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ナナイロノミチ  作者: 涼音 星夜
どっちが好き?
13/29

ラッキープレイス

 翔太と分かれた照人は、自転車を押しながらぼんやりと歩いていた。翔太はあんな苦しい思いをして悩んでたんだ。だけど俺は……。 

 前に公園で翔太といたときに見た白昼夢。あの夢のことも気になっていた。玉紀とはキスしてからは部活が忙しいようでなかなか会えなかった。玉紀との関係は順調なはずなのに、なんだか落ち着かない。照人はふと、占い師の言っていたことを思い出した。

『お前さんの悩みを誰かに相談したくなったら、この子を探すといい。ラッキープレイスは喫茶店、ラッキーアイテムは樽と猫じゃよ』

「ラッキープレイスは喫茶店……」


 照人は見覚えのある喫茶店を一軒一軒周った。しかし、あの猫の姿は見当たらない。

「どこ行ったんだろな……」

自転車を手で押して歩いていると、猫の鳴き声が聞こえた。

「ニャーン」

「ど、どこだ?」

鳴き声のした方をよく探してみると、美容室の花壇のところに尻尾が見えた。そっと近寄ろうとすると、グレーの猫が顔を出した。

「あっ、やっぱ、あの時の猫!」

「ニャー?」

猫は小首を傾げるような仕草をしてからスタスタと歩いて行く。

「おい、ちょっと待てよ!」

また猫について行くと、レンガ造りのビルの階段を上がっていった。照人は自転車を近くに停めて、その階段を上がって追いかけた。照人がやっと追いつくと、猫はお店のドアをノックするように擦っている。

「ここ?」

「ニャーン」

照人は重そうなガラスの扉をゆっくりと開けた。カラカラと軽やかにドアチャイムの音が響き渡った。

「おや、いらっしゃい。お客さんかい?」

「ニャーン」

グレーの猫が返事をする。入口に入ると、目の前に樽があり、重厚な一枚板のバーカウンター、その奥の棚にはウィスキーやカクテルなどのお酒が並び、カウンター内には店主らしき人物が立っていた。

「こんにちはー……っとと!」

「あー、お客さん。そこ、段差あるから気をつけて」

入口の床が一段低くなっていて、照人は転びそうになった。

「あの、ここは……バーなんですか?」

「ああ。見た通り、夜はバーとして酒中心でやってるんだがね、昼間はコーヒーや紅茶なんかも出してるよ」

「そうなんですか」

「まあ、とりあえず座んな」

照人は店主に促されて、近くのカウンター席へ座り、コーヒーを注文した。

「お客さん、見ない顔だね。グレコが連れてくるのも久しぶりだな」

「グレコ?」

「ああ、この猫だよ。あっちこっち行ってて気まぐれなんでね。色もグレーだし、俺はグレコって呼んでんだ」

「そうなんですか。実は、この前会った占い師さんに、困ったことがあればこの猫を探せと言われて、見かけてついてきたんです」

「ああ、なるほど。そうだったのかい。それで君は、何か悩み事でもあるのかい?」

見た目三十代後半くらいのガッシリとした体格の店主は、グラスを拭きながら照人にそう訪ねた。

「実は僕、気になる子が二人いるんですけど、両方とも同じくらい好きで、恋愛感情ってのもいまいちよくわからなくて……」

「ほー。恋の悩みかね」

「はい……。一人は素直に自分の感情を伝えてくれたんですが同性の子で、もう一人の子は女の子で、僕のことが好きみたいなんですが、僕が近づくと離れて行くみたいで、なんか不安なんです……」

「なるほどねえ」

店主は、ホットコーヒーに砂糖とミルクを添えて、照人の前に静かに置く。

「ありがとうございます」

挽きたてのコーヒーの香りとほろ苦い大人な味。照人には苦味が強く感じられ、砂糖を少し加えた。

「君は同性の子と付き合うのは抵抗あるのかい?」

「いえ、そうではないのですが、その子が好きとまだはっきり言えなくて」

「ほう」

「女の子とも付き合ったことないし、好きなのか、からかわれているだけなのかもよくわからなくて……」

「なるほどねえ。まー、まずは相手の気持ちより、君自身と向き合った方がいいんじゃないかな? 今はまだ揺れ動いているのかもしれないが、君自身の気持ちを見つめ直して、誰と一緒に一番居たいのか、を考えてみたらどうかね」

「僕の気持ち、ですか」

「ああ。相手の気持ちを考えることも大事だけどさ、自分の気持ちを大切にすることはもっと大事だと思うよ。傷付いたり傷付けたり、うまくいかない時があっても、それでもこの子と一緒に居たいと思う、そんな強い思いがあるのか。答えはいつも君の中にあるはずだ」

「なるほど……」

「まだ若いんだからさ、いろんな経験や失敗をして、その中で決めればいいんだよ」

「そうですね……」

「このコーヒーみたいにさ、ブラックは苦くて飲めないと思っても、飲んでるうちに美味さに気付いて飲めるようになることだってあるしね」

コーヒーカップに注いだブラックコーヒーを、軽く香りを楽しんでから店主は一口飲んだ。

「さて、そろそろ大人たちの時間だ。うちはこのくらいの時間なら空いてるから、また話したくなったらおいで」

「はい。ありがとうございます」

照人は最後の一口を飲み干してお代を渡した。

怖そうに見えた店主は話してみると優しく、グレコの気持ち良さそうな寝顔を見ていたら、心が少し軽くなった。照人は店主とグレコに別れを告げて店を後にした。

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