気になる少年
俺はなんで生きているんだろう。
ベッドの上で大の字になり、ぼんやりと天井を眺めながら、そんなことを考えていた。十五回目の誕生日が過ぎ、あと三年で社会という大海原に放たれるというのになんの目標も希望もない。運動も学力も見た目も中くらいで、たいした取り柄もなく友だちも恋人もいなかった。やりたいことと言えば、ゲームやマンガや小説などの世界に没頭したり、公園を散歩したり、動物園や水族館に出かけて気晴らしするくらいだ。今まで打ち込んでいた陸上も入学早々に怪我をしてしまい、リハビリして練習を再開してみたが思ったように記録が伸びなくなって諦めたところだった。これからの人生、何を目標にどう生きて行ったらいいのか、照人は心に穴が空いたような毎日を過ごしていた。
「おい、そこのお前。ちょっとツラ貸せよ」
「えっ、ぼ、僕?」
「いいから、ちょっと来い!」
高校での休み時間、不良グループの男子学生たちが、照人と同じクラスの気弱な男子、田口翔太に絡み、教室の外へ引っ張っていった。
校舎裏の人がいないところで、男子数人が翔太を囲んでいる。
「いいだろ、な? 可愛そうな俺たちにちょっとだけ、お小遣い恵んでくれよ」
「嫌だよ! 僕、お金なんか持ってないよ」
「そうか? じゃあ、仕方ねえ。身ぐるみ剥がして探させて貰おうか」
横にいた男子学生たちが、反抗する翔太の両腕を掴む。
「嫌だよー! やめてー!!」
腕を掴まれた翔太は、ジタバタして全力で振り解こうとする。
「コラ、大人しくしろよ!」
「嫌だー!!」
ガン!
「っ、痛えー!!」
振り解こうと暴れた翔太の足が、腕を掴んでいた男子の脛を蹴り飛ばした。その隙に翔太は腕を振り解いて走り出した。
「待て、コラー!」
逃げる翔太を追いかける激怒した男子学生たち。追っ手たちから逃れようと翔太が廊下の角を曲がった。
「こっちだ!」
「えっ! うわあっ」
照人は翔太の腕を引っ張り、近くの教室に一緒に隠れた。
「どこ行きやがった! 逃がさねえぞ!」
そのまま教室を走り抜ける男子学生の集団。足音がしなくなり、照人は様子を伺った。
「もう行ったみたいだな。大丈夫か?」
「うん、ありがとう。えっと、君は……」
「俺は黒地、黒地 照人」
「黒地君か。助かったよ。僕は、田口 翔太」
「ああ、知ってるよ。今度は気をつけろよな」
照人は翔太にそう告げて去って行った。
高校の入学式の時、体育館に並んでる生徒の中で、黒髪で肌の白い細身な少年がなんとなく目に止まった。後から同じクラスだと分かり名前を確認してはいたが、声を掛けたのはそれが初めてだった。
翔太は、成績優秀な大人しいタイプで、図書館や教室で勉強している姿をよく見かけた。物腰が柔らかくて中性的な顔立ちから、男子生徒よりも女子生徒の友だちが多いようだった。照人は中学から陸上を続けていたが、高校に進学したばかりの時期に膝の怪我を患い、強豪校から入学してきたライバルたちに差を付けられて目標を見失って退部した。今まで陸上にかけていた時間を何に費やせばいいのか、何の為にここにいるのか、そんなことを授業中に思い巡らせつつ、ふと翔太を見た。
(綺麗な顔立ちだな……)
最初はただそれくらいの印象だった。