表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説 (純文学など)

真夜中の安心

作者: Kobito

 真夜中に、何となく目が覚めた。

 隣を見ると、女が寝ていた。

 眉の薄い、少し不機嫌そうな女だ。

 その女には、見覚えがある。俺の妻だ。

 でも、俺はまるで偶然居合わせた他人でも見るように、常夜灯のだいだい色の薄明りを通して、その女の寝顔をまじまじと見た。

 何年連れ添っても、俺は俺の隣に、妻が寝ているという事が、意外に思えてならない。

 どうして、この女は、俺の妻として、ここで寝ているのだろう。

「どうしたん。トイレ?」

 妻がそう言って、薄目を開けて、こっちを見た。

「いや、ちょっと目が覚めた。」

「なんであたしの顔、見てたん?」

「お前が横に寝てるのに、いつまでも慣れないなぁ、と思って。」

「寝室を別にしたいって事?」

「いや、俺の隣にお前が寝てるのが不思議で仕方ないんよ。」

「何年夫婦やってるん?」

「何年だっけ?」

「ええと、十……、六年よ。」

「凄いな。」

「すごいよ。」

 妻は浅黒い腕を枕の上に伸ばして目覚まし時計を手に取ると、莱姆色ライムグリーンのバックライトで眠たそうな顔だけを照らされながら、「まだ四時やん。」と言って、布団に座った俺を見て、「寝り。」と言った。

 そこで俺はまた横になった。

 夫婦というのは、何処いずこもこんなものなのだろうか。

 それとも、俺の妻に対する感覚が、あまりにも家族としての情愛に欠けるのだろうか。

 そもそも、妻を他人だとしか思えない俺の性格が、いけないのだろうか。

 俺は妻の横顔をまたこっそりと盗み見たが、妻は早くも目をつむって規則的にゆるやかな寝息を立てていた。

 そこで俺も天井を仰いで目を瞑った。

 目蓋まぶたの裏の真っ暗な世界でも、俺は横で寝ている妻の体を、まるでそこに居る事がおかしい赤の他人のような存在として感じている。

 しかしともかく、夫から他人だと思われても気に掛けない女が妻なのは、先々心強い。

 俺はひと安心して眠りについた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この作品も感想欄が興味深いです(*´ω`*) 少女マンガのようなドラマチックで一途な恋愛に憧れますが、16年も熱愛が続くなんて、そうは無いだろうなあと思います。想う心が変わらない人なんて、…
[良い点] 再度、すみません。 なんだか変な感想でご心配をお掛けしたようです。すみません。違うんです。別次元と感じたのは、Kobitoさんの文章力が半端ないものだからだと思うんです。 家族を他人だと…
[良い点] 拝読しました。 なんだか不思議な空間の中にいる第三者のような、そんな感覚に陥りました。文学的でもあるのですが、別次元のお話のようにも。それが普通一般の夫婦生活の上に在るというのなら、この…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ