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ナナイロノミチ  作者: 涼音 星夜
どっちが好き?
11/29

好きは好き

 連日続く暑さも落ち着く時間。紅く染まる美しい雲と、地平線に落ちていく夕日を眺めながら、照人は家まで帰る道を歩いていた。その途中、以前一度見かけたグレーの猫が通りがかった。照人はなんとなく気になり、その猫の後をついて行くことにした。


 ビルとビルの間の細暗い道を通り抜ける。どこへ行くのかと思いながらついて行くと、少し大きな通りに出た。そしてその片隅に、『占い』とぼんやり光っている看板と、小さなテーブルと椅子があって、顔まですっぽりと隠れるような黒っぽいフードを被った怪しげな人が佇んでいた。グレーの猫はその占い師に近寄って行き、ニャーンと鳴き声を上げて頭を擦りつけた。

「ご苦労さん。おや、お客さんかい?」

占い師は猫に向かってそう話しかける。

「ほら、突っ立ってないで、ここへお座り」

怪しい雰囲気を醸し出している占い師に照人は手招きされ、言われるがままに占い師の目の前の椅子に腰を下ろした。間近でその占い師をよく見てみると、老人のような手をしているが、声は意外と若いような不思議な存在感を放ち、男性なのか女性なのかよくわからなかった。

「お前さんから見れば不思議に見えても仕方ないだろうねえ。まあ安心しなさい。お代はこの子の飯代くらいで充分だから」

グレーの猫はニャーンと占い師の横で鳴き、毛繕いをしながら(くつろ)いでいる。

「そりゃ、戸惑うのも無理ないさね。初めての感情、この世界の常識。私らにとっては、全て同じ光なんだがねえ」

「一体、なんの話ですか?」

「迷っているんだろう。お前さんの悩みの答えは、お前さんの心が知っているよ。心を無にして、内なる自分と向き合ってごらん。この世界の常識や欲望に捉われず、何が好きで誰を愛するのか。どの道を選択するかはお前さん次第じゃがな」

「はあ、僕には難しすぎて良く分かりませんが……」

「ホッホッホ。そうじゃろうな。もしお前さんの悩みを誰かに相談したくなったらこの子を探すといい。ラッキープレイスは喫茶店、ラッキーアイテムは樽と猫じゃよ」

占い師は猫を撫で、猫は気持ち良さそうな顔でスヤスヤと眠っていた。照人はお代を渡して立ち上がった。

「大切な物は目に見えぬ。心で肌で感じ取り、己が光を解き放ち、陽の光で華を咲かせよ」

占い師はまた呪文のような言葉を残し、照人を見送った。照人は細い路地から来た道に戻り、占い師の言葉を思い返しながら家路に着いた。


 今年は猛暑と台風が交互にやってくるような不安定な天候が続き、災害や熱中症の被害のニュースばかりだった。だんだんと北上する台風の影響で、今日は風が強くなり次第に雨が降り出してきた。

「今日はうちで勉強でもするかなー」

照人は机に足を乗せて椅子を揺らしている。ドタバタといつものように駆け込んで来る足音がした。

「お兄ーちゃーん! ねえ、絶対猫のほうが可愛いよねー」

ドアをノックしたか分からないうちに入ってきた妹の(あかね)は、そう言って話しかけてきた。

「猫?」

「私は猫のほうが好きなんだけど、犬好きな子と意見が分かれちゃってさー。お兄ちゃん、どう思う?」

「んー、そうだなあ。猫は気まぐれだけど、甘えてくるとやっぱり可愛いよなー。犬は、一緒に遊んだり散歩したり楽しめるし、ご主人様には忠実だからどっちもいいとこあると思うけど」

「もう、それじゃ答えにならないでしょ!」

茜は怒って(きびす)を返して出ていった。

「だって、猫だって犬だってどっちも可愛いじゃん」

そう言ってから照人は、玉紀と翔太の顔が頭に浮かんだ。

「そうだよなー。どっちも可愛いんだよな」

照人にとっては二人とも魅力的だし、どっちも今は同じくらい好きだった。男が女がとかじゃなく、それぞれの良さがある。今の自分にはどっちかなんて決められなかった。ただ猫好きにしても犬好きにしても、自分家の子が一番可愛いという感覚に似ている気がする。誰が誰を好きでも自由でいいんじゃないかと思う。例えそれがちょっと変わっていても。

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