと向かい、照人は自宅に帰って勉強を始めた。そういえば、玉紀は進路どうするんだろうか。あれからしばらく、普段通りの生活に戻ってきてはいるが、また何かのキッカケでパニックになる可能性もある。照人は玉紀に連絡を入れ、玉紀の家に向かった。 


 夕焼けが沈む頃、高台の公園にやってきた。カラスが巣に戻るのか、集団で飛んで行く姿が見えた。秋から冬に近づく冷んやりとした空気で、日没もだいぶ早くなってきた。照人と玉紀は、ベンチに並んで腰を下ろした。

「ほい」

「ありがと」

さっき自販機で買ったホットココアを玉紀に渡し、家から持ってきたブランケットを二人の膝の上に被せた。照人はホットコーヒーを取り出して一口飲んだ。

「だいぶ寒くなってきたな」

「うん」

こうして二人でいると、一人でいるよりも温かい気分になるのが不思議だった。

「新しい学校はどう?」

「うん。まあまあかな」

「進路相談とかはまだ?」

「うん。やったよ」

「玉紀はどうすんの? 大学に行くのか?」

「うーん。まだちょっと迷ってるんだけどね。とりあえず女子大に進もうかとは考えてるんだけどさ、何がやりたいとかはまだ決められなくて……」

「そっか……」

「照人は?」

「俺は……なんとなくだけど、方向性は決めたよ。今はとにかく勉強して、行きたいところへ行けるように頑張るしかないかな」

「そうだねー。十年後くらいになったらさ、うちら、どんなことして誰といるんだろうね」

「十年後かー。どこにいるかはわからないけど、十年後もこうして二人で一緒に居れたらいいな」

「照人、何? それってプロポーズ?」

「い、いや、まだそんなんじゃなくて、と言うか……思ったことそのまま言っただけだよ」

「照人ってさー、サラッとそういうこと言うよねー」

「……」

照人は照れて目を逸らした。

「綺麗だね……」

そう呟いて沈む夕日を見つめる玉紀の横顔を照人は見つめた。今一緒に居られるこの時間を大切に感じながら、明日に向かって落ちていく陽の光を見つめていた。

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