表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪竜の建国物語  作者: セリカ
9/20

第九話 旅立ち

 子竜が森に入るや初陣を見送った面々が出迎える。


「「初陣、ご苦労でございました」」


 オーガの長とガルムの長が代表し頭を垂れ、他の者もそれに倣う。


「お前達も後備え、ご苦労であった」

「とんでもございません。

 ところで最後、人の者と言葉を交わしていたようですが」

「あの者達が使う魔術について問うたのだ。

 適性が必要らしいが、まだ制御できていない力もあるからな」


 更に上を目指す子竜の意思にオーガとガルムの長は内心でほっとする。


 強さとは誇るものだが、稀に多少の力を手にしたことに驕る者が現れる。

 普通なら強者が叩きのめし、実力の程を教えてやれば良いのだが、子竜がそうなるとオーガやガルムではどうにもならない。


 長であるファフニールの実力を知っているからこそ、その心配は無いとは思っていたが万が一があると心配していたが杞憂に終わったようだ。


「ところでアレは?」


子竜の視線で問いかけたのは転がる骸達。


「こちらで処理いたします。

 特に旅立たれる際にはあの荷袋などは有効に使えますので」

「そうか。

 なら、私はこのまま親竜に報告に行く。

 後は頼んだぞ」

「はっ!」


 木々を跳躍していく、子竜を見送りオーガ達も子竜が倒した冒険者達の処理へと動き出した。


 木々を抜け、洞窟に潜り、親竜、邪竜ファフニールの前に子竜が片膝を付き頭を垂れる。


「戻りました」

「初陣見事であった。

 なにやら人の技術に興味を持ったようだな?」


 邪竜の問いかけに顔を上げ


「はい。

 人の魔術技術について、未だ至らぬ身ではありますが、知識を持つと持たぬのでは大きな違いがございます。

 影の行使、未だ不完全な力の制御に役立つかと。

 また邪竜の血が流れるのこの身にまだ秘められた才があれば、更なる力となりましょう」


 迷いでなく、己の力を求める信念に従い知識を得ようとした事を話す。

 そんな子竜の言葉に満足そうに頷く親竜。


「我が子よ。

 生まれた時、己の血に溺れ立つ事も出来なかった我が子がここまで力を付けた事を嬉しく思う。

 今夜、森を発て。

 オーガに荷を用意させている。

 世界を見て、自身に取り込めるものを取り込みのだ。

 そして、強くなれ。

 我を超える為の力を、知恵を身につけて継承の儀に望むべく戻ってくるのだ」

「御意に」


 再び、頭を垂れる。


「人の世に名が無いのは不便であろう。

 名を授ける。

 セプター、これよりセプターと名乗れ。

 そして、真に信頼できる者のみセプター・ファフニールの名を教えよ」

「セプター・ファフニールの名、ありがたく頂戴致します。

 その名に恥じる事無い力をつけて戻ってまいります」


 子竜、セプターは立ち上がり、親竜に見送られ振り返る事無く洞窟を後にし、オーガ達のところへ歩いていく。


「こうして旅立つと思うとどこか感慨深いものだな」


 小さな呟き。

 跳躍すればすぐの距離であるが、勿体無く思ったが故にこうして歩いていた。


 とはいえオーガの集落まではそんなに放れていないので、すぐにたどり着く。


 そのままオーガの長の屋敷に通され、セプターの旅立つ上での荷物が用意されていた。


 荷袋や薬の類は初陣で始末した者達のものだが、荷物はオーガ達が用意した物だ。


 干し肉や水などの食料にいくつかの大きさの空の荷袋、火打石、武器の手入れ用の油と布、小槌などである。

 さらに予備の投擲刀、短刀も納められていた。


 荷物を確認した後、武器と甲冑の手入れの方法を習い、胴を覆う鎧のみ外し、日暮れまで緩やかに寛ぐ。


 食事は甲冑を着るときに世話をした双子の姉妹が用意してくれるものを食べ、ゆっくりと茶を飲む。


 日は傾き、時は夕暮れ


「往くか」


 立ち上がり、胴に甲冑を身に付け、外套を纏う。

 荷袋は外套の中で右肩から左にかけ、紐を絞り荷が振り回せないようにする。


 いざという時は紐を解けば荷は落ち、すぐに対応できるし、外套の中に荷物があれば雨などで濡れ難い。


 靴を履き、オーガの長の屋敷を出ると既にオーガ、ガルム、更にはその配下の種族達も集まっていた。


 セプターの姿を認めるや、全ての者が頭を垂れ、オーガとガルムの長が前に歩み出る。


「どうか、油断する事無く圧倒的な勝利を手に」

「どうか、無事なご帰還をお待ちいたします」


 セプターは長達の言葉に頷く。

 それにあわせて進み出てくるオーガの双子の姉妹。


「ご命令承っておりました瞳隠しの布」

「ご用意出来ておりますのでお使いください」


 差し出される黒い布を左の金色の竜眼を隠すようにつける。

 命じた際に長さを測っておりちょうど良い大きさであるが


(片目を塞ぐと予想以上に視覚が狭まるな)


 実際に付けてみるとやはり勝手は異なると感覚をいつも以上に研ぎ澄ます。


「問題ない。

 苦労をかけた」


 セプターの言葉に喜ぶように小さく笑みを浮かべオーガの長の後ろに下がり頭を垂れる二人。


 その時、背後から視線を感じ振り返ると屋敷の屋根に赤い瞳の鴉がセプターを見下ろす。


 使い魔越しとはいえ見送ってくれる親竜に感謝を込めて会釈を返し


「留守の間、この地を頼んだぞ」


 再びオーガ達に視線を向け戻ってくるまでの事を託し、長達もそれに応える様に頭を垂れる。


 これ以上の言葉も見送りも必要ない。

 外套のフードを被り、一気に跳躍し、オーガの里を後にした。


 そのまま跳躍を繰り返し向かうのは山ではなく崖の方向。

 セプターの身体能力であれば山を越えるより崖を駆け抜けるほうが手っ取り早い故の選択であった。


 森の外れまで跳躍で駆け抜け、崖を見下ろす。

 この程度ならば、セプターにとっては支障にならないことを改めて確認する。


 崖を飛び降りる前に故郷である森に視線を向ける。


「知識を、力を身に付け、再びこの地に戻ってくる」


 覚悟と想いを胸にセプターは崖からその身を躍らせた

プロローグとしてはここまでかな。


次回から旅の物語です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ