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邪馬台国東遷  作者: シロヒダ・ケイ
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チクシ

― 第二章 チクシ 


一大率に着き長官に本部の返書を渡す。

長官は、これが自分の具申通りの内容である事に満足して、先輩をねぎらった。鴻臚館での宿泊を勧めたが、先輩は久し振りに寮に泊まることを望み、これを断った。トシの部屋に転がり込む先輩。ケンの鼾がうるさくトシの部屋の方がマシという理由で・・。

部屋の中で先輩がソワソワしている。

「トイレだったら向うですよ。」

何気なく言った途端「お前が適任だ。あのなあ。お前・・。チクシ、チクシがいるだろう。できれば会いたいと言ってくれんか?」

ヤマタイのVIP連中の前でも気おくれしなかった男がしどろもどろになっている。この役目、できれば受けたくないのだが懇願する目が震えるように弱弱しい。切実さを訴えているだけに断り難い。

「言うだけ言ってみますけど・・イヤと言われたら知りませんよ」と部屋を出た。


女子寮のオバさんに呼んでもらうとチクシが現れた。

「どしたん?」

「実はキクチヒコさんが韓半島から帰って来てて、出来ればお前に会いたいと言っている・・・」

チクシはどう出るのだろうか?

「キクチヒコ?私は会いたくないよ。断って。話すことないもん。」とつれない。

「少しだけ挨拶だけでもしてくれないかな」

「あの人キライ。学校時代から私をジッと観るのよ。気持ち悪い。それにあたし、もうすぐ開かれる弁論大会の用意があるし・・。そう、あなたに手伝ってもらいたいけど時間取れるかな。明日の放課後。」

弁論大会?女性が弁士として登場するなど、過去にあったか?こいつ、また人がしない事を平気に思いつく。そして、それを実行するクセがある。

「それはいいけど。どうしてもダメかな?・・実は今日、知ったけど高貴な方なんだよ。あの人は。」

「高貴でもノンキでもあたしに関係ないわ。あの人とは合わないの。ニガテ。大事な椿油作りで忙しいと言っといて。・・明日の放課後忘れないでね。」

ケンもホロロに拒否されて気が重いのとホットするのが半分の自分がいた。


一応、足取り重く部屋に戻ると先輩が緊張の顔。

「ど、どうだった?」

「椿油作るのに大忙し。それに弁論大会の準備で時間が取れないそうです。会いたいけどゴメンナサイとのことでした。」

「弁論大会にチクシが出るのか・・。」驚いたように、感心したように言葉をしぼり出した。

「病気ですよ。まったく。無鉄砲なんだから・・」

「やっぱり嫌われているのかなあ?」と呟く様はとてもカッコイイ先輩には思えない。ベツジンである。

「今日はお前の部屋で飲ましてくれんか。」

こんなメンドーな先輩の姿は初めて見る。

仕方なく酒を調達して手渡した。

「私は付き合えませんよ。明朝早く、先輩の乗る船への積み込み作業があるんですから。」先輩に対する敬意は変わらないが、落胆の表情を見せる男には強い言葉が出せるものだ。

「ああ。それでもチョットだけ話を聞いてもらいたい気分なんだ・・。」メンドーは続くものなのだ。


「俺の出自を聞いて驚いたか?」

「敵国ヤマタイに留学するなんてたいした度胸ですね。万一の時は人質扱いでしょうに。」

「そうなったらそうなったで、運命と諦めるさ。俺はここにきて見る目が広がったのを感謝している。特にチクシ出会って、変わった。」

彼女の話がしたいのか?あまり聞きたくはない話だ・・。

先輩は長々と話始めた。

「俺は狗奴国で人間があまり好きではなかった。幼い頃、母を亡くして居心地がいい場所、というものを失った。王子といっても非嫡子の第三王子だからな。生活の不自由はなかったが兄弟の見る目も、家臣の接し方も兄たちとは違うし、楽しい時間などなかった。もがいた末に見つけたのが武術鍛錬だった。時間を潰せるしそれなりの評価をしてくれるからな。ただ、本当に楽しくて武術をやってはいなかった。強さを目指す事でどうにか居場所を確保していただけだからな。そういう点では淋しい人生を送ってきた。だから留学にも応じたとも言えるのだが、ここに来て初めて生きる面白さを味わうことができた。井の中の蛙大海を知らずと荘子の言葉がある。イミは違うが井の中の鬱屈した蛙も大海を知れば面白さに目覚める事が出来るのだ。その大海とは徐先生の講義とチクシだな。チクシとはあまり話すこともなく、ただ彼女の言動を観るだけだったがアイツは面白い。アレコレ手を出して最初は自己顕示欲の強い奴と思っていたが何か違うのだ。」

「それは買い被りじゃないですか」

「そうかもしれん。しかし一見、欲だらけの人間のようであんまり欲がない。普通、人間は良い言葉を並べても最終的には己が利益を目的に生きている。だがあいつは自分を手段として捉えているじゃないかと思われるフシがあるのだ。自分を目的にせず、何かの手段として生きる事は面白いぞ。チクシはその何かが、定まっていないのでアレコレ手を出すんだろうが、これから何をやりだすのか最後まで見てみたいと思わせられる。」

「その評価は、思い入れが強すぎるだけじゃあないんですかね。それ程の奴じゃないと・・」

「イヤ、青臭いことを言うようだが、俺はだから、自分を手段にする事に決めた。この倭国、お前等やチクシのいるこの国を守る手段として自分があるのだ・・とな。」

「先輩こそ大したもんですよ。と思いますけど。・・」と慰めると先輩も落ち着いたらしく「ちょっと飲み過ぎたか。寝るとするか。」と応じて、眠りに着いてくれた。


トシは寝床に入って自分の事を思い返していた。先輩と同じくここに来るまで、必ずしも楽しい人生ではなかった。

年少の頃まではヤマタイ本部にも近い久保泉の祖母のいる実家に家族と共に住んでいた。書記官の父の転勤により父母は日向の国に赴任して行った。最初は一―二年の予定での赴任だったが結局は長引き、今でもその地に住むことになっている。

数年は祖母の手で育てられ、ばあちゃんっ子になったわけだが十歳を超えると父母にいる日向に同居する事になった。

ところが言葉も微妙に違い、腕っぷしも弱いとあって悪童からは仲間はずれ。イジメから逃げるだけで精一杯の自分の姿が情けない。

悪童の中にも序列があって、下位の者は卑屈に上位のご機嫌取り。

それを「何だ」と思う自分にしたって同類だ。弱い者がイジメを受けても見て見ぬふり。その者がいれば自分が助かると安堵する己に自己嫌悪する。

人間は性悪だと自分も含めて好きになれなかった。父の蔵書に出て来る仁義礼智信、忠孝の文字が白々しく感じられる毎日。

今からおもうとイジメというより悪ふざけなのかもしれないが受ける側からすればイジメ以外のなにものでもない。

親にはヤマタイ恋しとだけ理由を告げたが、うすうす判っていたのか祖母のもとに帰されることになった。落ちこぼれ気分の毎日だったが、この逆境をハネ返すには引き込もっているだけで何もしないという訳にはいかない 

勉学に向かうしかないと猛勉強して一大率学園の入学試験に合格。入学して久し振りに生きる事が面白く感じられるようになった。それはチクシと会ってから。生きてればこんな奴とも出会える。その面白さ、加えてケンとの交友。なんだ、先輩と一緒なのだ・・。

眠りに落ちながらケンとチクシとの出会いの場面を思い浮かべていた。


入学ガイダンスの時、たまたま隣席にいたのがケンだった。周り、初めて見る顔ばかりで、緊張の時。トシのお腹からグーッと音が出た。新しい環境で、今朝の食事が咽喉を通らない。気持ちはイッパイ、イッパイ。胃腸は空腹だったのだ。

ヤバイ!感づかれたかと、隣の学生の顔を窺う瞬間、その学生が、今度はブー。例の匂いが漂う。

お互い顔を見合わせて「音鳴り同士だね」と笑ったのがケンとの出会いだ。

入学から数か月。新入生は志摩地区の二見が浦へ親睦遠足した。夫婦岩と言われる男岩、女岩が形よく並んで海に浮かぶ景勝地である。ケンと二人、どこまでも青い玄界灘を、胸に吸い込み、解放感にひたっていると、近づいてくる巫女学コースの女性がいた。

「あなた、書記官コースの人でしょ。漢字を習っているのなら、中国に関心を持つべきよ。」と声を掛けてくる。それが中国研究会、チクシとの出会いだ。

その時の研究会は部長が先輩のキクチヒコ。美男子目当ての巫女達が多数、入部していた。

ところが先輩は女と手加減せず、難しい研究課題を課して厳しく指導。一人減り、二人減りでクラブ存亡の危機に立たされていた。チクシが勧誘活動を命じられていたのだ。

「あなた、やれそうな顔してるじゃない。」と軽口をたたく。

それだけではない。

あろうことか、トシの額にデコポンをする挑発女だった。

小馬鹿にしたような言動に一瞬ムッとしたが、相手は仕草全体、顔の表情で、こちらにに対する、興味深々、好意を伝えて来ている。

惹きつけるパワーを感じる。・・よく見れば、ソコソコ可愛い女性である。

ここで断れば、逆にそのまま見下される気がしてこの挑戦を承諾する事にした。

受験勉強の時に父の中国の書籍を読んで、少しは知識がある。入部してから見返してやろう。

傍らのケンにも誘いの手が。「うちのクラブ、女の子一杯よ。あなたも、どお?」

ケンが首肯したのは言うまでもない。入部してみれば女性はチクシだけだったのだが・・。ケンは「そうやな。将来、韓半島行の船長を勤める事になるなら他国の情報も少しは知っとく必要あるな。」勉強嫌いから意外な言葉が漏れ出た。


翌日、先輩は見事復活し、凛々(りり)しい姿を取り戻した。先輩が書記官室で狗邪韓国長官宛ての書簡を受け取った時、トシとケンは積み込み作業に従事していた。米などの穀類、麻の布、ヤマタイ特産の絹を運んでいた。

昼には出航準備が整い、最後の船に高価な勾玉、管玉等、大将の工房で作られたかもしれないアクセサリー類が積まれ、先輩もその船に乗り込んだ。

我々が手を振り見送るのに、直立不動の姿勢で応える先輩。

学舎に戻ろうと振り返ると高台の校舎に領巾(ひれ)を振り続ける乙女の姿・・涙ぐむミクモ姫を見ることになるとは・・・。

「やれやれ。先輩も罪なことを。お似合いなのになあ。」

ケンが同情を口にしたが、そんな姫はその時だけ。

その後はいつものおすましや。いや、より高貴に、気高く、気丈な美少女になった。相変わらず笑う事も少ないが、トシとケンだけには微笑と共に会釈するので周囲の男子学生から訝られたものだった。 


授業が終って中国研究会の部室。と言っても中国の書物がおいてある図書室なのだが、部屋を開けると、チクシが机の上に木簡を綴った書籍を置いたまま、何やら想いに耽っている。

トシが入って来たのを見咎めると駆け寄って早口にまくしたてた。「二週間後の弁論大会。あたしエントリーしてるでしょ。だから相談。あたしはそこで夢を語る。そして実行を宣言するの。」

「ああ。」何を言い出すのか見当つかないので、曖昧に相槌を打つ。

「でも実現の方法や組み立ては不得手なのよ。だから教えてよ。あたしは将来、施薬院を作りたいの。皆に医療を施し、病を治す研究をする所。安心して暮らせる新しい制度を創りたいの。どしたら出来るかなあ。」

「施療院だって、お前自身に何か出来る事あるのか?」

「失礼ね。巫女学では薬学を学ぶのよ。クスリは私たちの商売道具。それにあたしには少しだけど超能力があるの。気功術でね。病気を診断するのに、気の流で体の悪い所がわかるんよ。クスリが効かない場合でも気のパワーを当てれば、楽になったり完治する例も多いのよ。」

当時、医療は巫女か祈祷師や呪術師など、シャーマンの領域だった。薬草とその調合の知識を持ち、神や祖先のパワーを加えて病を癒す。勿論小さな傷や病気は各人が周辺の雑草を利用して手当する。例えばケガにはドクダミを擦り込むなど。しかし、治りが遅いと専門家に頼まねばならない。それなりの金銭や品物を用意せねばならず裕福な家でなければそれらの医療を受けることはできなかった。その医療を一般家庭でも受けれるようにするのが施療院制度だ。その金を誰が出すのか。

「金の掛かる話だな。国の金を使うとなればどの国王もいい顔はしない。国の金を増やすには農業振興で収穫を増やすか交易で儲けるか。時間もかかる。」

「お金が出来てからやるってのはダメよ。お金が出来たら、皆、他の事に使っちゃうでしょ。こんな話はいつも後回しになるに決まっているわ。」

「うーん。それならヤマタイ国を統一国家にして国の規模を大きくする。他の倭国と併せて大国になる。統一すれば各国の個別の予算とは別に全体の予算が持てる。それで大がかりな公共工事も軍事力も強化できる。施療院だって各国に全てとはいかなくても一つ一つなら作れるかもしれない。そこの研究所で各国の医薬情報をまとめて一番効く薬を開発するのも良いな。それを売って儲ければ、その金を施療院の運営費の足しする事もできるだろう。外国にも売れればもっと儲かる。」

先輩の統一国家論を拝借して、それに味付けしてみた。

「おーっ。良いじゃない。明日にでも統一国家にすればいいわ。」

「ところがそう簡単には行かない。統一国家にすれば各国の国王・高官はリストラされちゃうからね。金をこれまでのように自分達の自由に出来ないとなると、抵抗勢力として反対するに決まっている。結局ムリってことかな。やっぱし。」伊支馬のコメントも利用した。

「何よ、それは。結論がムリなら聞かない方が良かった。役立たずね。・・とは言うものの、情報を集めて新薬を作り販売して儲けるってのは・・使えるわね。巫女学に学ぶ女性は各国から来ている。皆が薬効のある木や草を持ち寄って、付属の薬園に植えれば何か発見出来るかもね。」

チクシの機嫌が悪くないのをみて、先程聞いた気になる言葉を質問してみた。

「超能力って、お前にクスリを超える力があるのか?」

「ウソと思うなら試してみる?」

弁論大会が終ったら、お祭り、それが終れば昇級試験だ。優秀な成績で卒業出来るかが自分の将来を決定する。トシは考える事は得意だったが、覚えるのは苦手だった。

「なんなら、あたしのパワーで誰かさんのオムツを良くしてあげても良くってよ・・・」

「カミサマにお願いするしかないと思ったら誰かさんに頼む事にするよ。」


 弁論大会当日になった。

最後の弁士としてチクシが登場。初の女性弁士とあって興味本位の視線を集め、会場はザワついていた。

壇上に立ったその時。ドーン!と大きな音が室内に響き、講堂が静まり返った。すかさず「諸君!」とチクシのメいっぱいに振り絞った声が講堂を包む。

「あいつ、考えたな・・」

聴衆の耳目を集めるためにこぶしで壇の机を思い切り叩いたのだ。大声を出したのも、恥じらいを捨て、背水の陣を敷くことでシドロモドロになるのを避ける一手でもある。

 「告白しよう」「あたしの中に善人と悪人がいることを」「よからぬ事を考え利己的になる自分が居り、良いことを考え人に尽くしたいと思う自分が居る」「あたしの中に善人と悪人が戦う土俵がある」「肝心な試合では」「自分の善人の勝利を信じたい」「心の眼で善悪を判断」「その為に日頃から学びを積み重ねて来た」「だから負けずに」「負けそうになっても」「ウッチャリ!」と相撲の身振りのパフォーマンス。「自分の中の正義を手に進もう」「あたし達は若い」「だから前に進もう」「私達人間は、人間になろうとする志があれば希望の未来があります。」「黙っていれば善からぬ事を考えるもある。だからこそ、志を高く掲げて。」「後退より前進、現状維持より改革で倭国の未来に夢を創ろう」・・・

「あたしの夢は施療院。誰でも薬や治療を受けられる、そんな施設を作る事」・・

「此処に居る皆が卒業し、それぞれの国に帰るでしょう。そして将来皆が、それぞれの国を動かして力合わせれば、より良い社会を実現できます」「あたしは決してうずくまらない。そして夢を実現します。だから皆さん、あたしの夢に協力願います・・」

弁論が終ると予想以上の拍手が起きた。内容より「見世物」としての要素が強かったかもしれないが、弁士の中で最高得点となり大会優勝者になった。

後日談だがその後、巫女学の教室でホームルームが開かれ、各人が郷里に帰り学園に戻る時には、薬効ある、その地の植物を持ち寄ることが決議された。

「良かったじゃないか。おめでとう。」

「お蔭様で有難う。」部室に戻りお祝いを述べるとチクシも興奮さめやらぬ様子。

「まだドキドキしてるわ。ここが。見て。」

チクシ、小柄だが胸はボリュームがある。見てと言われて、まじかに寄って見るわけにもいかない。ただ、胸の鼓動は伝わってくる気がした。 


弁論大会が終わるともう十月半ば。穀物の収穫作業を手伝う。春の田起し、田植えと並び農業実地研修のカリキュラムが組まれている。それに並行して伊都国挙げての収穫大祭の準備がある。伊都国の守り神、高祖(たかす)神社の境内で様々な催しが行われ、神へ奉納する行事が行われるのだ。

学園の学生も、男子は朝の奉納相撲、昼は伊都国一周マラソンに参加。女子は舞踊で参加し、伊都国の祭りの盛り上げに一役かうのが慣例になっている。

学園でもマラソンや相撲の練習時間が多くなった。軍事訓練を兼ねているのでどうしても武人コースの学生が有利だ。運動オンチのトシには辛いがケンにとっては脚光を浴びる季節である。相撲、マラソン共に優勝候補の一人になっている。

今日は男子の授業は中止、マラソンの予行演習がある日だったが生憎の雨が降り始め、道がぬかるんだことから、自習時間に切り替わった。

誰かが、男全員が集まっていることで「美人投票をやろうぜ」と言い始めた。巫女学部の女子六十人ばかりの中からミス一大率を決めるのだ。

美人と目されるのは五―六人。トシの公正な判断ではチクシは投票対象かどうかのボーダーラインあたり。勿論、ぶっちぎりの大本命はミクモ姫で間違いない。二位との差がどれくらいつくかが見ものとトシは考えた。

トシは個人的にはチクシに投票したかったがビジンという選考基準に照らして姫に投じた。

縁起でもない事を言えば死人に美女ナシという。が、トシの公正な判断は、姫なら死しても美女の可能性があると判定していた。

使い古しの竹簡の投票札が集まり、言いだしっぺの学生が読み上げる。

ミクモ姫、ミクモ姫、チクシ・・おっ。誰かが投票している。

「お前に投票する奴がいたよ」とからかいネタが出来たと思った。

が、どうした事かチクシ票が続く。最後まで、その二人が二分する形で接戦が続いた。

結果は、僅かの差でチクシが一位に。

美人投票は、客観的美人度をはかるものではない事を知らされた。弁論大会でのパフォーマンスで知名度が上がったのが、人気投票の形で反映されたのだ。

傍らのケンに「美人を決めるのに姫じゃないんだ」というと「俺もチクシに入れたよ。お前は・・」裏切り者を見る目でトシを睨む。苦笑いするしかない。

この結果はチクシには言わなかった。

皆、チクシのブス顔を知らないんだ。愛想を振りまく表情と、機嫌悪しの時の顔、この二つの顔は真逆であることを・・・。


祭りの日。奉納相撲が始まった。ケンはシードされ、トシは一回戦から。ケンの指導で脇を締めることを覚えさせられた。

一回戦。言われたように胸にぶつかると相手の上体が崩れて伸びあがる。当時、明確な土俵は無く、観客の座っているところが土俵みたいな扱い。基本的に相手を地面に転がすか、手や体を地に触れさせなければならない。更に押し込んで相手がこらえる所に、外掛けを見舞って倒す事が出来た。一勝したので、もういいやと思った二回戦、ギャラリーが増えて中にチクシが居るのが見えた。

ここで勝てればと思うと体が硬くなり立ち会い不発、四つに組む事になった。しかし、相手の体重が重く徐々に不利な体勢に・・このままでは負けると、一か八かの足取りを試みると、不意を突かれた相手がバランス崩して二勝目。きれいな勝ちではないがチクシの応援に応えられた。

三回戦は諦めるしかない。師匠のケン、初戦相手がトシになったのである。あっと言う間に地面に叩きのめされた。

学生相撲決勝戦は前評判通りケンとウサツヒコ。体格はウサの方が優る。しかしケンの筋力が技能賞の投げを呼んで、熱戦を制した。

そして黒山の人だかりの中、最後の試合。伊都国社会人チャンピョンと学生チャンピョンの最終決戦と相成る。ここでもケンが見事勝利。ケンの父も塩ジィも誇らしげに久米一族のヒーローが賞品の新米一俵を持ち上げるのを眺めていた。

マラソンは番狂わせが起きた。こちらもケンが最有力視されていたが、用意ドン、と同時に、最後方からスタートした人影が風のように皆を抜き去った。中国研究会新入部員のキジが大会新を大幅に短縮するタイムで優勝したのである。


祭りは夕方からの舞踊の時間帯に入って一層盛り上がる。その前に高祖神社と国王の祖先を祀る細石神社を神輿が往復する儀式が行われた。伊都国王爾支が祖先と伊都国の守り神に対し豊作御礼の儀式を済ませると、いよいよ祭り本番。国王の大盤振舞で御馳走と酒が居並ぶ群衆に与えられた。

塩ジィ達、久米の海人族が朝釣ってきたばかりの魚を焼いている。栄誉を手にしたケンとキジの前には大きな目出鯛がデーンと置かれた。チクシの出る巫女達の舞を見ながら、美味しい時が流れて行く。

ミクモ姫が化粧をして舞台に立つと歓声が巻き起こり、その美しさを見てアチコチからため息がもれだした。先輩に披露したあの舞姿である。多分、今、美人投票が行われれば、きっと違った結果になっただろう。

華やかな舞が終り、変わって芝居が始まる。ひょっとこ面、鬼の顔したべしみ面、翁面にお多福面、入り乱れての演技に、笑いの混じったざわめきが最高潮に達し、総踊りと言われる全員参加の踊りでフィナーレを迎えた。


祭りが終れば山の木々の色付きも鮮やかに変化、学生の目の色も変わる季節となる。来春には昇級試験が待っている。落第すれば放校の憂き目。

初級、中級はそれほどうるさくないが、三年生にとって今回は大事な上級の卒業試験。この試験での成績により士官が叶うかが決まる。特に通訳志願のトシにとっては上位合格が必須要件になる。

貴人の子弟なら卒業しさえすれば、その後の人生に大きな差はないが、トシの家柄ではそうはいかない。将来の全てが、成績如何にかかっているのだ。

ケンは武人コースにつき、相撲優勝で上位合格を手にしたも同然。余裕たっぷりで遊びに誘って来るが、あいつとは置かれた立場が違うのだ。

学業に専念する前にトシにはしなければならない約束事があった。玉造の大将のところで手伝いする事だ。

トシは前もってアクセサリー店を回ってどのくらいの値段のモノなのか調べることにした。が、あのヒスイという石の飾り物は何処にも置いてない。

「ヒスイの勾玉は?」と聞くと「金はあるのか」と庶民の服を着たトシを胡散臭く見る。或いは「あるよ、これだ。」とどう見てもマガイモノを勧められる。

それでも目の玉飛び出る値段を吹っ掛けて来るのだ。どうやら大将にはとんでもない依頼をしてしまったようだ。


「おう、来たか。」大将が招き入れてくれた。

「これがお前の石だ。」割られた原石に深緑の高貴な色合いがのぞいている。一目でまぎれなく高級品である事が判った。

何と言おうか・・と、トシが押し黙っているのを見て「何か不足か。」と怖い顔になる大将。

「いや素敵です。素敵すぎて・・こんな高価なもの譲っていただいて・・ホントに良いんですか?」恐る恐る口を動かすと大将は大笑いした。

「値段付けたらお前の一生分の俸給を貯めても買えないシロモノだ。書記官ふぜいが持つモノとは違う。」

塩ジィからこちらの素性を聞いているらしい。

「いいんだよ。塩ジィには大変な世話になっている。女でトラブッて危うく殺されかけた時、命張って助けてくれたのがあの人なんだ。命の恩人が初めて口にする頼みとあっちゃ、こっちかお願いしてでも引き受けなきゃ男がすたる。」

「・・・。」

「いいんだよ。」酒に手を伸ばしながら大将が言った。

「塩ジィが何故、お前をヒイキにしてるか知っているか?」

「は?」大将は何かを自分に伝えようとしている。

「お前の顔だよ。あの人の死んだ一人息子にソックリなんだ。海人族のイレズミがあったらな。」

恋女房に先立たれ一人息子も亡くなっている事は聞いていた。塩ジィが家族に恵まれない独身生活なのは知っていたが・・。

「あの人はイカつい体で、肝っ玉も据わっている。だが息子は母似の優男で海の男とは違っていた。人に頼まれたら断れないタチでな。波の荒い日に火急の依頼があって、無理に船を出したのが運命になった。難破して船もろとも沈んでしまった。舟板一枚、下は地獄というからな・・。」

「そうだったんですか。」

「ま、そう云うことで、この石はお前のもん。その代り塩ジィを半分親と思って接してくれよ。」

そういえば塩ジィに他人と思えない視線を感じることがあった。


大将は酒好きを自慢するだけあってグイグイ飲み干していく。酔ったところで石談義が始まった。こちらは相槌を打つだけ。独壇場のおしゃべりが始まる。

「この石が採れたのは越の国。昔その地にヌナカワという姫が居た。磨いた石をジャラジャラすると、男という男が言い寄ったという。もともと美人なのだが石にも魅力があったんだろう。それで石の採れる川を名づけて姫川という。石は濁流に流され山から川下に流される。その間に砕かれ丸くなる。殆どが普通の白い丸石だが、中に飛び切りのこんなもんが混じっているんだ。」

「俺はね。偶然が好きだね。石がそこに在るのも、拾われるのも偶然。それがたまたま俺の元に来て俺が磨く。偶然が重なり、輝く石が表に出て来る。その瞬間がたまらネエ。偶然が必然の出会いになる瞬間だ。」

「なあ。女もそうだろ。偶然に出会った男女がホントに好き合えば必然の出会いに変わる。その瞬間は宝だね。その為にいままで生きて来た、としか思えねェ瞬間が。」

「俺はどうしようもない奴だがその宝を手に出来る幸せ者。神様に感謝しなきゃ・・ウィー。」

オット。酔いつぶれる前に言わなきゃ。「何を手伝えばいいのですか?」

「冗談じゃない。人に手伝わせるには惜しい石だ。俺がゆっくり一人で仕上げる。お前は試験があるんだろ。合格したら取りにきな。今日はもう寝る。帰れ、帰れ。」追い出されてしまった。


その後、十一月半ばからは受験勉強一筋の毎日になる。海も荒れることから韓からの鉄の入荷も少なく農作業の手伝いもない。

ただ、トシはその時、プレッシャーに苦しんでいた。漢文字、文書作成、中国語の発音、会話。倭国語と殆ど変らない弁辰語ですら上位合格の水準を満たしているかさえ自信がない。

将来は通訳を目指したいと先輩には語ったものの今のままでは大ぼら吹きになってしまう。

荷札を書き、積荷のチェックをするだけの書記官ではエリートコースに乗るだろうケンとも対等に付き合えなくなる恐れがある。不安がよぎると、なおさら書籍の字面を目で追っても頭に入って来ない。

昼休み。部室に一人、参考となる蔵書を探して書庫を眺めていると、ワッと突然、背中を押す者がいる。チクシだった。

「どしたん。浮かない顔をして・・」

「久ぶりだな。お前こそどうしたんだ。」

「巫女学漬けに飽き飽きしてね。誰かと話せればと、まかりこしたでござる。」

「うん。勉強に疲れた。俺も気分転換に本探しに来たんだ。」

「はー。さては自信を喪失しておるな。よーし、あたしの超能力を必要とする日が参りましたな・・」

「ハンドパワーで頭が良くなり試験合格ならいうことない。けどお前はどうだ。自分にパワー注入してみたのか?」

「ザンネン。自分には効かないのよ、これが。邪念が入ると単なるマジナイになってしまうの。自分の患った風邪なんかは治せるけど・・。」

「俺に掛けてもマジナイでしかないと思うけどなあ。もっとも今から授業あるから明日にしてくれよ。休みだから・・」

「明日?明日か。いっそ伽耶山に行ってみない?ハイキング。自然の中でパワー掛けると効果抜群よ。約束したからね。」といそいそ去って行った。


翌日は快晴で、暑くも、そんなに寒くもない絶好のハイキング日和になった。竹筒に水を入れ、オニギリ一個調達して待ち合わせの志登の常夜灯に行く。途中、支石(しせき)()と言われる先祖の墓が並んでいる台地があったが、この支石墓はトシの実家がある川久保にもあるものだった。この地と邪馬台国は以前から関係があったのだろうか?・・と思いながら先を急いだ。

陽の光がふりそそぐと、(なぎ)の海は抜けるように青い。灯台からは今津湾、加布里湾、右も左も波が光を吸ってキラキラ反射している。

勉強を休んで一日ムダに費やしたとしても、最高の気分転換にはなりそう。イヤ、これは初の二人だけのデートだ。こそばゆいような幸福感がキラめく波と重なり合った。

「お待たせ。腕にヨリかけて弁当作ったからね。一緒に食べよ。」クリクリのどんぐり眼のチクシが息せききって現れた。

泊の漁港を廻って左手に見える伽耶山に向かう。歩くと、見る角度で山の形が変化していく。時に三角形で稜線広がる形良い山になった。途中、泉川という小さな川を丸木橋でわたる。

川の中のつがいの白鷺が、互いを見つめ合うように、脚を止めてたたずんでいる。あまりにじっとしているので、その間、時間が止まっているように感じられた。仲良しである事を確認しあっているような微笑ましい姿、川面のきらめきと共に美しい。

それから、けもの道の登山道に入ると、トシは倒木の枝で手頃なものを拾って杖とした。山には鹿、猿、猪などが生息しており危険な猪に対抗する武器にもなる。

「ほら、見て。ここには椿が多く植わっているのよ。」初秋に、ここの椿の実から油を搾ったそうだ。

その油を整髪料としてチクシ自身、使っていると見え、風が吹くとチクシから良い香りが漂う。この油は食用にも灯にも刀剣の砥油にも木製品のツヤ出しにも使われる。高級品だけに、普通は他の植物油を使う方が多いが・・。

「この葉っぱは止血剤にもなるのよ。」

「さすが薬学は合格点だな。」

「年明けて試験の頃には赤い花が咲き乱れて、きれいでしょうね」

「ああ。」

「でも椿の花になっちゃダメよ。ポトリと落ちちゃ。」チクシがわざとらしく逃げる。

「それを言うために・・。気にしていることを。」トシもわざとらしく追いかけて上に登った。

頂上には心地よい風が吹いていた。

眺望も良し。遠い末盧(まつろ)(こく)が近くに見える。その北には()()国らしい島が海原に横たわっていた。

「あれが一支国なら、見えないけど、向うの方が対馬(つしま)(こく)、その向こうに()()韓国(かんこく)があるんだなあ。」水平線を指差した

。狗邪韓国にいる先輩を思い、今チクシと居る事に対し少しだけ負い目に感じる。

「あっ。トンビ」青い天空に円を描いて滑空している。

「あたし、生まれ変わったら鳥になって大地を上から見てみたい。」

「「いいね。でもトンビは下界の野鼠を狙ってクルリと旋回しているんだぜ。あるいはこの弁当を狙っているかも。ノンキに大地を眺めてないさ。」

「じゃあ、さっきの白鷺がいい。」先程の、川に白鷺が羽を休めていたのを思い出す。

「サギだって小魚、虫を探してる。」

「つまらない言い方ね。」ムカついた表情をする。ホントつまらない言い方だった。

「ゴメン。俺も生まれ変わったら白鷺になるから彼等みたいに仲良しでいこうぜ。」

「そうね。食事にしますか。トンビにさらわれないように気を付けて。」と他愛ない会話が続いた。

本当に白鷺になって二人で生きていけたら・・チクシの顔を見ながらホントに思った。

「あーあ。気持ち良い。」食事の後、大の字になりチクシが草叢に寝転がった。

「あの雲カッコイイー」屈託のないその笑顔になぜか自分の娘のような愛おしさを感じる。食事の時には母親のように世話を焼いていた。それが・・今は娘になるのか。

トシもマネして大の字になった時、柔らかく、吸い付くような温かさが手の甲に触れた。

何が起きたのか確かめようとした時、チクシは何事もなかったように起き上がり「トシはこの春、何になるの?」と問うて来た。

何の根拠もないが、さっきの柔らかな感触、あれは唇ではなかったか?問いただすわけにもいかず、しかし根拠のない幸福感に包まれる自分が感じられる。これは妄想というものなのか?

「書記官になるさ。出来たら通訳になれる一大率外交部の仕事に就きたい。」

「おー。通訳?中国に行ったら死んだ孔明には会えないでしょうけど、司馬懿(しばい)くらいには会えるかもヨ。」

まさか中国など。

「まさか。帯方郡は公孫が握っているだぜ。」

「魏が帯方郡を取り戻したら洛陽に行けるかもよ」

「その場合でも帯方郡どまりだよ。それに司馬懿は高齢だ。もうとっくに死んでいる可能性が高いし生きていたとしても倭国の使いに興味は持たないよ。」

「何か、まともに答えるのね。夢はデッカく。」

「そうだな。」単に通訳になりたいと言っただけなのに、こいつにかかると司馬懿と会う事になっている。勝手に人の夢をふくらませる奴なのだ。

勝手なおしゃべりが続く。「あなたとあたしは同志ね。あたしも夢は実現させる。」「

「施療院の話?」

「あたしが卑弥呼だったらすぐに計画を実行に移すわ。マイゴッドがそうしろと言ってるの」

マイゴッドとはチクシが良く使う言葉。

いつもは間食をたしなめた時に、マイゴッドが食べろと言ってるの、という使い方をするのだが、今のは少々真剣味が漂っていた。

「そしてあたしは華佗(かだ)になる。女華佗に。」

華佗は中国の名医。飛躍の程度が尋常ではない奴だ。バカな妹のような奴である。

飛躍を封印する為「お前が言ってた、超能力とやらを試してくれよ。」と話を変える事にした。

「今日のメインエベント、目的はそれだったわね。」

トシを座らせてチクシは気を操り始めた。頭の両側に手を広げ何やら念じている風だ。

「気って何だ?」

「「目に見えないエネルギーよ」

「目に見えない?」

「目に見えるモノが物質とすれば、物質を支えるもっとちいさなエネルギー、物質になる手前のエネルギー、そのもの自体では物質にはなれないエネルギー、或いは物質を取り込み別次元に送り込むエネルギーよ」

「何だそれ」

「気にも色々あるってことよ。あなたに送り込むのは少なくともプラスになるエネルギーだから心配しないで。」手をかざすのはヒーリング効果を生み出す、気の注入技法なのだそうだ。

「感じるわね。ほうら、動き始めたわよ。脳が温かくなってきたでしょ。」

確かに暗示に掛かった様に頭が温かくなった気がするが、暗示に掛けてるだけではないのか?

「ホントかよ。大事な脳ミソ、ゆで卵のようにするなよ。」

「大丈夫。目をつむって・・」二十分近くそうしていたのだろうか?

「はい。終わりました。」異様に優しい声で目を開けた。

前より冴えわたる感じだが、それが超能力によるものか、瞑想のお蔭か、好天に恵まれた絶景に心を洗われたせいなのか。

「有難う。何か頭が生き返ったようだ。」

「これから迷うような事があれば、心の眼で自分の志を見つめる事ね」

そう言えば、チクシは弁論大会で志の大切さを強調していた。自分の将来を有利に導く為に頑張るのではなく、この倭国を良い国にするために、それが出来る地位を目指す。その為に頑張る気構えで試験に立ち向かおう。俺は志があるとはいえない生き方をしていた。チクシは志があるように俺を買い被ってくれている。それに乗っかり、志の高い人間と自分に暗示をかけてみよう。と思うと何か吹っ切れた感覚になる。

チクシは続けて、ヘンな事も言い添えた

「あなたに気を入れてわかったことがあるわ。あなたの守護霊は猿よ。覚えていてね。」

トシのこれまでの人生。猿と関わったことはない。

「あなたの未来に猿が大事なものをもたらす。と出てるわ。」

今度は占いか。それでも信じる者は救われる。

帰途の道、岩からしみ出した水飲場に寄った。この自然の水は井戸水より美味しい気がする。顔を洗って水しぶきを散らすと小さな虹が出た。これは吉兆?いずれにしろこの時の思い出はトシの宝箱にキッチリしまわれた。


突然の場面転換。トシとチクシが寮に戻る丁度その頃。物語の場面は遠く離れ、洛陽は宮廷の謁見の間に移る。


魏の皇帝曹叡(そうえい)将軍司()()()と向き合って、話をしていた。

司馬懿は生きていたのである。曹叡は三十三歳。床に着くほど長い髪を垂らしたイケメン皇帝。司馬懿は当時老齢とされた五十八歳。こちらは長い(あご)(ひげ)を蓄え、眼光鋭く油断の無い目つきで皇帝と対面している。

「そそ、そなたを都に呼び戻したのは他でもない。公孫淵の件だ。」曹叡には少しどもるクセがあった。

「淵が母丘倹を退け、燕王として独立宣言したことですな。」

「母丘倹は淵を、チト甘く見過ぎておった。が、こうなった以上是が非でも淵を討伐せねばならん。それが出来んようでは呉や蜀に侮られ、引いては国も危うくする事になる。そ、その方、何とかこれを解決してはくれまいか。」

「たってのご指名とあらば、否は御座いませぬ。老体に鞭打ち、淵のクビを獲ってまいりましょう。ただ、確実に淵を打つには四万の兵と持久戦に備える軍糧が必要になりますが、宜しいですかな。」

「よ、よ、よ、四万!」

「公孫だけが敵ならもっと少なく済みましょう。しかし、周辺の呉など侵攻の機を窺う敵国の存在を忘れてはなりません。軍兵をケチれば思わぬリスクに直面する事にもなりましょう。また、四万の兵をもってしても、戦いのことですから場合によって互角に近い戦いになる事も考えられます。しかし、たとえ持久戦になったとしてもその内容が問題です。こちらが優勢で万全の戦をしていれば、例え一見膠着(こうちゃく)しているように見えても迂闊(うかつ)に手を出すことはありますまい。呉や蜀にスキを狙われる事も無くなるわけです。四万はその為に必要な兵力と申し上げておるのです。」

「な、成程な。それでは四万を都合するゆえ右北平に駐屯する母丘倹と合流し、淵を打ち取れ。」

結論は出たが曹叡はなお司馬懿に尋ねた。「我らの動きに対し、淵はどういう策で応じるだろうか?」

「三つの策が御座いましょう。まずは公孫が本拠地、(じょう)(へい)を逃げ出し、我等を領内深く誘い込みゲリラ戦を挑む。これが上策。次に遼隧(りょうずい)塹壕(ざんごう)を掘り、守りを固めて迎え撃つのが中策。襄平に立て籠もる籠城戦(ろうじょうせん)は下策。彼等に悲惨な運命が待ち受けましょう。」フムと耳をそばだてて聞く曹叡に更に説明を加えた。

「淵が優れた者であれば状況に応じて、プライドを捨て、本拠地を放棄する思い切った策も取りましょう。しかし、淵は呉と魏を天秤にかけ、大国を手玉に取ったつもりでつけ上がっている勘違い野郎です。自分勝手に年号を紹漢(しょうかん)と改め、百官を置いて皇帝のマネ事をする者が、本拠地を捨て逃げ出すという芸当をやるとはとても思いませぬ。」

「で、あろうな。」

「遠征軍は食糧不足に陥るのが常と思い込んでいると推察します、持久戦は取れまいとタカをくくる筈。まず、遼隧の防衛戦で迎え、戦況により襄平に立て籠もる・・中・下策を採るのがオチです。」

「討伐軍が出発して帰還するまで幾日かかるかな?」

「往くに百日、帰りに百日、戦闘に百日。休息日六十日と勘定して、丸一年あれば十分かと・・」

「判った。」納得の表情を浮かべた。

「そ、それからそなたに頼みたいことがある。駐留する母丘倹(かんきゅう)の事だ。実戦経験なしに送り出した私の落ち度もある。あやつを副将として鍛えてはくれぬか。奴とは幼馴染の仲だからのう。」と付け加えた。

「承りました。但し、恐れながら私めからも注文したき儀がありますが宜しゅうございますか?」

「は、話してみよ。」

「宮殿の造営工事のことで御座います。今回は遠征ゆえ戦費も嵩みます。暫くは中止して今の緊急事態を乗り切ってもらいとう存じます。」

当時の魏の都、洛陽では宮殿の大規模造営工事が行なわれ、人民はその負担にあえぎ苦しんでいた。

蜀の孔明が存命中の頃、魏・呉・蜀が激しく抗争を続けていた頃はテキパキ物事を判断し、賢明・果敢と称賛されていた皇帝だが、孔明亡き後は緊張が解けてか人が変わったように宮殿オタクと化していた。

「大臣連中も今のように造営工事を進めながらでは、新たに戦費支出する事には反対を唱えましょう。だからといって、その為に戦費を削って公孫討伐に向かわざるを得ないとなれば結果的に国を滅ぼす事にもなりますぞ。」

「そなたの心配は分かった。兵力と持久戦に備える食料。削ることは無い。心配いたすな。」

その後、朝廷に於いて公孫討伐とその戦費に関して正式に討議が行われた。

その席で大臣達は「四万の軍勢は多すぎる」「戦費を賄うのは困難」と反対論を合唱した。

司馬懿との約束をホゴに出来ない曹叡は仕方なしに一喝。「戦費を削ることはまかりならん」と強引に計画を承認させるしかなかった。かくして年明け早々の出兵が決定。遼東情勢は再び緊迫化を迎えることになったのである。


238年正月。司馬懿は将軍牛(ぎゅう)(きん)胡遵(こじゅん)ら騎兵・歩兵四万を率い、曹叡自らの見送りを受けて西明門を進発した。司馬懿進軍の知らせはまもなく公孫に届いた。

その知らせを聞いた公孫の対応策。

まず、呉に対してへりくだる「臣」の立場をとり使者を派遣した。呉が魏に対して軍を差し向け公孫を側面支援するよう依頼をかけてきたのだ。

これを受けた呉の孫権。かつて孫権が同盟の証として送った使者を斬り捨て、あろうことかそのクビを魏に贈って裏切った事を思い出した。その公孫がぬけぬけと支援してくれと申し出して来たのである。

怒りが再びこみあげて「使者を殺せ」と指示を出す。

あわてた臣下「いけませぬ。殺して当然の使者ですが、ここは国益を優先するところです。」と諌めた。

使者を手厚くもてなし、奇襲部隊を魏との国境付近に配置する、と公孫に対する支援表明するのです。その後、魏と公孫の戦争が膠着(こうちゃく)した時を待ち、侵攻させればいいのです。と具申した。

孫権は淵を弟と呼ぶ返書をしたためた。「戦況を知らせる便りを待っている。その指示に従うつもりだ。弟とは喜びも悲しみも分かち合い存亡を共にしよう」

「司馬懿は用兵の達人につき向かうところ敵なしだ。弟の事を心配している。用心して戦いに臨まれよ」そこには、心にもない文字が書き連ねてあった。


再び場面は一大率。


トシは書記官コースを首席で卒業が決まった。ここ一年で順位大きくあげたことになる。

あのハンドパワーによるヒーリング効果がもたらしたものなのかは今でも判らない。ただ集中力が増したのは事実だ。

受験当日にチクシが椿を届けて来たのもある。椿の花が椀に水が張られた状態で、浮いていた。

落ちる花が浮くという、冗談なのかマジナイなのか?・・・笑えるシャレで、リラックスして気分よく試験に臨むことが出来た。

首席とあれば一大率外交部の採用試験を受ける事ができる。面接する長官が「おう、あの時の警護役か」と覚えてくれたのも幸いし、採用が決まった。将来、通訳として仕事出来る道筋が開けたのだ。

卒業も進路も決まったからには実家に帰り祖母を喜ばすことができる・・そろそろ土産の勾玉を玉造の大将から譲り受けなければ・・。


今日はトシ、ケン、チクシ、三人の卒業祝いの宴が塩ジィ主催でセッティングされている。

ケンも相撲優勝の冠が効きエリートコースの部署に採用された。一大率監察官として武人のスタートを切る。密輸の摘発の仕事で危険もつきまとう。武力も操船技術も高度なものが要求されることでケンにはうってつけだろう。

チクシの卒業後の進路は聞いてない。通常は巫女の場合、郷里の神社等で神事に携わることになる。それからすれば卑弥呼の館になるだろう。

別れが近いなら何かチクシに言わなければならない。少なくとも未来に関係が途切れないよう、邪馬台国で会えるよう布石を打ちたい。

いずれ外交部の仕事が上手くいき将来を見通せるようになれば正式に申込みが出来るように・・。

宴では酒に弱いトシが攻勢にさらされている。皆から飲み干すはしから祝い酒を継ぎ足されるのだ。一方、ケンとチクシはいける口で杯を重ねてもヘッチャラ。

トシは赤い顔でチクシの隣に移動した。ヒーリングと椿の礼を述べ、進路について聞いてみた。ところがチクシは卑弥呼の館に帰らず一大率学園で修学を続け講師の道を歩むつもりと言う。

学園付属の薬園を充実させ、出来るなら施薬院を一大率から始めるというのだ。すでに学園の内定は取り付け、邪馬台国の実家の了解を取るだけと言った。

そうであるならラッキー。三人共この伊都国・一大率で仕事出来る事になりそうだ。そうなら何時でも会える。今日、あらたまって何か言う必要はなさそうだ。


チクシは近日中に実家に帰る事を口にした。海路にて西方を左回り。有明の海を経由して邪馬台国に戻る予定という。海路は波待ちを含め十日以上かかる事も多かった。トシは一―二日の行程で行ける、山越(やまこえ)で帰る予定だった。

「チクシさん。山越えしませんか。ねぇ、先輩。私達が守っていけば良いじゃありませんか。」横からキジが話に入ってきた。キジも邪馬台国出身。トシの隣村、(きん)(りゅう)に実家がある。トシと一緒に山越え帰省を予定していた。

「三人とも目指すは同じ邪馬台国じゃありませんか。」

それを聞いていた塩ジィも「それなら良いじゃないか。お前達が守れば・・」と勧めた。

チクシは「イヤダァ。山越えは山賊が出るっていうじゃない。トシは優しいのが取り柄だけど頼りないし、山賊がでたら、あたしをほっぽって逃げるんじゃないの?」とからかってきた。

聞き捨てならないその言葉。「そ、そんなことはない。」と言ったものの腕力に自信がある訳ではない。

どう返そうかと言葉を探していると、ケンまで話に加わって来た。

「トシじゃあ、やや不安だがキジは強いよ。体は細身だが意外に強い。同じ武人コースで一緒に訓練したからわかる。俊敏で剣さばきが鋭い。俺だってコイツをスピードに乗らせたら防戦一方に立たされる。なんせあの足の運びだ。マラソン大会で実証された筋肉は相当鍛えているよ。」  

トシはないがしろにされているが、キジにはベタ誉めのコメントをした。

結局、これが効いてチクシは二人の警護役を従えて山越えすることに方針転換とあいなった。


翌日、西市場の玉造工房を訪ねた。大将はあの石を仕上げてくれてるだろうか。挨拶で手渡そうと酒を買い込んできている。

「おう、来たか。これは気が利いている。」

酒壺を渡しながら「試験はお蔭様で・・」とお礼を言いかける。

「おう。聞いたよ。塩ジィがお前とケンの事を自慢タラタラ聞かせてくれた。孝行したな。おまけにお前、首席だっていうじゃないか。俺がすり寄っていくぐらいに出世しろよ。」と肩を、どんと突つかれた。

「ブツは出来てるぜ。ホラ。」

見せられた勾玉は感動モノだった。小ぶりだが中に魂が宿っているかのような凄みがある。品のいいカーブも魅力的だ。

「うわあ。ホントにこれ、貰っていいんですか?」

「いらなきゃやらないさ。」

「俸給の中から少し渡しましょうか。長期ローンで・・悪いですよ。こんな凄い品をタダなんて。」

「払いたきゃ、いっぺんで払ってくれ。出世払いでな。早く大臣クラスにはなってくれよ。」また叩かれた。

「これ、本当にばぁさんにわたすのか?」早くも酒が廻ったのか、大将がからみ顔になってきた。

「ハイ」

「嘘つけ。この玉ならどんな女でも・・。前に言ったよな。どの惚れ薬もかなわない。最強の武器を、ばあ様の冥途ののミヤゲにするなんて・・。惜しいと言うか怪しい、どうも怪しい。」笑いながらも探るような大将の視線が絡み着く。

「十六、七の可愛い、ばあ様じゃないのか?」

一瞬、チクシの顔を思い浮かべてしまった。

大将。それを見透かしたのように、立ち上がってトシをど突いた。

「わかった。わかった。ピチピチの、ばあさまに宜しくな。」と、工房を追い出された。ガハハハと大将の大笑いに送られて工房を出たトシだった。


帰省の日。

チクシは男物の服装に着替えた。皆、商人が持つ護身用の細身の剣を腰にはさみ、昼前に出発する。今日はチクシもいることだし、強行軍ではない。途中の三瀬あたりで一泊する予定だ。道中も休み、休み、話、話、の旅行気分。

途中休憩の雑談で(じょ)(ふく)が話題になった。「お前がケンに紹介した徐福の湯、温泉に行って来たよ。気持ちよかった―。」

キジに話しかけるとチクシも「徐福の?温泉?」と乗ってきた。

皆、邪馬台国出身なのだ。徐福の名前を知らぬものはいない。

そうはいっても卑弥呼の時代から四百年以上遡る秦の始皇帝時代の人物。実在の人物かは誰も知らない。海からわたってきたエライ人。邪馬台国の繁栄は農耕・治水等の新技術の指導の賜物と敬われているだけだ。

徐福と言えば、キジの近所に古い祠があって、そこが徐福伝説のお膝元なのだそうだ。「徐福は仙人になる為に修行する方術師。有明の海に着岸し金立の地に住みついた。不老不死の妙薬を探しに周辺の山々の草木を探索、歩き回るうちに温泉を見つけたそうなんです。」と伝説を紹介した。

「温泉だけなの?クスリは?」薬学専攻のチクシはそちらの方が気になる。

「クスリも見つけました。蓬莱山とも呼ばれる金立山でフロフキ(カンアオイ)という薬草を・・」

「ハハハ、不老不死だから縮めてフロフキか・・」とトシが笑った。

チクシも「でもあれは咳止め去痰のクスリよ。あれ飲んでも不老不死にはなりっこないわ。クスリは反面毒でもあるんだから飲みすぎると腎をやられるのよ。」と異を唱えた。

「そういう事なら、徐福も不老不死の妙薬と違うとわかったんでしょう。しばらくして金立を立ち去り戻ってこなかった。」

「何処に?」

「皆目判らないんです。いろんな説があって。不老不死を求めてアチコチ行ったんでしょう。残された愛人が悲しみのあまり入水自殺したってことですがね。」

「結局、発見したのは温泉だけか・・。」

キジは徐福の名誉を回復したいらしく「それでも農業指導のお蔭で国力アップになんたんです。だから神様になってるんです。」とムクれた顔で反論する。

次いで「方術師とか仙人はどんな能力を持っているんですかねえ。空を飛べるんだったら自分も仙人の修行するんだけど・・」と話を変えようとした。

チクシはさすがに仙人にはついていけないと思ったか「温泉ねえ。温泉に浸かると何に効くの?」と医療に関連ありそうな方に話を戻す。

「温泉はどんな病気にも効きます。」

「ほんとぉ」と疑いの眼。

「美人にもなっちゃうんですよ。」

「美人?聞き捨てならない単語がでてきたわね。」

チクシは少し考えて「うーん。そこに行こ。行こうよ。トシもそこで泊まったんでしょ。」と言い出した。

「エッ。今からだと夜になっちゃいますよ。三瀬はそんなに遠くありませんけど・・・。」難色を示した。

トシも「お湯は良かったし疲れも取れるけど・・。不老不死の薬草がそうならないのなら、美人の湯も美人にならない可能性が高いんじゃないかハハハ。」と笑った。

「まあー。徐福をバカにして。なおさら行きたくなっちゃった。美人が正しいか私で実験よ。」

言い出したら主張が通るまでアレコレ言う、チクシのワガママ体質が現れた。

「へえー。行くんですか。じゃ急がないと。」と行先変更で脇道にそれ、西方向を目指す事になった。

道すがら温泉も悪くはないと思いながら、ついチクシの入浴シーンを想像してしまった。想像が妄想に変わる時、それを見通したようにチクシの声。

「あんた達。シッカリ見張るのよ。」

厳しい顔をしたかと思うと「ハハハ。ビフォーアフターが楽しみー」・・・いい気なものである。


川沿いに歩く景色がほの暗く変わり、星もその数を増やしていく。満月の明かり。それで、どうにか歩けるが歩くペースが遅くなる。もう目的地は近いとはいえ、あたりは暗く周りの草木が風に揺れガサゴソと音をたてる。夜行の野生動物が出てこないとも限らない。

と、明かりが見えて到着かと期待したが、それは少しずつ動いてくるタイマツの明かりだった。こちらに気付いて、歩みを速めたように灯りが近づいている。

「ちょっと見てきます。」ハッとした表情で飛び出したキジが慌てて戻ってきた。

「あいつら怪しいです。山賊かも。」その言葉に緊張感が走る。思わず護身刀に手を伸ばした。

「だとしたら私が奴らを引き付け、突破して向う側に逃げます。お二人は嘉瀬川の茂みに隠れてやり過ごして下さい。居なくなったら元来た道を引き返して下さい。こちらが三人とわかっていなければいいんですが・・」キジが危機を回避する作戦を口にした。

二人は茂みに身を潜め賊の動きを窺う。キジは身を屈めて灯に近づいた。

大丈夫だろうか。それでもキジは音を立てずに素早くタイマツの前に姿を見せ、即座に脱兎の如く逃げた。逃げる。逃げる。

賊連中は獲物が急に目の前に現れ、ビックリしたが、すぐに刀を振りかざしどなり声をあげて追いかけ始めた。しかし暫くして「ギャーッ」と叫び声。「何だこれは」「イテーッ」「あいつ何かバラマキやがった」

タイマツを近づけて確認した男が「こりゃヒシの実だ。殻を撒きやがった。」「バカ野郎、取り逃がしやがって」リーダー格の男が手下を怒鳴っている。これで引き揚げてくれれば・・と祈る気持ちになる。

しかし一人が「何人かいたように思ったんですが・・」と言い出した。背筋が凍るおもいとはこの事だろうか。「確かか?」「判りませんが。」「バカ野郎。まだ誰か残っているかもしれん。探せ。」「ヘイすみません。」

マズイ・・トシが護身刀の柄に手を掛けた。その時、近くの雑木林の上の枝が揺れる音。手下が「何かいるぞ」と走り出した。ウキッ、ギギギギギと甲高い叫びで木から木に飛び移る黒い影。「猿じゃねーか。バカヤロー」賊たちは諦めたよう元の道に戻って行く。タイマツの灯が遠ざかった。


「ふう。助かった。」

気が緩んだ途端、恐怖心が改めて襲ってくる。灯りが完全にきえて暫く。ようやく動く事が出来た。

「戻ろう」力なく歩き始めたが三瀬の宿まではかなりある。疲れか出てきたところに畑が開けた場所にでた。近くに人家は見当たらないが畑の中に小さな小屋がある。農具や資材を保管する粗末な納屋だった。

「仕方ない。今夜はここに泊まろう。」

「悪かったわ。あたしが温泉に行きたいなんて言い出さなきゃ良かった。」

「俺も判断を間違えた。まあ無事で良かったさ。」

「キジは大丈夫だったかしら。」

「あいつはすばしこいし勇気もある。なんてたってマラソンの足があるからな。」

小屋に入るとギリギリ二人のスペースがある。藁も積んであったので敷けば寝床になりそうだ。

「それにしても猿のお蔭で救われたよね。」

「木の上で寝てたんだろうが、タイマツにビックリして飛び出したのが、我々には幸いだった。」

「そうよ、サルよ。」あの時猿が守護神と言われたことをトシも思い出していた「猿には感謝しなくちゃな。」と頷いた。

「そろそろ寝るか。」と言ったものの先程の事件の興奮がさめず寝付けない。

チクシも同じらしくゴソゴソ手荷物の袋から水筒を取り出した。

「これは眠り薬なのよ。」と差し出す。ゴクッと飲むと酒の味。それでも効果はあって眠りに落ちることが出来た。


 その晩、トシは夢を見た。何とチクシに覆いかぶさり求めている自分の姿を。甘い体臭に誘われて・・チクシに「そこじゃないのよ」と手を添えて導かれ、ようやく果てるという夢だった。

夜が明け起きてみると下半身が汚れている。これが夢精というものなのか?夢とはいえチクシには知られたくない出来事。なんという失態と、当惑しているところにチクシが現れた。

「早くしてくださいね。私はそこの川辺で身繕いしてきたから。」いつもとは違う新しいチクシの表情が気になった。

あわてて川に下り顔を洗い、あたりと窺いながら下半身も洗った。服の藁屑を払落し小屋に戻った。

「誰かに見られると怪しまれるわ。早く行きましょう。」

歩きながら「昨日は眠り薬が効いたよ。」と照れ隠しの笑顔で話しかけたがチクシは「そうお。あたしはちょっと眠れなかったわね。」と寝不足を訴えた。

「あんな小屋で寝るのは滅多にない経験さ。」眠れなかったというだけあって今日のチクシはおとなしい。あまりしゃべらず歩いたせいか思ったより早く邪馬台国の関所に近づいた。


川の水で咽喉を潤しながら旅の最後の休憩をとる。チクシがポツリと言う。「おばあ様のお許しが出ないともう会えないかもしれないね。」

講師の道に進めば同じ一大率に居るのだ。「会えるさ。おばあ様も許してくれるよ。」。と根拠のない慰めを口にした。

「もし、万が一、おばあ様のお許しが出なくても、俺が書記官として一人前になったらお前に会いにいくから・・」結婚と云う言葉は出なかったがそれが伝わって欲しい。そんなつもりでチクシを見た。渡すのは今しかないような気がする・・。

「渡したいモノがある。」荷物の中に大事にしまっていた皮袋の中味。例の勾玉を取り出してチクシに見せる。

「わっ。これ?こんなもの、どうしてあなたが持ってるの?」塩ジィの紹介で工房の頭領に会い、祖母の土産として譲り受けた経緯を正直に話した。

「それじゃ、おばあ様に渡すものじゃない。」咎める口調で首を縦に振り「ダメッ。」と拒否される。

「今はお前に渡したいんだ。祖母は役人として正式採用された事で十分喜んでくれる。土産は次の機会でも良いのさ。」

「おばあ様は何処にいらっしゃるの?」ヤマタイ本部から少し離れた久保泉に居ると地面に地図を書き説明した。

「一人で住んでいらっしゃるのでしょう。大事にしないと。大事な方にはふさわしい贈り物で思いを伝えるべきよ。出来る時ににね。」チクシは受け取るのを逡巡しているように見える。

 「ホントにお前に渡したいと思っているんだ。受け取ってくれ。」なおも促すと。チクシは黙ってその勾玉を暫く見ていた。

「有難う。ではこうしようよ。あたしの持ってる鏡を渡して。それならこれを頂けるから。」取り出した鏡はコンパクトタイプながら漢代につくられた中国鏡。彫りも複雑で装飾が細かく連なっている。おばあ様の使い古しと言うが上等の品で間違いない。

「お前の鏡も立派じゃないか。お前のおばあ様も巫女だろ。普通の巫女が持てるものではないぞ。」そういえばチクシは巫女頭の孫というウワサを聞いた事があった。

「エッヘン。あたしのおばあ様は巫女の中でも高い地位なの。」

女王卑弥呼の下には千人もの巫女・侍女が居るという。「巫女頭なら持てるかも。ナンバー二か三?」

「エッヘン。そのあたりね。」

あまり高い身分だと将来申し込んだ時位負けする・・。

と、考えている時「ねえ。記念に何か一文字書いてよ。勾玉に。」とチクシが言い出した。「エッ。これに書くのか。これを作った頭領は自分を人間国宝と豪語してるんだぞ。国宝級の勾玉に書くって、彫る事だろ。もったいないのじゃ・・」

「イイの。一文字だけよ。」貰った以上、彫ろうがどうしようが、あたしの勝手でしょと譲らなかった。

 どうせ彫るなら好きだと伝えたい。トシは石ナイフを使って彫ろうとするが硬さに負けている。仕方なく護身刀の切っ先を用いて文字を書く事が出来た。好きという字のヘン部分「女」と言う文字である。

「何よ、これ。」

「女らしくなるよう願いを込めたのさ。」

「志とかもっと、らしい字を期待してたのに・・。」と口をとんがらせる。

「堅いからさあ、この石。簡単な字にしたんだよ。」

「ヘターな字。書記官として一人前になれるのかな」こいつはブツブツ。見えないツクリ「子」の字を、想像出来るタマではないのか・・。


 チクシは衣服を女物に変え、関所に向かった。例の如く多くの兵士に囲まれたが、学生証を見せて切り抜けた。

チクシはヤマタイ本部がある平野に至る前の坂道で、左に通じる小道に折れた。こんな道があったのか?

しばらくすると死角になって見えなかった門が見えてくる。驚いたのは門の前からビッシリ兵士が整列している事だ。こんな山の中に何の為の兵士なのか?

チクシが進み出て責任者とみられる男と会話を交わした。巫女頭とみられるおばあ様の名前を告げたようだ。しばらくして門が開き二人は中に入ることを許された。

門の中にも夥しい兵士が警備している。

「俺も入っていいのか?」

「いいの、おばあ様に会わせたいの。」

「ここは何処?」

「卑弥呼の宮殿よ。」言われてみればこれだけの厳戒体制は宮殿敷地に違いない。

「ここは裏門、正門も含めて人目に付きにくい所にあるの。」点在する建物を縫うように進むと奥まったところに大きい建物が高い木々に隠れるようにみえてきた。そこは更に柵で囲まれて、兵士が守る門がある。

チクシが門からでてきた若い巫女と言葉を交わした後、二人は中に入るのを許可された。そこは宮殿とみられる建物の、離れになっていた。

チクシは巫女頭とみられる貫禄のある女性と話して奥に消えた。あの方が、おばあ様かと緊張する。

トシが待っていると先程の若い巫女が手招きして中に案内してくれる。庭園に面したこじんまりした部屋に通された。おそらくあの貫禄の女性と面会するのだろう。、ただ、おばあ様にしては年齢が若そうにみえたが・・。

しかしチクシを伴って部屋に入って来たのは、別の老齢の女性だった。衣服の裾さばきも鮮やかにトシの正面、一段高い首座に着座した。長い白髪、目つき鋭いおばあ様は存在感強烈で圧倒される思いになる。

チクシはにこやかに、おばあ様の側に座り「こちらが学園で共に学んできた友達。トシです。将来はヤマタイの通訳になる夢を持っているの。」と紹介した。

トシも笑顔を作り「チクシさんには何かとお世話になっております。同級生でトシと申します。宜しくお願い申し上げます。」と頭を下げた。こんな自己紹介で良いのかと恐る恐る頭を上げて気が付いた。

おばあ様は、こちらを全く見てないのだ。チクシを見つめながら、こちらの言葉だけ聞いて頷いている。

何か声を掛けて貰えるのかとおばあ様の口元を眺めていたが「チクシの祖母です。」とチクシに向かって言葉を発しただけ。

「では、これで・・」と言い残して立ち去ってしまった。チクシも共に去り、再び、一人取り残されてしまった。

ショックだった。

気に入られたという手ごたえ度、ゼロ。取っ付き難いというよりハナから相手にされて無い。自分のおばあちゃんとなんたる違い。あの女性がチクシと血が繋がっている?

卑弥呼様に長年仕えておればああなるのか?チクシも?

宮殿では外部との接触を極力控えるとは聞いていた。これが当たり前の対応なのか?ハテナが渦巻く。大失敗した後の気分で待つしかなかった。

 二十分は待っていただろうか。チクシがにこやかに現れ「学ぶことが残っておれば、学園にしばらく居るのを許しますって。」と万歳した。希望の進路が了承されたのだった。

「それからね。これは、おばあ様からの贈り物。」

渡されたのは螺鈿細工の施された鉄製小刀。しかも刃先の光沢はあきらかな一級品だ。よくみると柄のところに「子」の字が。

「あたしも簡単に書ける字にしたわ。トシがうんと賢くなって、師と仰がれるように。子曰く・・と後世に名を残すように。」

 「しかし、おばあ様、俺の事、気に入ってないんじゃないか?」

「いつもああいう人なのよ。」

「でも威厳あり過ぎ!ビックリした。」

「ごめんなさい。気にしないでね。」

 別れの時が来た。チクシはこちらの用事をこなして一大率に戻るので遅くなるとのことだ。船便で帰るので新学期ギリギリかもしれないという。

「勾玉有難う。大事にするわ。」

「じゃあ一大率で会おう。」トシは兵士が居並ぶ門を出た。

巫女達、巫女頭のおばあ様、兵士達全て、卑弥呼の館は異空間だ。

それにしても俺の事、無視しているようにしか思えなかったが、あれは俺の事よりチクシの事を心配していたのか?それは俺がチクシを託せる程の男じゃないという事ではないのか?おばあ様の対応に疑問が湧く。

次に会う時には、おばあ様からキチンと見られて、品定めに叶うような一人前の男になっていなければ。と改めて自分を戒めた。

チクシが再び、この異空間に戻って、取り込まれてしまう前に申し込まねば。・・。そう思いながら、ここ卑弥呼のあるニイヤマの地から、久保泉に向かった。 


 当然ながら実家の祖母は顔をくしゃくしゃにして迎えてくれた。これで父子揃って書記官の道を歩むことになる。代々書記官の家柄なのだ。御先祖様にもいい報告が出来るというもの。張り切って食事の支度に取り掛かり、出てきた品数食べきれない程。その一つ一つに祖母の暖かさをかみしめる。

 鏡をわたすと「こがんもの、ぞーたんのごと。わたしにゃ用なかよ。」といいながらもしげしげと眺めている。「おいが顔みるとやなくて、こいば見てあさんのこつ、おもいだすごとすっと・・」ヤマタイ弁丸出しである。上等な品とはわかってもらえたようだ。

 上等な品物といえば、今日貰った小刀の事を思い浮かべた。素晴らしい刀だ・・そういえば・・と想像が拡がる。俺が渡したものに女、貰ったものに子。偶然の一致かどうか。

あるいは同じ気持ちを表す意味で子と書いたのか?。好きだ。・・とそう思うだけで幸福が満ち溢れてくる。勘違いでも何でもいい・・。


 実家は心地いいが、キジのその後が気になって(きん)(りゅう)を訪ねることにした。目印は徐福の祠。尋ね歩くとすぐにわかった。日用品、食料品、酒を商う商家がキジの実家なのである。商人に生まれ武人を目指し仙人に憧れる。ホント面白い奴だ。

 キジは元気良く飛び出してきた。

「無事でなにより、良かった。」

「先輩たちこそ大丈夫でしたか?」トシは事件の顛末を話した。

「賊がわめいて痛がっていたが、何したんだ?」

「あれですか。(まき)(びし)の術を使ったんです、へへへ。」

撒菱とは、ヒシの実の食べた殻を乾燥させた加工品。地面にバラ撒けば、三角のトゲのいずれかが足裏に刺さる仕組みを考え付いたという。

「初めての実地試験が成功で良かったです。ハイ。」とこともなげに言う。

ヒシは邪馬台国の農業生産を飛躍的に高めた治水システム、クリークや溜池に生える水草で、その実は栗に似た味がする。それを武器に転用する発想が面白い。

「マキビシがダメなら護身刀を投げつけるしかないと思ったんです。もったいないし刀は一つ。ま、あの時は使わずに済みましたけどね。・・そこで今、刀に替わる護身用武器を考え中です。小さくて持ち歩けるものを考案中です。魔除けや装飾に使う巴形銅器や四葉型金具があるでしょう。あれを改良して尖らせれば致命傷はムリでも手傷負わせて逃げることが出来るのではと・・」

「お前は人の考えない事を思いつく奴だなあ。」

「へへへ、金立に伝わる教えに大事なものは葉隠(はがくれ)に有り・・てのがあるんです。」キジは葉隠について説明し始めた。

「徐福が不老不死の薬草を探す時の指針です。葉に隠れ、忍んだ場所に新種の植物があると、人目に付かない所を探したことから来てるんです。転じて、人が考えもしない事を思いつけば大きなメリットが得られる。大事なものを手にできる・・て事になります。我が家の家訓でもあります。」

「ほう、さすが商売人の家訓だな。皆が気付く前に売れそうなモノを手掛ければ大儲け出来るってことだな。」

「もう一つの家訓が商いは飽きないと云うのがあります。」

「ハハハ。どうしたら儲かるか考えるのは飽きない事だろうからな。お前は商売人にも向いているんじゃないか。新しい事考えるのが得意なんだから・・」

「チクシさんにも言われたことあるんです。そうかなあ。私は武人として新型武器を考えているだけなんですけど。」

「チクシといえば一大率学園に残れるそうだ。ただ帰りは今回のことで懲りたのかなあ。海路にするという。我々は一緒に山越えしよう。」一大率に戻る日取りを取り決めた。


トシとキジが戻ったのは三月も下旬。ケンとも再会し新しい仕事に負けないようお互いを励まし合った。 


その頃、中国遼(りょう)(とう)地区では・・。

司馬懿(しばい)の大軍と母丘倹(かんきゅう)の駐留軍が合流し、来るべき戦いに備えてしばしの休憩をとっていた。高句麗等の周辺国も援軍を出しており、これらも軍団に加わっていた。公孫討伐の体制は整ったのである

・・こうした遼東情勢の情報はヤマタイ本部にも届いていた。(あらかじ)め決められている帯方郡への朝貢の時期が近付いている。本部は朝貢団の人選を進めていた。


トシが一大率に初登庁する日になった。これまでも公務員扱いだったとはいえ、学生は学生。社会人としての大本番が始まった。未知の仕事を一刻も早く覚えるのだ。

祖母から言われた事を改めて胸に刻む。「どんな雑用でも進んで受ける事。早く顔を覚えてもらう事。大きい声で挨拶なさい。」

心して一大率事務所の門をくぐり書記官室外交部に入室する。

とたんに「お前がトシだな。長官がお呼びだ。長官室に急げ。」と室長の大声が飛んできた。

しまった。先に挨拶すべきだった。後悔しながらも口を動かした。出来るだけ大きく「ハイ。私が新任のトシであります。今後とも宜しく・・」と言いかけるも、一喝された。

「挨拶はいい。先に長官室だ。」

戸惑うばかりだ。新任挨拶は長官に先にするものだったのか?

ともかく、言われたことを済ませねばならない。扉を開けて「失礼します。」長官に向かい丁寧なお辞儀をする。

「おう、お前か。仕事を言い渡す。六月の帯方郡への朝貢団に通訳として参加せよ。以上だ。」

「えっ。」新人がこんな反応するのは不適切。だが何かの間違いではないかと思わず声がでた。

「帯方郡へ派遣する朝貢団の人選が決まったのだ。正使は邪馬台国の難升(なしめ)米殿、副使は奴国ズバコ殿、長官兕馬觚(じばこ)殿の息子だ。通訳がお前だ。」

キョトンとしているトシにかまわず長官は続けた。

「通訳は難升米殿の秘書役でもある。朝貢品の準備責任者でもある。前回に習い万端遺漏なく遂行せよ。」

繰り返して通訳と言い渡されたのだ。間違いはなかろう「ハイ、謹んで拝命いたします。」としか言いようがない。

「よし。」と長官の表情が少し緩んだ。

しかし納得はいかない。思い切って「長官、質問をお許し頂けるでしょうか?」と言ってしまった。

「なんだ?」

「何故、私のような者が人選されたのでしょうか?」

異例というよりムチャクチャな人事である。通訳実績もなく、実務経験でさえ無い人間が外交団通訳とは・・

「こっちが聞きたいくらいだ。ヤマタイ本部から何の相談もない命令で来たからな。これまでは通訳の選任は一大率に一任されていた。しかし、命令は命令。否とは言えぬ。」憮然とした表情で長官が答える。

続けてトシに鋭い視線を向けた。「この仕事で失敗は許されんぞ。俺にも迷惑が掛かる。仮に失態あれば打ち首も覚悟せよ。」厳しい言葉がトシに突き刺さる。

「書記官室にはお前に他の仕事をさせぬよう指示してある。言われてもそう断るのだ。この仕事に専念せよ。通訳として技量未熟は言訳にはならんぞ。学園の中国人講師からの学習は長官命令で協力要請しておく。以上、下がってよし。」

初登庁そうそう、トンデモナイ命令が降りてきた。目の前が真暗になる思いで書記官室に戻った。



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